第263話 ツンデレ少女の想いを受け止める
チー視点に戻る
しばらく、ベンチに腰を掛け数十分経った。ランは跡地をみつめたまま無言だった。俺ももちろん無言だ。まあ人身売買やってたんなら、そりゃ、嫌な思い出だよな。知らんけど。
そろそろ休めたし、速く帰ってゲームしたいと思い、立ち上がる。しかし、ランは全く立ち上がらない。
「あの、そろそろ帰りたいんすけど」
俺が声を掛けても無視だ。なんだこいつと思って俺は帰ろうとしたのだが。
「待って!」
ランが俺を呼び止める。最初から反応してくれやめんどくせえ。だが少しランは焦ったような顔だった。
「まだ休みたいんならいいですけど、ちゃんと言ってくだ――」
「ねえ、チー」
「え?あ、はい」
俺の言葉を遮るラン。その目は少し、決意のこもったような、光が宿っているような、そんな感じだった。なにか、大事なことでも思い出したのだろうか。
「あの、ね?あたしのこと、どう思ってる?」
「え?前にも言いましたけどツンデレパワハラ上――」
「真面目に。あんた、こんな素直になれないあたしのこと、やっぱり、嫌い?」
「え?あ、俺の家にいること気にしてるんならいいですけど、別に。俺に危害加えなければ」
「そうじゃないの、あたしが嫌か、嫌じゃないか。もし、嫌なら、治すから。アタシ、チーに好きになってもらえるように頑張るから、素直になるから、アタシを見てほしいの!」
「待て待て待て待ってください、怖いですから、いきなり何なんですか」
ランが急に話を強引に押し進める。確かにツンツンモードは嫌だけどさ……。
「ご、ごめん。あたし、人との関わり方不器用でさ。えっとね、あたし、あ、あんたのことが、す、すすす、好きなの……」
いやさすがに無理なんだが、怖いんだもん。なんでそんな冗談言ってくんの?俺は周りに覗いてる奴がいないか気配察知を試したが、特に悪意のある人間はいない。ただの通行人しかいない。ガチで言ってんのか?んなわけあるか。
「いや、ほんとそう言うの良いんで」
「良くないの。真面目に聞いて。あたしは、ずっとチハルの呪縛にとらわれていたのを、あんたは何気ない顔で救ってくれたの。アタシは生まれて初めて、何にも縛られない自由を手に入れたの。あんたがいなかったらアタシは……それだけよ、それだけだけど、すごく嬉しくて、恥ずかしいけど、あたしにとっては王子様みたいな、そう思ったのよ……」
ランは本当に真面目に話している。ユイの言っていた、ランは俺のことが好き、というのは、本当だったのか。じゃあ最近のデレ要素が多いのも、それの影響?
「でも、あんたはもう二人も彼女がいるし、多分、あたしなんか眼中にない。だって、ね、こんな、全然素直になれなくて当たってばかりのあたしなんか、嫌だもんね……」
「……いや、別に、嫌では、無いっすよ」
「嘘。あんた明らかに嫌がってたじゃないの」
「えっと、まあ、素直になれないのは誰にでもありますけど、その、たまに出るデレが、まあ、そのギャップが良かったりするんで。
「え?は?ギャップ?」
「ていうか、素直になれないのは分かりますけど、いつも俺にあんな態度してたら、誰だって自分嫌われてるんだな、距離取ろうって思うのが普通だと思いますけど。俺もランに嫌われてると思ってましたし」
「それは、悪かったわよ。ちゃんと、アタシも素直になるから」
「いや、いつも通りでいいです」
「え?」
ランは驚いて俺を目を丸くして見つめる。
「な、なんでよ、嫌だったんじゃないの?」
「いやまあ、今までは嫌でしたよ、ランの本音なんて知らなかっですし。でも、ただ素直になれないだけって、正直に全部話してくれたので、まあ、まだ完全に信頼はしてませんけど。その、ツンデレも可愛いし」
ランは急に立ち上がって顔を赤くして叫ぶ。
「は、はあ!?か、可愛いって、そんな、こと、言われたことないのに、嘘つかないでよ。アタシなんか、強気で怒りっぽくて」
「でもデレたら可愛い」
「ちょ」
「ツンもデレも含めて、ランじゃないですか。俺のために変えなくていいすよ。なんか気遣われてるみたいですし。俺が嫌なので」
「い、いいの?あたしは、あたしのままで……」
「はい」
「好きになってくれないなんてことは」
「いや、まあ、分かんないですけど、一応信頼は多少してます」
「す、好きとは言ってくれないのね」
ランは少しだけ寂しそうにうつむく。
まあ、ランもたまに見せるデレとかは普通に可愛いんだけどさ。チハルとの戦いの中でも俺を何度も守ってくれたりして。かっこいい一面もあって。
まだランが本当か嘘か分からないにしても、ここまで思いを伝えてくれた。周りを警戒しても、恐らくいたずらでもない。恐らく本心。この世界は一夫多妻制、ハーレム許容。
俺はランを受け入れてやってもいいんじゃないか?
「チー」
「え、はい」
「じゃ、じゃあ、き、キスしてよ」
「え?え、あ、えっと」
「やっぱ嫌なんじゃない」
「いや、その、キスされたなんて訴えたり」
「しないわよ!……ふふ、やっぱあんたらしいわね」
ランがくすっと笑う。そう、そのたまに見せる笑顔が本当にずるいんだよな。彼女も普通の女の子なんだよな。
「……やっぱ笑った顔が一番かわいいっすよ」
「へ?ん……」
言われた通り、俺はランにキスをした。ランは普通に受け入れた。俺の中の幸せホルモンが分泌されていく。しばらくして、唇を離す。ランも幸せそうな顔をしていた。
「好きよ、チー」
「えっと、あ、はい。俺も」
「ほんと、そのしゃべり方どうにかならないのかしらね」
「これが俺ですから」
「そうね」
ランからの告白を、どもりながら受け取る。また見つめ合い、もう一度顔を近づけるが、ふと周りを見ると、いつの間にか、俺たちを見るギャラリーができていた。
「ラン、家に瞬間移動して」
「え?どういうことよ」
「周りを見てください」
「周り……?」
ランは注目されていることに気づき、速攻で顔を赤くする。そしてすぐに瞬間移動を発動する。
「み、見せもんじゃないのよ!!!」
そう叫びながら俺たちは姿を消して、家に帰ったのだった。
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『ただいま……』
「あ、お帰り!……その様子だと成功したっぽいね、ランちゃん」
「おかげさまでね」
ユイは俺たちの雰囲気を感じ取ってフフっと笑う。やっぱりユイの仕業だったか。シオリーと付き合う時もユイが関わってたよなあ。
やばいな俺、3人も彼女がいるのか。元々ユイとシオリー、2人いたんだし、今更一人増えても変わらんとは思うが。まあ、もう増やす気は絶対ないが、好意を向けられれば分からんな。
くそ。イケメンは辛いぜ……。ブサイクに比べれば幸せな悩みではあるけどな……。




