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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第5章 ギルド編

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第204話 多分強くなりすぎたかも

 


 レッドが自慢の速さでボスに突っ込む。そのまま攻撃するように見せかけ、ボスの目の前で一旦急減速し、裏に回った。さすがの脚力だ、あの速さで急に止まれるのは鍛えてる証拠やな。


 レッドは剣を振りかざすが、ボスはそれよりも速くレッドのわき腹にナイフを突き刺そうとした。


 レッドは避けきれないと思った俺は、すぐさま魔法銃でボスのナイフを持った手を狙い、命中させて手から落とさせた。レッドは一旦飛び退いて俺の隣に戻り、俺を見る。


「今のはチーが助けてくれたのか?」


「え、さあ、どうでしょうか」


「ああ、お前だな。助かったぜ」


 レッドの動きも確かに速かったのだが、単純にボスの反射神経の方が上で、動きもさらに速かった。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「仲良く話している暇があるんでしょうかね!」


 ボスはそのまま詠唱短縮で風魔法を器用に扱い、複数のナイフを複雑な軌道で放ってくる。これは6本、ちょうど俺たちのメンバーの数だ。しかも軌道は俺たちを正確に狙っている。


 てか、ナイフの動き、速すぎねえか?まずい、後衛が反応できてない。クラウドは自分とサンのナイフをうまく受け流したが、ユイとシオリーがナイフの動きを追えていない。


 俺はユイとシオリーを狙ったナイフにすぐ魔法剣をかざし、無詠唱の風魔法でボスに向けて跳ね返す。だがすでにボスはそこにはいない。いつの間にか前衛のレッドとクラウドがナイフで背中を刺されて倒れている。深くは刺さっていないからまだ大丈夫だろう……それて、次に狙われるのは、俺か?


 何となく上のほうから気配は察知した。


「チー君、上!」


 さすが、死角からだならレッド達も反応できないわけだ。上を見上げると、天井にナイフを突き刺し、ボスがぶら下がっている。そのまま俺めがけて飛び降りてくる。


 奴は短剣を俺に付き出してきた。俺も難なく剣で受けきった。にしても、ユイは魔眼で他人の魔素を識別して追うことができるからこそ気づけたが、俺も奴の気配を追うのは少し苦労した。奴は気配を消すのが異常に上手い。さすがは盗賊のボスって感じだな。


 短剣と剣の押し合いの中、そのまま俺は奴に蹴りを食らわせて吹き飛ばした。吹き飛ばされながらも、すぐに体勢を整えて着地した。


 こいつ、かなりトリッキーな戦い方だ。すると、ボスが素直に拍手してくる。


「君、すごいね、何者?」


「チー牛」


「ち、チーギュウ?よくわからん名前だ」


 ボスは首をかしげる。まあ仕方ない。俺は少し後ろに下がって、ユイに伝言を伝える。


「ユイ、クラウドとレッドを回収して治癒して。あとは思いっきりバリアを張って後ろに待機してて」


「え?私たちは戦わなくていいの?」


「こいつ、相手が複数の方が得意なように見える。錯乱させてこちらの陣形を崩しに来る。かなり強い。修行の成果も試したいし、1人で戦わせて欲しい。正直に言います。ユイ達を守りながら戦うのはきつい。でも、大丈夫だから、チハルたちに比べたら余裕だし」


「……うん。わかった。頑張って」


 そう言ってユイはレッドとクラウドの治癒に取り掛かる。


「へえ、良い判断だ。俺と一対一で挑んでくるか」


「まあ、そうですね」


「なら、遠慮なく行かせてもらうよ?」


 ボスが動き出す。足の向き、そして動きから、こちらに突っ込んでくるだろう。しかし、背中に回していた手からナイフを高速で投擲してくる。


 俺はあくまで動かずにそのナイフを剣で受け流す。飛び道具は相手を動かすためだろう。


 しかし、俺が剣を受け流した隙に、地を滑るような速さで目の前まで詰めてきた。俺はその拳を普通に受け止める。ただ、ボスのパンチの威力は高く、多少ぐらついてしまうが、足腰を鍛えたおかげで、なんとか持ちこたえる。


「な!?」


 お前は速いから、わざと近接攻撃を受けて捕まえるのが一番。俺は奴の殴ってきた腕を引っ張って引き寄せる。


「パンチってのはこうするんすよ」


「がは!?」


 俺は奴のみぞおちに拳を入れ込む。力の使い方を意識し、威力を最大限、内部まで響かせるように。奴はそれだけで吐きそうになり、地面に膝をつきそうなほどよろめく。


 だが、さすがは盗賊団のボス。すぐに距離を取って体勢を整える。


「くそ、ならこれならどうだ」


 奴は再び複数のナイフを宙に投げ、ナイフの数だけ風魔法で飛ばそうとした。あれは中級の風魔法の1つだった。


 俺は奴が発動しようとした魔法にかぶせて、同じ魔法を無詠唱で上書きする。すると、奴の風魔法はかき消されるようにパシュンッと小さな破裂音を立て、宙に浮かんでいたナイフはカラン、カラン……と音を立てて地面に落ちた。


