第102話 俺は無理やり言わされた
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「わ、私に近づかないでくださいっ……」
「え、な、なんで」
「私は、厄災をもたらす、忌み子、だから…」
「は?」
どういうことなんだろうか。シオリーは俺を拒絶している。厄災をもたらす?忌み子?意味が分からなかった。少なくともわざととかネタで言っているようには見えない。
俺はシオリーに事情を詳しく聞くことにした。
「えっと……どういうことですか?」
「私は……村で……ひ、人を殺して……追い出されて……あ、ああ……」
シオリーはだいぶ混乱している。まずは落ち着け。
「えっと、意味が分からないので、その、一旦落ち着いてください。その、誰もシオリーを忌み子なんて言ってないじゃないですか。えー、まずは落ち着いてから話してください」
俺はまっすぐシオリーの目を見る。……あ、やっぱ恥ずかしいから目を逸らす。
ただ、シオリーはそんな俺を見て、落ち着いたのか、一旦呼吸を整えて、冷静に話し始める。
「……私は魔法が得意だったんです。それで、その才能を両親に見込まれて、魔法教本を出版しました。それが原因で魔法師たちに恨まれ、本も家も燃やされて、家族は死にました」
「……え?」
「そのまま、私も魔法師たちに捕まって、拷問を受けて、いつの間にか私は……自分でも知らない能力で、その魔法師の首を跳ねて殺してしまいました。さっき、スキンヘッドに使ったあの超能力のことです」
待て待て待て。話が重すぎないか?そんな過酷な人生送ってきたんかこの子は。
「それで、村の魔法師たちは、私の魔法を見て”厄災”だと……私のことを“忌み子”だと言って、私を処刑しようとしました。私は何とか逃げることはできました。
私は、村の魔法師たちの言う通り、忌み子なんです。きっと、忌み子の私と関われば、先輩はきっとつらいことになります。だから……先輩は、私から離れてください……」
それで、忌み子と自分で言っているのか。今の話を聞く限り、悪いのはシオリーなんかじゃない。明らかに魔法師たちの頭が狂っている。
ただの嫉妬でやっていいことではない。シオリーは忌み子なんかじゃない。普通に考えたら分かるだろ……とは言っても、本人の自責思考や環境を考えれば、混乱もするだろうな。
それに、その謎の力で人を殺したのかもしれないけど、正当防衛だし、今回は俺を救ってくれた。……まあ実際は自分でスキンヘッドは何とかできたけど、そういうことにしておく。
ああ、どうしようかな。俺が人を説得するような、陰キャにとっては地獄みたいなことはできないし……。ここまで自責思考が強いと何言っても「でも」とか言ってきそう。
なんかめんどくせえな。俺もマジでかわいそうだとは思うぞ?人間のトラウマってのは、簡単にはぬぐえないんだよ。人の言葉だけで、変われるなら、誰だって変われる。
俺も拗らせすぎて、ユリアにはだいぶ“めんどくせえ”って思われてるしな。
でも、こういう時の俺には切り札がある。俺はスッと後ろを振り向いてとある人を見る。そう、ユリアだ。俺より何千倍もコミュ力があるユリアさんに任せればいいのだ。
俺はユリアに小声で助けを求める。
「ユリア、俺こういう時なんて声かければいいのか分からないしめんどくさいのでユリアが代わりに慰めてあげてください」
「いやいや、私シオリーちゃんとほとんど接点も無いし、見る限りチー君のことを信頼してるから、チー君が言ってあげたほうが良いと思うんだけど」
「嫌です」
「即答!?」
ユリアは一旦ため息をついて、俺にアドバイスをする。
「……チー君がシオリーちゃんの気持ちになってみればいいんじゃない?」
「あの、だから嫌ですって」
「ダメ。私が言っても意味ないと思うの。ここはチー君が行かないと」
ええ……。俺奇麗事言うの無理なんだけど。自分がきもすぎてよくあんなクサいこと言えるなってこの後脳内反省会確定。そしてずっと脳の角スペースで引きずる。
……いや、でも最悪ユリアに言わされた、でいいんじゃねえか?実際そうだし。
「で、チー君はどう思う?シオリーちゃんはどんな言葉が欲しいと思う?」
あの状態のシオリーを見ればまあ、やっぱり、人を信じたいんじゃねえの。自分の魔法も、自分の事も、必要とされたいんじゃねえの。遠ざけるのは、受け入れてほしいから。要はツンデレ。知らんけど。
