第219話 嫉妬は人を狂わせる
「お、おい、なんか血生臭くないか?」
「た、確かに……チー先輩、なんか入っちゃいけないところに入ったのでは?」
「全責任はレッドにおしつけてください」
「ふざけんなチー!お前も共犯だぜ!」
ふざけんなレッド。
俺たちは暗く湿っぽい、薄暗い空間に来ていた。徐々に漂い始める血生臭さ。なんか昔やったホラーゲームを思い出すな。突然廊下からでかいガイコツとか襲ってきたり……。
やっぱりあのセオリーとかいう男、やばい趣味でも持ってたのか。クソ、やはりレッドを止めて――
「ひうっ!?」
「シオリー?」
「こ、これ、人骨……ですよね?」
シオリーが指さすところを見てみると、確かに、腕か足なのか、白い骨のようなものが転がっていた。ますますヤバくなってきた。帰りたい。ホラゲは苦手なんだよ。
「レッド、帰りましょう。さすがにやばいですって」
「確かに……これはちょっとまずいかも」
レッドですら引いてんじゃねえか。早く部屋に戻って、ユイたちがどうなっているか分からない。すでにセオリーが部屋に戻ってるかもしれない。不安で鼓動が速くなる。
レッドが来た道を振り返り、足を踏み出した瞬間、わずかに風を切る音が聞こえ、すぐに俺は魔法銃を取り出し、レッドの目の前に向かって撃った。その瞬間、岩が砕ける音とともに、パラパラと破片がレッドの足元に落ちていく。
ストーンニードル……詠唱の声も何も聞こえなかった。気づいたのは俺だけ……もしレッドが単独で動いてたらレッドの顔面にこれが刺さって……
「な、なにが起きた?」
レッドも目の前の状況に困惑している。俺はストーンニードルが飛んできた方向を見る。現れたのは……セオリーだ。笑顔でゆっくりと俺たちの方へ歩いてくる。片手には杖を、もう片方の手には髪の毛を掴んで人を引きずっていた。
その人は服も何も着せられておらず、まるで奴隷のような扱いだ。わずかながらに息をしているようにも見える。
「勝手に屋敷を散策されては困りますよ」
セオリーは笑顔を絶やさずに俺たちに注意する。いやまあセオリーの言う通りなんだけどね。
「お、お前、一体何者なんだよ!まさか、調査員やパーティも、お前が……この地下に?」
レッドが叫ぶ。セオリーは楽しそうに答える。
「はい、いますよ?今引きずってる人間は昨日のパーティメンバーだね。ああ、調査員、は誰か知らないけど、そいつは多分もう”僕の中”にいるよ」
「は、は?お前の中?」
シオリーは何となく意味を分かってしまったのか、ぶるぶると身を震わせ始める。
「お兄ちゃん……?嘘、ですよね?」
「嘘じゃないですよ。僕は魔法師を全員、僕の中に取り入れたんです。ああ、剣士はいらないから殺してそのまま肥料にしましたけど」
「取り入れた?肥料?どういうことだよ!」
「ええ、そのまま言わないとダメですか?料理して食べたんです」
「は?」
こっわ。カニバかよ。普通同族食ったら副作用ヤバいんじゃねえの?あ、すでにこいつ狂ってるから問題ないのか。知らんけど。
「美味しかったですよ?水魔法が得意な人間はみずみずしい味で、火魔法が得意な人間は香ばしくて、風魔法が――」
「んなもん聞いてねえよ!」
レッドが思わずツッコむ。俺もこういうグロイのはあんまり聞きたくないなあ。レッドがまともで良かったよ。
シオリーは震えながら、蚊の鳴くような声でセオリーに問いかける。
「な、なんで、こんなこと?お兄ちゃんは、こんな人じゃ……」
セオリーは、まるで家族に振る舞うような笑顔で答える。
「ああ、可愛いシオリー、そして憎い憎いシオリー……全部君のせいなんだ……」
「私の……せい?」
「ああ、君のせいだよ。僕はね、君の魔法の才に嫉妬してしまったんだよ。僕は、君ばかりあの両親に褒められて、うざくてうざくてうらやましくて……両親は僕のことを見てくれてなくて……ああ、ああああ僕もシオリーみたいになりたい、シオリーみたいに魔法を扱えるようになりたい……でも僕にはそんな才能はない……”僕を見てくれない両親はいらない”……」
この瞬間、シオリーの眉がピクリと動いた。
「まさか……お兄ちゃんが……燃やしたの?」
「え?そうだよ?」
シオリーは拳を握りしめてわなわなと震え始めた。そしてどす黒く、紫色のオーラを纏い始める。闇魔法……やはりシオリーは闇魔法を扱えたんだ。制御できなくなったらまずい。しかし、セオリーは話を続ける。
「まああんな親のことはどうでもいいんです。僕はシオリーを超えるために、独自の方法で魔法の頂点に立つことを決めたんです。まあ、最初は苦労したけど。まずシオリーに直接話を聞きたくて、村の魔法師を集めて、シオリーを忌み子と吹聴してシオリーを捉えさせたのですが……使えないですね、まんまと逃げられてしまって」
シオリーをあんな目に遭わせたのはお前だったのかよ。こっちは大変だったんだぞ、シオリーが自分の事を忌み子だ忌み子だって超ネガティブモードになって。……まあ俺もネガティブなことに関しては人のこと言えないけど。
「逃げられたことは仕方ないから、シオリーがいつか戻ってくると信じて、追うことはせずに村に居座ることにしたんです。シオリーの本も読みました。でも、これだけじゃだめだと思ったんです。僕は僕の才能の限界を分かっていたんです。どうすれば、シオリーのようになれる?誰かに褒めてもらえる?それなら……取込めばいいじゃないですか。僕の中に、優秀な遺伝子を」
セオリーが話し終えると、シオリーは完全に闇に飲まれそうになっていた。キッとセオリーの方を睨んでいる。まずい、シオリーが以前の俺のように暴走してしまえばめんどくさいことになる。どうする。
「さあ、可愛い可愛いシオリー、こっちへおいで。僕は君を愛しています。また一緒に暮らそう。魔法の高みを目指しましょう。あなた無しでは叶えられません。そして、どんな味がするのか……」
シオリーが手をかざしそうになった瞬間、俺はシオリーを後ろから抱き締めた。シオリーを止めるにはこれしか思いつかなかった。ぴたっとシオリーの動きが止まる。紫に染まっていた目の色は薄くなっていく。
「チー……先輩?」
「闇に飲まれるとめんどくさいから……」
「……す、すみません、ありがとうございます……」
なんとかシオリーの暴走は抑えられた。しかし、俺たちのイチャイチャ?を見てセオリーは額に青筋を浮かべていた。
「ぼ、僕の妹に、気安く触れるなあああ!!!」
狂ったセオリーが俺に杖を向けて来た。




