第15話 村を離れる時が来た
ついにこの日が来てしまった。入学式の2日前。今日は王都に旅立つ日だ。それと同時に、不安で仕方がないのだ。
俺は、学校に良い思い出がない。顔や性格のせいでいじめられてたおかげで、俺の自己肯定感は消えたわけだし。今回はいくら顔が良くても、性格はそのままだからつまんないやつ認定されていじめられるかもしれない。また教室に入って冷たい視線とともに嫌な沈黙が……。
ああもう、すぐそうやって嫌なことばかり考える……まあそうなったのも前世の影響だけどな。
どうにかして逃げ出したくて、以前、父さんに学園に行かないようにできないかと聞いた。俺は一応、前世の記憶から計算だってできるし、一般知識もあるし生活に不自由ない。だから学園入学免除にならないかなあと。
「無理だ」
と言われた。当たり前だが予想はしてた。学園は義務と言われるくらいだからな。
ちなみに、この村から学園のある王都ローレンティアは馬車で一日ほどかかるほど遠いため、学園の寮に住むことになる。王都に各地方から生徒が集まるため、国の中でもかなりの広さを持つ学園のようだ。
ちなみにユリアも同い年だったので一緒に通うことになる。ユリアは「どうせなら一緒に行こ!」と誘ってきて、すでに俺の家で待機中だ。無邪気というか天然というか……。
父さんは椅子で不安でうつむいている俺を見て、口を開く。
「心配するな、お前は強い、なんせ俺と母さんが育てたんだ。3年後、もっと強くなって戻ってこい」
「どうでしょうか。俺はまだ、えっと、ガキだし、その、本当に俺は強いんですか?」
父さんはテーブルに頬杖をついてそのまま溜息をつく。
「はあ……。自信持てよ、俺の稽古を耐えられるくらいだ。確かに多少優しくはしてやったが、それでもやり切ったんだ。問題ない。いじめられたとしてもやり返すくらいの男気持てよ?」
んだよ男気って、知らねえよそんなもん。男だから我慢しろだの泣くなだの、そう言う言葉は好きじゃない。
ただ、俺はもう一つ、”いじめ”という言葉に反応する。
周りの人は平気で「やり返せ」だのなんだの言うが、正直、実際にいじめにあうと、緊張とかパニックで体が動かず、どうにもできないことが多い。それに大体相手は集団だ。
集団相手にやり返すことができればなんも苦労なんてしない。それに何もやり返せない自分の無能さにもイライラして、鬱憤や恨みが貯まって性格もゆがんでいく。
ていうか、前世はいじめが原因で自殺したんだぞ。今回、本当に俺が強いとしても、その強さを発揮して、実際に動けるかどうかは別の問題だ。
そんなこと考えてたら、ユリアが俺の隣から言葉をかける。
「大丈夫?私がついてるから安心して?」
「逆に怖いです」
「なんで!?」
ユリアがいつ俺を裏切って社会的に殺しに来るかなんて誰にも分からんからな。怖いに決まってる。
父さんはそんな様子を見てニヤニヤしながらちょっかいをかけてくる。
「お前ら仲いいなあ」
「そ、そう見えますか?まあ、友達だからね?チー君?」
「とりあえず手どいてください。付き合ってるって勘違いされそうなんで」
「さっきから私の扱いひどくない……?だ、だったら、もっと触ってやるもん!」
ユリアが俺の手を握ろうと何度も手を出してくる。おい、どけろ、その手。くそ、俺社会的に終わるかもしれん。俺は強引にシュッと手を引いて、ユリアの手から逃れる。
ちょっとユリアが楽しそうなのはなぜだ?俺は恐怖なんだが?
俺たちをじーっと見ていた父さんは、またからかってくる。
「お前たち、もしかして付き合ってるのか?」
ユリアが顔を赤らめて咄嗟に反応した。
「ま、まだ付き合ってないです!」
父さんの冗談に毎回素直に反応するユリアって純粋すぎるというか……父さんはさらにユリアをいじり始めた。
「”まだ”付き合ってないってことは今後付き合うのか?」
「そんなわけないじゃないですか!あ、でもチー君が嫌いってわけじゃないから!」
「好きなのか?」
「違います!いや、じゃなくて!うう……」
ユリアは顔を真っ赤にして、まるで湯気でも出しそうな勢いだ。いじりがいがあって見てて面白いな。さすが2次元。
メイドも父さん母さんも、ユリアの反応を我が娘かのように温かい目で見守っていた。
そこで和やかな雰囲気から、父さんは少し真面目な顔で俺たちに視線を送る。切り替えが速いな。そして少し低い声で話し始めた。
「チーは盗み聞きしてたみたいだから知ってると思うが……ユリア。メイドから聞いたが、お前は王族の姫だったらしいな」
「はい。そうですね」
「というわけで、こんなものを用意した」
すると、父さんは棚から何かを取り出す。手鏡のようなものだ。それをユリアに手渡した。
「これは髪の色や瞳の色を変える古代の魔道具だ。今では失われた技術を持つ魔道具らしい。これを握って自分の顔の前に捧げて、想像する色をイメージするんだ」
ユリアはその魔道具を見て、なんだか困ったようにおろおろしている。
「で、でも、こんな貴重なもの、いいんでしょうか?」
「ああ。別に俺は使う予定もないからな」
「ありがとうございます。う~ん、それじゃあチー君」
「え?あ、はい」
「チー君に私の髪と目の色決めてほしいな。私、自分で決めるのもあれだし、悩んじゃうだけなんだけど」
ユリアは俺に意見を振ってくる。なんで俺……。
悩むのは俺も同じだが。う~ん、正直今のユリアの金髪が一番異世界っぽくていいけど、俺と同じ黒髪……絶対似合うぞこれ。
いややっぱやめよう。俺の好みの問題じゃない。
バレないように染めるんだぞ。そうだ。ここは父さんに聞いてみよう。
「あの、この世界で珍しくもなく、目立たないような髪の色ってあるんでしょうか」
「う~ん、どうだろう。よく見るのは赤、青、白、茶のどれかだろうか。黄色はどうしても王族に多くなってしまう。と、これが一般的だと思うぞ」
ほう、ずいぶんとカラフルだな。ユリアに赤や青は……微妙?
