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砂海と巫女とサンドワームな俺  作者: 約間円
第一章 巫女と俺と砂海の骨王
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第十三話 砂海の英雄

(啖呵を切ったはいいが……さすがに、こりゃあきついな)


二十本を超える『砂の腕』が、骸骨の王の周囲で対軍馬陣地の杭の群れのように立ち並んでいる。

速度も威力も尋常ではなく、強度こそ脆いが何度でも復活する。

しかも俺はその中心に自分から突っ込んでいかなければならないのだ。


今度はもう、軽快に足運びだけでかわし切ることは出来ない。

なにしろもうどこにも隙間がない。どれだけ身を捩って小さく丸めても、『砂の腕』の密度が高すぎてどれかしらにはぶち当たる。


「悪い、アイシャ。無傷ってのはムリかもしれん。後で必ず治すから許してくれ」


『それは、別に構いません。けど、こんな中をどうやって!?』


体の内側からの問いに、俺は彼女の体で答える。

右手に握った曲刀。その刃で目前に迫った『砂の腕』を、そぎ落とすように削り斬る。刃を捻り、滑らせ、弾く。


二本、三本、四本。

一歩ごとに現れる『砂の腕』を、最低限の面積を削り落とし、体を通す隙間を生み出していく。


通れる隙間がないのならこじ開ければいい。

だがスケルトン・キングの方も一本ずつでは埒が明かないと判断したのか、大胆な手に打って出た。


『一度にこんなにっ……!』


残りすべての『砂の腕』を、一気呵成に差し向けてきたのだ。

天蓋となって全方位を覆い尽くし、雪崩の如く『砂の腕』が降り注ぐ。

回避は不可能。一本や二本を斬り払っても意味はない。


だから俺は足を止め、腰の薄布に短刀を差し留めた。

両手を自由にしてシャムシールを上に掲げ――高速で、回転させた。

少女の指先を支点に刀身が回り、迫り来る『砂の腕』を刃の盾となって切り刻んでいく。


崩壊した『砂の腕』が砂となって降るが、目を細めるだけで閉じることはしない。

コツは支点の置き場所にある。唯一無防備な柄を握る手を傷つけないために、中心点だけは攻撃の間隙(かんげき)に置き続ける必要があった。


ちなみに今の動作の中で一番ヒヤヒヤしたのは、腰に差した短刀の重みで腰の薄布がずれ落ちないかという事である。


『そ、それは今はいいですからぁっ!』


かくして『砂の腕』はそのすべてが崩壊し、砂に還った。

もちろんあと数秒もあれば再び形を取り戻して襲い来るだろうが、ならばそれより速く駆け抜ければいい。


だがそのためには最後に立ちはだかる関門があった。

二本の、重堅な骨の巨腕。

この二本だけはやすやすと斬り崩してやることはできない。


先程は隙を突いてすり抜けられたが、今は片手が弱点の眼窩を覆っている。さてどうするか。


熟考に、落ちる寸前。

爆音によって俺の思考は打ち切られた。

中威力の火球魔法。爆煙と衝撃波によって、迫っていた骨の左腕が弾かれていたからだ。


「おぉらぁあああああっ!!」


さらに、弾かれた左腕に向かって咆哮が生まれる。

分厚い湾刀。今俺が握っている剣よりも一回り大きな刀剣を振り回し、護衛隊長のハシムが骨の左腕に斬りかかったのだ。


それだけではない。今もなお右の眼窩を覆い続けている骨の右腕に、何発もの火球が立て続けに直撃した。

衝撃に煽られ、塞がれていた眼窩にわずかな隙間がこじ開けられる。


「今です、お早く!」


「女子供にあれだけ煽られて、黙って突っ立ってなんていられるかよぉぉッッ!!」


護衛たちを指揮して火球魔法を斉射しているであろう副官の女性の声も。そして骨の左腕を引きつけるために大立ち回りを演じているハシムの声も、恐怖と緊張で引きつっているようだった。

それでもなお、彼らはもう一歩も引かない。引き下がらない。


歓喜の声が口笛となって、思わず喉奥からこぼれ出す。

最高だ。それでこそ本物の戦士だ。


だが今は称賛の言葉はいらない。

ただ成果でもって彼らの献身に応えるために、俺はこじ開けられた眼窩への道を踏み出そうとして。


体が、凍りついた。


「不測の事態は、ある程度予測してはいたが。さすがにこれは予想の外だ」


背後から。

恐怖を跳ね除け、強大な敵を前に協力してくれようとしていた護衛たちのさらに後ろから、声が響く。


しゃがれたその声の主はどこまでも感情を押し隠し、声までもが無表情な冷徹さを孕んでいた。


ギリギリと、全身を針で留められたかのような拘束感に苛まれながら、俺はどうにか首から上だけを後ろに向ける。ハシムも、護衛たちも、声の主を除くその場の全員が、苦しげに体の主導権を奪われていたようだった。拘束の魔法。最悪のタイミングで施された、最低の妨害。


そう、その男はいつだって例外の位置にいた。


「……て、めぇは……ッ!」


「ふむ。……まさか、自ら他者の魂を引き入れたのか? どうにも挙動が不可解だと思ったが、余計な入れ知恵をした下手人がいたということか」


砂漠の布服を纏う老人にして一団の首魁、アサド。

その男は手に持った魔道具らしき宝玉から青白い光を放ちながら、感情を宿さない瞳で睥睨した。


「まぁ、いい。折角の手駒だったが、それを壊されては元も子もない。今回は全員砂海に沈め、また改めて集め直すとしよう」


「アァァサァァドォォォォォッ!!」


「では消えろ。役立たずの巫女と、捨て駒にすらなれない奴隷共よ」


老人の悪魔のような言葉を最後に魔神の眷属が数十の『砂の腕』を生み出して、全員に死が這い寄る。


そして――そして。

白い閃光が、そんな絶望を貫いた。

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