でも、確証は無いので、分からないと言っておく。
「……いや、分からない」
「分かるんじゃない?チー君とシオリーちゃんって、似てるし」
どうかな。俺は他責でシオリーは自責。似てるようで意外と違うような……
「やっぱめんどいんでユリアが言ってあげてくださいよ」
「ひどくない?……はあ。シオリーちゃんはさ、必要とされたいんじゃないの?」
あ、やっぱり、そうだったんだ。自己肯定感の無い子は、必要とされる経験がない。それに、シオリーを褒めたこともあるが、その時は嬉しそうにしていたし。
でも、やっぱり口下手な俺が言うのは逆効果な気がするわ。
「じゃあそれをユリアが言ってあげてくださいって」
「意味ないでしょ!どうせまた社会的に怖い~とか言って関わりたくないだけでしょ」
「はい」
「認めちゃダメでしょ!?……もう、何度も言うけど、シオリーちゃんはチー君に一番懐いてるんだし、私はチー君が言ってあげたほうが良いと思う。真面目に言ってるんだからね?」
ユリアも全然引かねえな。引かないのは俺も同じだけど。……ああもういい、このままだと(物語が)進まないので俺がやる。クソ。
でも自信が無いので、ユリアに最終確認を取ったほうが良い。これくらい慎重に生きなきゃならん。よし。
「ユリア」
「なに?」
「シオリーは、必要とされたいし、褒められたい、生きる理由が欲しい、合ってますか」
「あってるかは分からないけど、私もそう思う。それを言ってあげて。私を立ち直らせた時みたいに……」
「え、あ、はい」
よし。これで確信は得た。
俺はシオリーの元に再び歩いて行く。シオリーは俺を見て、少し後ずさるが、嫌という顔はしていない。怖いけど、安心しているような……。
ということで、早く終わらせて帰りたいので、シオリーに俺の思ったことを話していく。
「……はあ。少なくとも、その……俺はシオリーの魔法はすごいと思うし、シオリーは……俺にとって必要な存在です」
シオリーはそれを聞いて、目を丸くして、つぶやく。
「……え?ひつ……よう……?私が?嘘ですよね?」
「嘘じゃないです……と言っても信じないでしょうけど。俺は別に厄災とか忌み子とかそんな事思ってないっすから。魔法の師匠みたいに思ってますよ。だから、その……また俺に魔法を教えてほしいです。その……2人で魔法極めて行きましょう」
「え……?」
シオリーはなぜか、すごく驚いた表情で、涙目になっていく。しかし顔を赤らめてすぐに俯く。
……うっわすげえ臭いこと言って自分でも恥ずかしくなるわ。完全に今日一日恥ずかしさ引きずるわ。だって、仕方ねえだろ、ユリアが言え言えうるせえんだから。全部ユリアのせいだろ。他責じゃ他責。
しかし、しばらく黙っていたシオリーは、顔を上げ、ポロっと一粒、涙を流しながら、俺に一言ずつ問いかけてきた。
「私は……ここにいても、いいんでしょう……か」
「え、あ、はい」
「先輩と……一緒にいても……いいんでしょうか」
「え、まあ、はい」
そして、シオリーはそのまま、我慢できずにその場で泣き崩れてしまった。
……あれ、俺泣かせた!?やばいやばいやばい俺の社会的地位がぶち壊される!!!「チー先輩にいじめられました!」なんて言われたら……落ち着け……ここに証人は……。
ユリア……むしろもっとやばいだろ!女子の共感力舐めんな!ユリアはきっとシオリーの味方をする……。
どうする……。ここは……逃げる、いや、それもまずい。逃げ=罪を認める、ということになる。痴漢冤罪やセクハラなど、やっていなくても咄嗟に逃げれば、一生追われることになる。まあ冤罪掛けられた時点で人生終わりだが。
なら、潔く……。俺はユリアに賭けてみることにした。
「ユリア」
「なに?」
「俺は何も悪いことはしてません。シオリーにも触れていません。シオリーが勝手に泣いたので、俺は悪くありません」
「知ってるよ!?」
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その後、シオリーが泣き止んで、「みっともないところをお見せしてしまいすみませんっ……その、本当にありがとうございます」とお礼を言われた。マジでよかったあ。
何はともあれ、どうなるかと思ったが、シオリーが無事でよかったわ。