白か茶って感じはするが、白は異世界の少女って感じがするし、ユリアの清楚なイメージにぴったり。茶は日本人寄りでどうしても可愛くなる未来しか見えない。
こんな顔面偏差値の高いユリアに日本人風の髪色にしたら……。最高じゃん。でもそれはそれでつまらん、せっかくの異世界だから⋯⋯。
「……白色で」
「なるほど、チー君は白髪が好きなんだね」
「好きとは言ってない(好き)」
「あっそ」
というわけでユリアの髪の色は白髪に決まった。
ユリアは魔道具を持って髪色をイメージし始めたのか、どんどん髪色が白色に染まっていく。魔法の世界というものは不思議なものだな。
ちなみに瞳の色は無難に青色になった。正直、これはこれで綺麗だ。ユリアは俺を見つめてきた。俺は目を逸らす。直視できねえよ、セクハラだし。
「どう?似合う?」
「……」
「こっち見てよ」
「怖いので嫌です」
「むぐ~……やっぱり私嫌われてる……?」
俺はちらっとユリアを見ると、ガチで泣きそうになってて草なんだわ。……いや草とか言ってる場合じゃねえ、女子を泣かしたとか、俺にいじめられたとか言われたらまずいぞ。適当に褒めるしかねえ。
「……まあ、似合うんじゃないすか」
「え?ほんと?良かった……」
ユリアはちょっと口元を緩めて、そのまま目を逸らす。父さんはまたまたユリアをからかいに行く。
「照れてるな」
「て、照れてません!」
照れてるな。そりゃ、イケメンに似合うなんて肯定されれば喜ぶよな。
ブサイクとイケメンに「可愛いよ」って言われたらさ、イケメンにはテュンク、ってなるけど、ブサイクには「は?きも」「キッショ」ってなるのがこの世の真理。何をするかじゃねえ、”誰がするか”や。
まあ顔の好みもあるし、人によるとは思うけど、前世の俺みたいなチー牛ブサイクを好きになるなんて、よっぽど物好きくらいだろうな。
てか、ブサイクが「可愛いよ」とかそんなこと言うの想像できないし、そんなこと言う勇気もあるわけねえわ。
……自分で自分の心をぐさりと刺していた。やばい、自滅しかけた。1人で悲しくなっている俺に、父さんは真面目に声をかける。
「チー、お前はユリアの騎士として守ってやってくれ。まあ、メイドから聞いたと思うが、簡単に言えば、騎士ってのは王族でいう姫を守る役割のことだ。この先もユリアを狙う神声教団がいないとも限らない。お前なら守れる、大丈夫だ」
「わ、分かりましたけど、俺なんかより強い人はいっぱいいるので、その人に任せる方が……」
「何度も言うがお前は強い。……はあ、育て方間違えたかな」
「わ、分かりましたよ……」
神声教団め……。お前らのせいでこんなめんどくさい護衛とかすることになったんだぞ?見つけ次第ぶっ殺してやる。
ユリアをみると、神声教団の話題になってから、少しうつむいて怯えているように見える。神声教団ってのはそんなに恐ろしい組織なのだろうか。いやなことを思い出させてしまったか。
「頼んだぞ、チー」
「あ、はい」
「ユリアも、かなりめんどくさい性格だが、チーを支えてやってくれ」
「あ、ああ……ふふ、そうですね。わかりました」
父さんはユリアの暗い表情を察したのか、軽い冗談でユリアをくすりと笑わせる。こういう気遣いができる陽キャってほんとすげえよ。
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こうして、最後にユリア、メイドを交えての食事を楽しんだ後、王都行きの馬車が迎えに来る。ユリアは楽しそうに馬車に乗り込む。くそ、俺は全然楽しみじゃないってのに。
俺のもとに、メイドがゆっくりと近づいてきて、頭を下げてくる。
「どうか、ユリア様をお願いします」
「え、あ、はい」
俺は剣や服など荷物を持って、馬車に乗り込む。父さんが大声で応援をくれる。
「がんばれよ!」
「あ、はい」
「最後くらいはもっと自信ある返事しろよな……まあチーらしいか」
父さんは苦笑しながら自分で納得していた。隣にいた母さんも俺に声をかけてくれる。
「チー、自分のペースでのんびりでいいからね」
「あ、はい」
優しい母さんというのもいまだに慣れないな……。でもありがたい。自分のペースでやらせてもらうよ。
こうして、家族と別れを告げ、俺も馬車に乗り込み、王都へと向かって行ったのだった。




