第16話 馬車の中でも緊張しまくる俺
「ねえ、もしかして学園、不安?」
馬車の中、俺の隣に座るユリアは心配そうな顔で、俺を覗き込む。
そりゃ、不安で仕方がない。前世のクソみたいな体験を言うわけにはいかないが、学校に良い思い出なんてないからな。
あとは、お前が無駄に可愛すぎるせいで意識して仕方ないんだよ。いつお前が裏切って俺を嵌めようとするかなんてわからんからな。ついでにユリアの騎士とかいうめんどくさい役割も与えられて、いつ死ぬか分からないという不安。つまり全部お前のせい。
正直に不安と言いたいところだが、ユリアに気を遣われるのもあまりよろしくない。俺は冷静を装って不安を否定する。
「だ、だだ……大丈夫、でですよ?」
「あーうん、大丈夫じゃなさそうだね……。でもね、心配しないで!もしチー君に友達が出来なくても、私がいるから!」
うん。いいこと言った!ふんす!みたいな顔してるけど、なんか言い方ひどくない?
いや、嬉しいんだけどさ、俺が友達できないみたいな言い方はね?心に刺さるで?うんまあ、事実なんだけどね?
前世からの人間不信は未だ消えない。村にいても家族とユリア以外との関わりはひたすら避けていた。
そんな俺が、人が大勢いる学園で急にコミュニケーションできるはずがない。
そもそも、人ってどうやって会話してんの? 何をどう切り出せばいいかすら分からん。ユリアとすら、俺からの話題は何もないのだ。ユリアから話しかけてくれる上、1対1だからなんとかなっている。
あと、俺が話しかけたとして、相手がどう思っているのかが分からないってのが怖い。なんでこいつこんなこと話してくるんだ?的な。
さらに、学校のように、大勢になったとたんに、ただでさえちゃんと話せない俺は、全く話せなくなる。固まる。急に人目を気にしてしまう。
はあ。だりい。人を見たくない。最近ネガティブな想像しかできないよおおお。俺は頭を抱えるが、ユリアはそんな俺を見て何度も慰めてくる。
「あ、あと、チー君はもっと自信持ってね!私はチー君がすごいってこと、知ってるから!きっと学校のみなさんもすごいと認めてくれるよ!」
「いや、俺よりすごい人はいっぱいい……!?」
むくれ顔のユリアは急に俺の口に人差指を置いた。俺は反射的に速攻ユリアから距離をとる。何なんだよマジで……ちょっとドキッてして、さすがに焦っておろおろしてしまう。
「もう、また自分をそうやって卑下する……そんな口を閉じさせただけだよ」
「いや、その、逆に誇示するのも良くないじゃん」
「ま、まあそれはそうだけど、そこまで卑下する事ないのに」
ほんと難しいよな、人間って。卑下しても誇示しても、文句を言われる。そういうバランスを上手く取れる人が世渡り上手なんだろうさ。
俺は卑下してばかりだからな。というか、俺の場合、本気で自分がキモくてダメ人間だと思ってるだけなんだけど。
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そんなこんな雑談していたら、いつの間にか、俺は疲れて眠っていた。
外は夕暮れ時だ。空は夕焼けで透き通ったオレンジ色に染まっている。綺麗だなあ、俺も歳なのかなあ、こんな景色見てちょっと感動を覚えるとか。ゲームとか無い分、こういう景色とか見る機会が多くなっているのもあるのかな。
しばらく経つと、王都の城壁らしきものも見えてきた。王都の巨大な石造りの城壁が、夕暮れの空に黒く影を落としていた。
めっちゃたけえ……そしてでけえ……。あれが王都か……。なんだか壮大で、ラスボスに挑む前みたいな気持ちになる。今まで住んでたオンターマ領ってのはかなり田舎だったんだなと思えるほど。
うええ、人がいっぱいいそうで緊張してきた。
……あれ、それにしても、肩が少し重いんだよな。そう思って俺は横を見てみると、ユリアが俺の肩に頭を乗せて寝ていたのだ。
「!?」
うう、やめてくれよ……。
すごい、安心したようにすやすやと眠っていて、穏やかな寝息がかすかに聞こえる。まつ毛は長く、肌は透き通るように白い。無防備な寝顔が妙に色っぽい。
もし俺が慎重すぎない理性のない野獣だったら襲ってるぞ。まあ社会的に死にたくないから絶対に襲わんが。
女と付き合うのはリスクしかない。この世界では知らんが、少なくとも前世はそうだった。
ただの女性への声かけすら、人生が終わるかもしれないリスクが伴っていたのだから。
はあ。とりあえず、起こすのも悪いし、このままにしておくけど、なんか、落ち着かない。早く王都に着いてくれ……。
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「えっと、ユリア?着きましたよ?」
俺は寝てるユリアを起こそうとするのだが、なかなか起きない。そういえば学園が楽しみであんまり眠れなかったとか言ってたっけ。遠足前の小学生かよ。
無理やりでも起こしたいのだが、少しでも触れば社会的に死ぬ。……でも、気になる。
顔をつねってみるか?ひっぱたいてみるか?くすぐってみるか?……うん。ダメ絶対。
そうだ、触らなければいいじゃないか。例えば、軽く風魔法でユリアの顔めがけて発射したりとか。……いや、なんかそれは、綺麗な顔を汚しかねない罪悪感が……。
と考えているとユリアの瞼がゆっくりと開く。
「ん、んん。あ、おはよう……」
「え、あ、はい」
とりあえず冷静を装うが、逆にユリアが急にハッとして取り乱し始める。
「ってごごごめん!わざとじゃないから!いつの間にか寝ちゃって、倒れたところにちょうどチー君の肩だっただけだから!」
「分かってますから訴えるのだけはやめてくださいね」
「そうだよね!分かってま……ってなんで私が訴えることになってるの!?」
「早く降りましょうか」
「急に冷静!?」
ぐ、焦ってるユリアも可愛い!俺は冷静を装っていても、心臓はバクバクである。俺は急いで馬車から降りる。
ユリアも俺に続いて降りていく。
すでに辺りは薄暗くて、かなり肌寒い。1月の冬だからな。でもみたところ、雪はほとんど積もっていない。王都は雪が降らない地域なのか。
建物のところどころに街灯らしいものが浮かんでいて、辺りを照らしていた。恐らく光魔法を閉じ込めている魔道具か。もちろん、店は全部閉まっていて、開いているのは宿屋くらいだ。
ちなみに、夜は学園も閉まっているので、今から寮に行っても意味がない。そういえば父さんに、「もし夜に王都に着いたなら宿屋に行け」と言われた。入学式は明後日だ。トラブルがあったときのために早めに着くようにしていた。
「遅くなっちゃったし、宿探そっか」
「あ、はい」
こうして俺たちは王都に無事に着き、暗い街の中、宿探しが始まった。




