高等学園3ー2
新学期一日目、マーレ先生が教壇に立つ。
「皆さん。無事に進級できたようでおめでとう。この一年も気を抜かないように頑張ってね。さて、皆さんにお知らせです。今日から、夏休みまでの間、このクラスで留学生を受け入れることになりました。入って来なさい」
とマーレ先生が声をかけると、教室のドアが開き、入ってきたのは金髪うしろ髪縦ロール仕様の姫様だった。
以前、母上がロッテロッテのリゼとしてステージに立った時、ツインテ縦ロールは素晴らしかった。我が母ながら見惚れたものだ。
と、思っていたら、その姫は僕の方をキッと睨み、そして、アンディに微笑みを送った。何かしたかな?
三年次にもなると選択科目もあり、今日はアンディ達と同じ授業だ。
「オリビア・オルティーズと申します。隣国アリシアからまいりました。第三皇女ですが、気にせずフレンドリーに接してくださると嬉しいです」
と挨拶をし、お手本のようなカーテシーを披露する。それ、目下にやるもんじゃないからな。と思っていたら、アンディを見ている。だからいいのか。
「それでは、オリビアさん、空いている席に座ってください」
そう言われオリビアは最上段までやってくる。
「そこ、空けて下さいません?」
と、よりにもよってアンディの横に座るクララにいう。
「通路の向こう側が、空いていますよ」
と、開いている通路を挟んだ隣にある椅子を指さす。オリビアとクララは視線をぶつけ合っている。クララが動かないことを察したオリビア、ケイトに視線を向ける。ケイトもオリビアより先に
「そちらが空いております」
と告げる。こっちでもバチバチしている。まあ、抑えられるのは一人。
「そこに座ったらいいんじゃないかな」
とアンディ。すると、オリビアはアンディに近づき、無理やり手を取ったと思ったら、目を見つめて、
「はい。仰せのままに」
と、通路を挟んでクララの隣に座った。なんだ、この子。あからさまなアンディ狙いか。これは面白そうだな、と思っていたら、京子ちゃんの肘をもらった。
今日は午前も午後も座学。
お昼。昼食を食べに行こうとする。
らいらい研はいつも一緒に行動しているので、十二人まとまる。食堂に向かって歩き出すと、その後ろをトコトコとついてくるオリビア。トコトコと。
京子ちゃんが気遣って声をかけようとすると睨まれる。かなでもだめ。ミカエルとボールズ、こはるは興味なし。
クララとケイトも臨戦体制。ジェシカとビビアンでは荷が重い。仕方がないので、アンディの首に腕をかけて顔を近づけ、小声で言う。
「なんとかしろって、どうみてもアンディ狙いじゃん」
と。
「アホか。それを真に受けて親しくしたら、僕の命が危ないじゃないか」
「僕ら別行動しようか?」
「そんなヘビとマングースが睨み合っている檻の中に僕を置いていくな」
ヘビはいいとして、マングースはこの世界にいるのか?
