高等学園3ー1
春が来た。最高学年になった。
僕らは今年、十五歳になる。学生でいられる最後の年だ。うーん。だからと言って、何も考えていない僕としては、就職活動など気にしていない。そもそも、貴族の子供達は、親の紹介でどこかへ勤めることになるのだと。兄上も父上について勉強していたな。今では立派な領主である。
「京子ちゃん、京子ちゃんの兄弟って?」
「いないよ」
「じゃあ、領主を継ぐのは京子ちゃんになるの?」
「んー、陵君じゃない? このままなら」
「シャルロッテ様、若いよね?」
「そうだね、誰かのおかげでね。でもどうだろう。まだ子供産む気あるかな? 今は、リーゼお姉様と一緒にいるのが楽しそうだけど? お互い同い年の女子大生みたいになっちゃったし」
そうなんだよね、この二人。母上は、未だ黒薔薇の団長を務めつつ、シャルロッテ様とアイドルをしたり遊びに行ったりしている。
「まあ、考えても仕方ないのかな、未来のことなんて」
「とはいえ、来年から何するのか考えておく必要はあるんじゃないの?」
「そうだけどさ、京子ちゃんは何するの?」
「私は陵君と一緒にいて、できることをするかな」
「えー、ずるくない?」
「だってさ、陵君のおかげでさ、多分お金には困らないから仕事をする必要もなさそうだし、婚活もいらないし、気になったことを研究したり開発したりして過ごせればいいかなあ」
「僕もそうしていたいな。それでいいのかな」
「いいんじゃないの? スローライフで。その中で、陵君がやりたい技術開発でもしたら? 仕事にしないほうが、いいアイデアが生まれるかもよ」
「そうだよね。そうするかー」
とまったりしていると、後ろからにゅっと出てくる影がある。気配ゼロだったよ。びっくりしたよ。
「陵だか京子だか知らないが、グレイス、我が家はテイラーが結婚しない。できないのかしないのかわからんが。カトレアをと思ったが、あいつアホだしな。それに今はリコラシュタインと仲が悪い」
誰のせい?
「だからな、最低二人だ。いいな」
と言って母上はシャルロッテ様と去っていく。
あれ? シャルロッテ様もいた? シャルロッテ様も気配ゼロだったよ。
ところで、どこから聞いていたんだあの人たち。僕は後ろにいたミカエルに視線を向けるが、気づかなかったらしい。母上は、殺気もすごいが気配を消す方もすごいらしい。かなではというと、視線をむけても、むふーと何かを意気込んでいて、答えてくれそうになかった。
「妾も頑張ってもいいぞ?」
と訳のわからないことを言うこはる。
「いやいやいや、何を言っているのかな、こはる。っていうか気になるから聞いちゃうけど、ドラゴンは卵だろ? 人との間に子供なんてできないだろう」
というと、
「誰が子作りを頑張るって言った? 妾をそんな目で見ておったのか?」
と少女の顔でニヤリとする。しまった、はめられた。
「まあ、答えてやる。そもそもドラゴンも人も卵だぞ」
知っている。
「受精のタイミングも一緒だぞ」
うん、まあ、そうなのかな。
「あとは、腹の中で育てるか、殻の中で育てるかの違いだけだろう」
いや、すごい違いだ。
「だからな、人型で受精すれば子供を産むまでドラゴンになれんし、ドラゴンで受精すれば卵を産むまで人型になれん。それだけのことだ」
「いやいや、人型でどうやってドラゴンと交尾するんだ?」
少女になんてことを聞いているんだ僕は。
「バカなのか? 人型で交尾するときは人とに決まっとろうが」
と。ん?
