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高等学園2ー10

 訓練場の真ん中に集まると、ジョーンズは集まった冒険者を見回す。


「うーん、ちょうどいいのがいないな」


 と。


「仕方ない。俺とこのエマが相手をする。攻撃を入れてみろ」


 と。うーん。どうだろうか。悩んでいると、


「あそこに模擬剣、盾、槍があるから、使っているのをもってこい」


 と。かなでが不満そうに言う。「鎌がない」と。

 そのやりとりに集まった冒険者が笑っている。


「鎌って、あの草を刈るやつか?」


 とか言っているが、目の前に立っていたら、死んだな。鎌はエマがギルド内から持って来てくれた。さて、で、どうするのか。


「まず、エマと戦ってもらう。エマは両手にナイフを持つスタイルだ。もちろん今日は木製だが。で、エマに攻撃を当ててみろ、誰でもいいぞ。ちなみにエマはゴールドクラスな」


 とのこと。僕たちは相談する。この場合は一対一ということだろう。ナイフか。スピード重視だろうな。

 となると、かなでか。でも鎌だしな。

 素手なら僕らでもいい。だが、ここでは僕らは出ない方がいいかな。

 うーん、ボールズかベティ。アンディが聞いてみる。


「このメイドは、メイド服を着ていますが僕らのパーティメンバーで、さっき説明したメイドとは異なります。この子も僕らと一緒に戦ったんですが、メイドのこの子でもいいですか?」


 と。

 ジョーンズとエマはちみっこが出てきたことで驚いたが、顔を見合わせて許可を出した。


「では、エマとベティの試合を始める。ベティは素手でいいんだな」

「はい」


 と、ベティは答える。本当に、いつから肉体派になった。


「それでは、いくぞ、よーい、始め!」


 と。まずはベティもエマも警戒して近づこうとしない。ちなみに、ベティはメイド服を着ているので足捌きが見えず、これはエマにとって不利じゃないかな。と思っていると、ベティが動き出した。

 エマがいつでもきなさい、ってスタンスだったからだ。

 ベティはたったったと、間合い直前までいくとバックステップ。エマのナイフが空を切る。ベティは元の位置に戻って、もう一度たったったと向かっていく。

 ちなみに黒薔薇の強みは緩急をつけた動きとフェイント。ベティは間合に入った瞬間に同じようによけると見せかけて、ギアチェンジをしてエマの懐に潜り込む。

 エマのナイフが空を切っている間に下から鳩尾に拳を叩き込む。

 あー。一般人になんてことを。エマは崩れ落ち、吐いている。ジョーンズも目を見開いたまま固まっている。ベティがジョーンズに声をかけると、


「勝者、ベティ」


 と、ようやく宣言をする。


「お前ら、本当はこのメイドがホーンオーガを倒したメイドじゃないのか?」

「いや、ベティの冒険者カードにらいらい研のパーティ名が入っていますよね」


 と誤解を解く。


「わかった。次は俺と戦ってもらう。が、最初に、新しく登録したいっていうメンバーがいたな。そいつの実力を見せろ」


 と。僕らは全員で顔を振る。

 やめろ。と。


「新しく登録したいのはこの子なんですが、実力は確かなので、試さなくてもいいんじゃないかと思うんですが」


 とアンディが言ってくれる。


「ダメだ。そもそも十二歳超えているのか? そんなちみっこが、俺に一撃でも入れられるならゴールドスタートでもいいぞ」


 あーあ。もう引くきはないだろうな。ヒールをかけてもらって立ち直ったエマさんに言う。ヒーラーを用意しておけと。エマさんは怪訝な顔をしながら、他のギルド職員にヒーラーを集めてもらう。

 あれ、もしかしてエマさんはこはるに必要だと思ったかな?