「とはいえ、僕ら四人は嫌われているぞ? アンディ、紳士だろ?」
はあ、とアンディはため息をつくと、徐に振り返り、突然クララを抱きしめた。周りから生徒の悲鳴のような歓声が聞こえる。アンディは何かをつぶやいたようだ。ついで、ケイトにも同じことを。お、ケイトも抱きしめていいのかな? ケイトも渋々っぽく真っ赤な顔でうなずいている。
「オリビア、一緒に食事でもどうだい」
と、アンディの爽やかスマイル。
「はい、アンドリュー殿下」
と言ってオリビアも両手を伸ばす。アンディは気づかなかったふりをして歩き出す。
「チッ」
あ、この子、舌打ちしたぞ? オリビアは小走りでアンディに追いつき、後ろをついて行った。
食堂では、アンディとオリビアが隣あい、その向かいにクララとケイト。あとは適当って感じで座って食べる。
食事中は静かなもんだ。さすがは貴族だな。
食事が終わると、オリビアが積極的に話しかける。
「殿下は放課後は何をされているのですか?」
「殿下は帰り道はどのようにお帰りになるのですか?」
「殿下はお休みの日は何をなされているのですか?」
「殿下の好きな食べ物はなんでございますか?」
「殿下の好きな女性のタイプは……ぽっ」
「ぽっ」は口に出すものではない。
アンディの答える隙も与えないような口撃だ。クララとケイトも呆れて口が塞がらない。
「オリビア、そろそろ教室に戻るかい? 一緒に行こうか」
と優しくアンディ。
「はい、それではお手を……」
「大丈夫、ここでは迷子になったりしないから」
と、さりげなく断るアンディ、さすがだ。
僕らは、教室に戻って授業を午後の受けた。
その放課後。アンディはさすが紳士だ。
「お迎えはどこにくるんだい? そこまで送ろうか?」
と声をかける。すると。
「殿下はこの後の予定はどのようになっていますの?」
「僕らは、クラブ活動に行くよ」
と、アンディは僕らを見回してここにいるのが全員メンバーだと教える。
オリビアは、僕らを見てちょっと嫌な顔をしたが、
「それでは、私もついていって見学させていただくことはできませんでしょうか?」
と、アンディに聞く。すると、アンディはニヤリとして、
「部長に聞いてみたらどうだろう」
と、僕を見る。
こっちに振ってきた。
ムッ。
だけどここは持ち前の爺さんの心の広さで対応する。
「僕らはらいらい研というクラブを作っているんだ。何をやっているかっていうと、まあ、あんまり決めていないけど、一番多いのが、バンドやアイドルのパフォーマンス練習、冒険者のための訓練、パンやお菓子を作って食べたり、おしゃべりしたり、などなどかな。そんなのでよかったら見学する?」
と。
初めは僕のことを疑うような目で見ていたオリビアだったが、次第に顔が軟化し、
「バンドとかアイドルとか聞いたことがあります。友人がたまたまこちらに来ていた時に見たと。バンドはとても新しい音楽で、あれは座って聞くものじゃない、と言っていて、気になっていたんです。それと、アイドルも可愛いやらかっこいいやらとにかく素敵だったと。それを殿下たちがなさっているのですか?」
「僕らはプロじゃなくて趣味でやっているだけだけどね。この高等学園では、文化祭でパフォーマンスしているんだ」
「ちなみに、僕はバンドの方は裏方だ」
とアンディ。
「そうしますと、殿下はアイドルなのですか?」
と、オリビアはキョトンとする。
この世界でも男のアイドルもありか? 全然興味がわかないけど。
「僕はアイドルのバックバンドをしているんだ。せっかくだから」
と、一旦とめ、
「みんないいかなぁ」
と聞くので、みんな頷く。
ということでキザクラ商会のスタジオに行くことにした。最近、アイドルが増えてきたので、スタジオも大きくなりつつある。
僕らもスタジオに入り、
「バンドからでいいかい」
と言って、準備を始める。準備をしているのは、リリィと僕ら四人。残りのメンバーはバンドの前に位置取って、タオルを持っている。アンディはオリビアにもタオルを渡した。
「ワン、ツー、ワンツー」コンコンのいつものミカエルの合図で演奏を始める。景気よくいこうとアップテンポナンバーでスタート。
ちなみに、僕らの演奏はバンドもアイドルも「いつでも楽しく笑顔で」をモットーとしている。
たとえオリビアに嫌われていても関係ない。そもそも演奏は楽しいのだ。
アンディ達は、立って飛び跳ねながらタオルを振っている。
オリビアは初めは演奏に驚いて固まっていたが、クララとケイトが「一緒にやろう」と誘うと、真似をして飛び跳ね、タオルを回していた。
その顔はとても楽しそうだった。
僕とリリィはアイコンタクトで「よかったね」と意思を伝え合った。
今日は見せるだけだから三曲でいいだろう。




