第14話 騎士とかだるいしめんどくさい
俺とメイドは外に出て、庭のベンチに誘われ、恐る恐るメイドの隣に座る。気まずい。外は冬で寒いけど、俺は地味に恐怖と緊張で火照っている。しばらく沈黙が続いた後、メイドはゆっくり話始める。
「さて、チー様のことは念のため、常に監視させていただきましたが……」
いきなり怖いこと言うな。
「あなたは神声教団とは関係なさそうです」
お、おう……。で、神声教団?初めて聞く名前だが⋯⋯。
「えっと、神声教団ってなんですか?」
「はい。神声教団は最近活発になった、存在しない神をあがめる組織で、ユリア様の血を狙い、魔素の多い者をさらう恐ろしい者たちです」
こわ。そんな組織がいるのか。さっきユリアが言っていた、『またあいつらに狙われるかも』ってのは、神声教団のことだったのか。
「えっと。分かりました。もちろん俺は、その、神声教団?とは関係ありませんが……それがなにか?」
「なので、改めて、ユリア様の護衛を頼みたいのです」
ああめんどくせえ。そんなことするわけねえだろと思って、ちらっとメイドの目を見るが、なぜか俺を信頼しているかのようにまっすぐ見つめていた。
「えっと、先ほども言いましたが、もし嫌と言ったら?」
「……あなたが転生者であることをバラします」
俺は一瞬びくっと肩を震わせた。同時に心臓の鼓動が速くなる。メイドの目は、冗談には見えなかった。
やっぱりバレていた?いや、まだわからない。俺は一切メイドと目を合わせていないから、少なくとも表情ではバレないはず。ひとまず、俯きつつ、すっとぼけて様子見する。
「え、なんのことでしょうか」
「はい。そもそも、チー様のように幼少期からまるで人に妨げられてきたかのような、自己肯定感の欠如した性格は見たことがありません。ただの人見知りには見えません。あなたの父や母を見ても、そのような人格形成になる育て方をしているとは思えません。
あなたのその懐疑心や慎重さ、自己肯定感は普通の子供ではない、大人すぎるんです」
ぐ、というか、まあ大人が子供の振りをするなんてそもそも無理な話で、メイドみたいな最初から俺を疑っていた奴には、転生バレは時間の問題だったってこと。
まあ大人というか、俺の精神年齢は一生高校2年のままだけどな。メイドはさらに続けた。
「……それに、王族の100年前の古文書にこのような言い伝えもあります。『狂いし神の復活が近い時、3つの転生した魂が宿る』と。チー様はその一人だと確信しました。チー様は分かりやすすぎですね」
分かりやすすぎてすんません。
まあ、普通はユリアのように無邪気に何も考えず遊んでるのが普通の子供なのに、俺は人を怖がって、何もかも冷静に考えすぎていた。メイドじゃなくてもいずれバレるか。
それに、メイドの読んだ古文書の内容は気になる。”3つの転生した魂”ということは、他にも2人、転生者がいるというのか。ユリアの可能性は……あり得んな。
「あなたはユリア様にも、あなたの父にも、転生者だとバレないように振る舞っていることは分かっています。もし、騎士を引き受けていただけるのなら、バラしません」
恐ろしいやつだ、そうやって脅して引き受けさせるとは、どうかと思うのだが?そりゃ、ばらされたくないけど……。
「えっと、それでも、その、嫌だと言ったら?」
「貴方には二度と関わりません」
メイドは冷たい視線で俺を見下ろす。ぐ、見限るってことか。さすがに、前世みたくまた人に嫌われ続けるのは嫌だ。
だが、俺はめんどくさい以外にもやりたくない理由がある。
「その、めんどくさいだけなら別にいいんですよ、俺は。でも、その……」
これを言えば、男のくせにとか男なら恐れるなとか、そういう差別発言されるかもしれない。でも、言わなきゃ伝わらねえ。
「……普通に怖いですよ。その、そんな、ユリアを狙うような組織から、守るとか、最悪死にますよね?俺の住んでた世界では戦争も何もない平和な世界だったんですよ。急に、その、命をかけて戦えと言われても、受け入れられないです」