 エマさんがこはるとジョーンズの元にいき、合図をかける。が、僕が待ったをかける。


「ちょっとまったー」


 と言ってこはるに近づく。


「お願いだから、殺しちゃダメだよ」


 と念押しをしておく。


「わかっておる。ちみっことか言われたことは忘れん。死なない程度にしておいてやる」


 と。わかってないじゃん。僕はトボトボと離れ、エマさんにいいよ、って合図を送る。


「それでは、ギルドマスターとこはるの試合を始めます。よろしいですね。それでは、始め」


 と言った瞬間、こはるはジョーンズの足元に飛び込み、足を払った。その次の瞬間飛んで、ジョーンズの後頭部を掴む。そして体重を乗せて地面にたたきつけた。

 こはるの体重でそんなことをしたら……ジョーンズは顔から地面にめり込んだ。足を払って後頭部を掴むまでは一瞬の出来事だった。エマさんも他の冒険者も開始直後にギルマスが体を浮かせ、そこでこはるが頭を掴んだように見えたのかもしれない。

 その後は自然落下プラスたたきつけだったので、他の人にも見えたはずだ。

 人がドラゴンに勝てると思うな。ギルマスは当然の如く動かない。こはるはエマに「エマとやら」と言って現実に引き戻す。


「勝者こはる」


 そうエマさんは宣言する。

 一方で、ギルドのヒーラーがギルマスを回復させている。アンディはエマさんに声をかける。


「どうします?」


 って。エマさんも困っている。まず、こはるについて、ゴールドスタートが決定。

 これは、ギルマスが宣言したからだ。

 で、僕たちの疑惑の件については、ギルマスマターが言い出したことなので、ギルマスが起きてくれないと進まない。また、疑惑が晴れたとして、あのツノをみる限り、ブロンズのままって言うわけにもいかないだろう。これもギルマス案件。下手するとこはるのゴールドスタートの見直しもあるかもしれず、結局のところ、ギルマスが起きてくれないと、何も始まらないのだ。

 エマさんは申し訳なさそうに


「ごめんなさい。明日、もう一度来てもらえますか?」


 と。うん。仕方ない。と僕らはギルドを後にした。




 翌日、また十三人でギルドに顔を出す。すると、エマさんの案内でそのまま二階の会議室に通される。そこにはジョーンズが待っていた。


「お前たち、というか、こはる、お前昨日俺に何をした。覚えている記憶は地面が近づいてきたことだけだ」

「ドーンとやってバーンとやっただけだが?」


 とこはる。どんな説明だよ。

 ジョーンズは呆れていう。


「もういいよ。お前ら。ほら」


 と冒険者カードを渡してくる。えらく綺麗な色だな。と思っていると、


「全員プラチナにしておいた。そうすれば、誰もお前たちに喧嘩を売らんだろう。被害が出るのは売った方だからな。抑止力として持っておけ」


 とのこと。さらに


「年一回はちゃんと依頼を受けろよ。常設でいいからな」


 と言って、ジョーンズは僕達を追い出した。

 まあいいか。年に一回は忘れないようにしよう。




 高等学園の二学期が始まり、秋になった。

 ところが、この年、なぜかバッタの発生がなかった。なので、被害もなし。占いどおり、西風は吹いたのだが。とうわけで、王都にも被害が全くなく、農家さんとか対策をとった人たちが大変な思いをしただけだろう。


 そんなわけで、今年も王国祭は盛大に行われた。

 ただ、昨年もだが、王国祭のステージにアイドルたちは出ていない。キザクラ商会が全て持っていくからと、市民団体から懇願がきた。

 なので、キザクラ商会は全く別の時期に感謝祭をしている。

 今年はアイラちゃんたちの後輩も育ってきたらしい。バンドも増えた。なので、別にやった方が、施設も貸し切ることができていいらしい。野外ステージも考えたが、苦情が来ると困るのでやめた。


 こんな感じでキザクラ商会の方も平穏。


 高等学園の文化祭もトラブルなく終わった。僕たちは昨年と同じようにバンドとアイドルグループのパフォーマスを行った。トリは、キザクラ商会の新人アイドルたちだった。


 僕たちの生活もあまり変わらなかった。高等学園にいって、帰りに部室で集まったり、キザクラ商会のスタジオに行ったり、あと、うちにみんなできて黒薔薇に稽古をつけてもらったりした。これは、ジェシカたちの入団が決まったことと、そうすることでうちでメイドをするベティが喜んだからだ。