「人とドラゴンの間に子供ができるってこと?」
「ドラゴンメスと人オスの場合、ちょっと弱いドラゴンが生まれる。生まれる時は人型だ。で、逆の場合はちょっと強い人が生まれる。もちろん生まれた時から人型だ。この場合、ドラゴンにはなれん」
うん。謎だ。
「ちょっと弱いドラゴンとはいえ、妾は血統がいいから、そこらのドラゴンより強いドラゴンが生まれるだろうよ」
と。教えてくれてありがとう。でも生理的にどうかというと、少女だし、ドラゴンだし。
この世界の遺伝はどうなっているんだろうか。そういえば、真っ白なキザクラからよくもまあ、あんなに多様な模様が生まれたな。たしか、マイヒメが白のメスだった。あの猫の子供ってどうなっているのかな。今度調べてみたいな。
と思っていると、メイドであるベティが、
「ご学友様がお越しです」
と言って、いつものメンバーを部屋に入れる。ベティもそのまま部屋に残るようだ。
「なになにー、なんの話をしていたの?」
とリリィ。
「うむ、なにな、グレイスが子供を最低二人は作らないといけないらしくてな、誰が子種を授かるか、と言う話をしておった」
と、こはる。いったい何を言っているの?
すると、リリィは真っ赤な顔を両手で隠して遠い世界へ行ってしまった。かなでもまだ帰ってこない。
「いやいや、そうじゃなくて、(この世界の)遺伝ってどうなっているかって話だよ」
と僕は話を戻した。決してそらしたわけではない。いや、そらしたのか?
「うちの猫、いろんな模様があるじゃん、だからどれとどれを混ぜたらどうなるのかって」
と、必死に。京子ちゃんは苦笑いをしている。
「そんなことは神様が決めているんじゃないのか?」
と一蹴するアンディ。
「そうかもしれないな」
と話を終わらせる。ここで考えても終わらないし、興味があるのも僕と京子ちゃんくらいだろう。
さてと、今日は皆で花見をしようと集まった。我が屋敷の庭には、春に咲きほこる木がある。桜ではない。色は白。満開になると綺麗なので、いつか花見をしたいと思っていた。
僕達はその木の下にシートを敷いて各自が持ち寄ったお弁当を置いていく。花見の前に僕はその木の傍に作った祠に手を合わせる。中には、魔法で生み出した金と銀の招き猫が祀られている。どちらもたかさ二十センチで、左の金が右手で、左の銀が左手で招いている。二拝二拍手一拝の作法で拝礼すると、京子ちゃんとかなでとミカエルも続く。
「何しているんだ?」
とアンディが聞いてくる。そりゃ初めてみるよな。
「去年の冬にさ、うちの猫、一番最初に飼ったキザクラって名前なんだけど、それが死んじゃったんだ。だから、祠を作って祀ってみたんだよね。で、キザクラとその子供達、子供達はまだ元気だけどね、いつも僕らのことを見守ってくれていたからさ、そのお礼とこれからも頑張るから空から見守っていてねっていう決意表明かな。ここに来たときは必ずやっているんだ」
と言うと、アンディが
「どうやるんだ?」
と聞いてくるので、教えてあげると、みんな拝礼してくれた。「ありがとう」と感謝の意を伝える。
「中に入っている猫の置き物、だから猫だったのか。でも右手と左手をあげているのは?」
と聞くので、
「左手は人を、右手は幸運を招くんだよ。ほら、こんなふうに人も幸せも集まってくるだろう」
と。みんなしてニヤニヤしている。
「今度、僕にも作ってくれよ」
とアンディ。すると
「私もー」
とか、みんなからも要望が上がる。
「小さいのでいいならな。それ、純金と白金だから、高いんだよ。金属も安いのにするからね」
と断っておく。
「それでいいよ」
とのことなので、今度作っておこう。
「さあ、食べよう」
とアンディの号令で花見が始まる。花びらが散りゆく中、笑い合い、いつまでもこんな日が続けばいい。そう思った。
「そうだ」
とアンディが話し始める。
「今年の夏もローゼンシュタインに行っていいか?」
ん?
「いいけど、何か理由でもあるのか?」
「前に見せてもらったグレイスの剣、カッコよかったから作ってもらいたくて。それとも、門外不出か?」
「いや、作ってもらえると思うけど、あれ、両手剣だぞ?」
「短くして片手で持てるようにならないか?」
「なるとは思うけど、相談だな。ま、行ったときに聞いてみてくれ」
と言っておく。
「じゃあ、仮でいいから、今年の夏はまたローゼンシュタインな」
「遠いけど、みんなはいいのか?」
みんな頷いているのでいいのだろう。どこか近場で遊べるところがないか聞いておこう。