 ボスは目を見開いて焦り始めた。


「な!?なぜ発動しない!?」


「えっと、相殺したから?」


「相殺?どういうことだ!?」


「えっと、相手の発動する魔法と同じ魔法をかぶせるように発動すると、相殺して発動できなくなる、らしいです?」


「そんなことが?でも、俺が発動しようとした魔法をそんなすぐに見極めて発動なんてできるわけないだろ!」


「できたんだからいいじゃないすか」


「なんなんだよお前!」


「チー牛」


 まあ、これもあの時の特訓のおかげで習得したテクニックなんだけどさ。




 ------




 ランとの修行中の話だった。


「あんた頑張ってるからちょっとした技を教えてあげるわよ」


「え?えっと、あ、はい」


「あんた適当に魔法を発動しなさいよ。なんでもいいわよ」


「え、あ、じゃあ」


 ランに言われた通り、適当に魔法を発動する。とりあえず無難にファイヤーボールを。俺の杖の先に、頭一つ分の火球が浮かぶ。


 何度も練習したおかげで威力と大きさが上昇している実感があるな。すると、発動した火球がポンっと消えたのだ。


「え?」


「その様子だと知らないみたいね。相手の魔法を解除できるのは、魔素が見える治癒師だけ……なのが一般的だけど、そうじゃないの」


 たしかに、ユイが相手の魔法を解除したところは何度か見たことはあるが……。


「ランさんは、えっと、治癒師ではないんですよね?」


「そうよ。ただの魔法師。でもあんたの魔法を解除できた。なぜか分かる?あんたが発動した魔法と全く同じ魔法を、あんたの目の前で放っただけ」


「そ、それだけ、ですか?」


「そうよ。同じ魔法は同時に共存できない性質を持つみたいだから、それを利用しただけ。だから、治癒師じゃなくとも、相手の魔法を封じることは可能なの。


 ライトニングランスみたいな複合魔法はあるけど、風魔法と風魔法をかけ合わせた魔法は見たことないでしょ?」


 そんなこと初めて知った。学園でも本でも習っていない。ランが自分で発見したのだろうか。


「まだまだ見つかっていない魔法の性質は未知数、これだから魔法の研究は面白いのよね……。あ、放しは戻るけど、魔法の相殺は一見簡単そうに見えるけど、瞬時に相手の発動する魔法を判断する能力が必要になるから、反射神経と魔法の知識も必要になるわね。


 一応、相手が無詠唱の使い手じゃなければ、詠唱の声から何の魔法が来るかは予想できるけど」


「す、すごいですね」


「と、当然でしょ?あんたとは違うんだから」


 ------


 まあ、そういう感じの魔法の知識を教えてもらったわけで、俺はその後、いろんな魔法の種類を勉強して、すぐに相手の魔法を見切る特訓もした。


 今回は実戦が初めてだったけど、上手く行ったようだ。


「こ、このまま、負けてたまるかよ……畜生!」


 ボスは切り札のような刀を鞘から抜いて掲げる。……あの刀も斬れるのだろうか。


 俺も剣を持って構える。そのまま、足を踏ん張り、風魔法で加速を爆発させ、一瞬で奴の目の前に接近する。そのまま、スピードを乗せた剣で、勢いを殺さず、失敗を恐れず、奴の刀をめがけて薙ぎ払った。そして、鋭い金属音が響いた後、ちゃんと奴の刀を真っ二つに切ることができたのだ。


「は……はあ!?」


 ボスが唖然とする。今、自分の持っている刀が使い物にならなくなったから。


 これもリンの特訓のおかげだ。スピードは足腰から。初速も減速も、スピードをうまく扱うには足腰の踏ん張りが重要。スピードを出すための恐怖心の克服、そしてそのスピードも、制御できずに突っ込んでしまえば終わり。俺に足りなかったものだ。


 そして、リンの言っていた、スピードを乗せた剣は刃さえも切り裂く、という言葉を信じてやってみた結果、本当に切ってしまった。すげえなこれ。今なら玄武の鋼鉄の身体も切れそうだ。


 ボスは刀を地面に落とし、戦意を喪失。そのまま、尻もちをついた。


「た、頼む……自首するから、命だけは……」


「いや、別に殺すつもりはないんすけど……」


「え?マジ?」


「俺に迷惑かけたわけでもないし、良かったっすね。俺の恨みを買わなくて」


「は、はあ……」


 俺は奴を地面から錬成した蔦で拘束し、一応ユイ達に報告しておく。


「終わりましたよ」


『……』


 皆唖然としていた。





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