 こうして冬が来た。そんな時に母上から呼ばれた。


「お前にアンから手紙が来ているぞ」


 と手紙を渡される。

 僕は開いて中を確認する。中には、キザクラがいなくなったことが書かれていた。僕はそれなりに覚悟をしていた。だが、確認をせずにはいられなかった。


 その日の夜にこはるに頼んでローゼンシュタインへ連れて行ってもらう。かなでも一緒だ。

 屋敷に入るとアンが待っており、事情を説明してくれる。十日くらい前から姿が見えないと。

 僕が部屋に行くと、いつもキザクラが座っていたベッドの真ん中にはサバ白のアラシが座っていた。第二世代だ。ベッドの周りには、他のアサヒ、ニシキ、ウシオもいる。

 僕はアラシを抱き上げ、キザクラがどこへ行ったか知らないかを尋ねる。

 アラシは「にゃーん」となくだけ。他の猫たちも同じだ。みな「にゃーん」と答えるだけ。摂理なのだから気にするなとでも言っているかのようだ。

 そうか。と僕はガックリして、ベッドに寝転がる。明日ちょっと探してみるかと。

 猫たちはやはり気にするなと言っているかのように「にゃーん」と鳴くだけだった。


 翌日、他のメイドや門番にもキザクラのことを聞いてみる。

 新たにわかったことは、やっぱり十日前くらいに、屋敷を出て行ったということだけだった。

 出て行った時はアラシたち四匹を連れてだったのだが、帰ってきたのはその四匹だけだった、というか、この四匹はいつのまにか帰ってきていたらしい。

 結局、どっちへ行ったかもわからなかった。自分を納得させるためだけのためにでも町中を歩いて回ろうかと思ったが、かなでとこはるに止められる。無駄だと。

 僕はそれにしたがって屋敷の裏、厩舎の近くのベンチまでいき、座る。ここはキザクラに初めて会った場所だった。手を怪我していて不自由だったにも関わらず、僕に干し肉をねだりに来ていた。マイヒメたち四匹をなんとか育てようとしていたのだろう。途中で諦めて僕に押し付けようとしたけどな。

 そんなことを思い出しながらぼーっとしていると、アラシたち四匹がやってきた。三匹は足元に座り、アラシは僕の隣に座った。僕はアラシを抱き抱え、わしゃわしゃする。アラシをもちあげて僕の目線に合わせる。


「お前たちが看取ってくれたのか?」


 と聞くと、


「にゃーん」


 と答える。そうか。


「ありがとう」


 とアラシと抱き締める。涙が止まらなかった。アラシは抱かれるままになっている。


 どのくらい泣いていたかわからないが、ようやく落ち着き、アラシを解放する。

 すると、下にいたアサヒたちは僕の足に頭を擦り付けて去ってく。そして三匹に続いてアラシも去っていった。


 猫の寿命は十八年くらい。ちょっと早かったんじゃないか? まあ、出会った時が何歳だったかわからないし、それに、たくさん産んだしな。おかげで楽しいこともいっぱいあった。たくさん助けてももらった。

 キザクラ、ありがとう。よい転生を。


「猫も生まれ変わるんだろ?」


 とかなでに聞くと


「はい」


 と言って僕の横に座ってきた。


「今度は何に生まれ変わるのかな? 人ってこともある?」

「はい。あります。ですが、ご存知かと思いますが、記憶はクリーニングされていますよ、人に転生するなら」

「そうだね。でもどこかでまた会うかもね」

「陵様? 寂しいのでしたら、私をわしゃわしゃしていただいてもいいんですよ?」

「うむ、妾もいい子いい子してくれて良いぞ」


 と二人とも僕によってくる。こはるが座っているからベンチがギシギシ言っているけど。とりあえず、二人の頭をいい子いい子した。


「二人とも、慰めてくれてありがとう」




 その夜、僕らは王都に戻った。

 僕らを背中に乗せているこはるが聞いてくる。


「ところで、陵様とは?」


 かなでは「あっ」という顔をしている。


「陵といのは僕のコードネームだ。あだ名だ。ただ、これは、ソフィとミハエル、フランの四人だけの時しか使ってない。だから、この四人しかいない時はこはるも陵と呼んでもいいよ」


 と答える。


「内緒ね」


 と言うと


「内緒かー」


 とちょっと嬉しそうにしている。まあいいか。


 第一世代がそろそろ十二歳。順番に逝ってしまうのかもしれないな。それに対して僕らは寿命が長い。猫たちを飼うのに、覚悟ができていなかったな、と反省した。

 父上も母上もそろそろいい歳だし、色々と覚悟がいるな。僕はかなでをいい子いい子して、みんなでいつまでも一緒に生きていられたらいいのに、と無理だとわかっている願いごとをした。

 そこへタイミングよく星が流れた。うん。叶うかもな。叶えたいな。でも、死なないなんてことはないだろうな。


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