メイドはただまっすぐ無表情のまま俺を見つめる。何を思っているのか。やはり、男のくせにとか?それを言われちゃあ、俺は絶対に引き受けないつもりだ。
男は泣いちゃだめだの、優しくしろだの、我慢しろだの、なんなんだよそれ。別にこちとら男に生まれたくて生まれたわけでもねえ。男も女も同じ人間だ、泣きたいときもあるし逃げたいときもある。
それをなんで男だからと我慢しなきゃいけないんだ?前世は男らしさは皆求めるくせに、女に女らしさを求めれば一発で炎上。男になら何言ってもいいのかよ、クソが。
嫌なことを思い出したが、メイドもそういう考えなら、こちらから願い下げだが……。
「安心してください。こちらの世界でもチー様のように怖いという人はいます。でも、大丈夫です。あなたはすでに人より強い。それに、ユリア様が神声教団に居場所がバレることはしばらくはないでしょう。もし敵が来れば、その時は守っていただきたいのです。
それと、もしそれでも怖い、もしくは勝てないと悟れば、ユリア様を連れて、逃げてください」
意外にも理解のあるメイドだ。
それより、良いことを聞いたかもしれん。逃げればいいんだ。戦わなければいいんだ。もし敵わなくても、逃げ切れば死なねえ。痛みもねえ。それだよ。
逃げてもいいんなら、引き受けるだけはいいかもしれない。とはいえ、ため息が出るほどめんどくさいがな。
「⋯⋯その、はい。分かりました。ただ、本当に俺で後悔しませんか?俺は前世で何も成功体験もない気持ち悪いチー牛だったんすよ」
「チー牛⋯⋯?は知りませんが、問題ありません。チー様の強さは異常ですし、それだけ慎重なら騎士に適任だと思います。それに、ユリア様はチー様を信頼しています」
「一応、男女ですが、俺が襲わないとは考えないんですか」
「あなたにユリア様を襲う勇気もないでしょう」
正解。はあ、なんか俺、謎に信頼されてないか?すると、メイドが目を細め苦笑し、口を開く。初めて、笑った?
「……さっき言ったのは冗談ですよ。別にチー様が引き受けなくても、ばらすつもりはありません。何度も言いますが、私はチー様のことは信頼しています。でなければ、大事なユリア様の騎士を引き受けてもらいたいなんて思いませんから。最終的には、チー様が判断してください。怖いならやめてもいいんです。私は、あなたを信じています。どうか。ユリア様をお守りくだされば、幸いです」
そこまで言われると、断れない……。と、メイドは思い出したかのように続ける。
「あ、もしよろしければユリア様を貰っていただいてもいいですよ」
「嫌です」
「は?ユリア様に魅力を感じないとでも?」
「ひっ!?そうは言ってな、なな、ないじゃないですか……」
メイドの目がギランと光った。このメイド怖すぎる……。
にしても、なぜ、俺をここまで信用するのだろうか。ここまで真剣に頼まれると、結局断れない。弱い立場だっただけに、元々断れない性格だったんだよな、俺って。
「引き受けてはくれません⋯⋯か」
メイドは再び頭を下げた。
それに、俺は前世から生まれて初めて、自分に"役割"というものを与えられた気がする。自分にちょっとだけ価値があると錯覚してしまう。嬉しいのかだるいのか、複雑だ。
「あの、いいですから、その、頭上げてください。一応、できる限りは、えー、しますから」
「⋯⋯ありがとうございます。本当に、感謝いたします」
なんだか丸め込まれた感じがして悔しいな。こうして、俺はユリアの騎士として、護衛任務に就くことになった。
ダリいけど、俺は俺で適当にやらせてもらう。敵が来たら逃げればいいしな。まあ、俺も男だし、かっこよく敵を蹴散らしたいって願望あるが、今はまだ、気持ち的に無理そうだ。
強くはなりたいけど、命をかけてまで強くなりたい理由がない。人並みに強くなればいいだろ。
「では、戻りましょう」
「あ、はい」
メイドと俺は立ち上がり、家に戻っていった。




