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貴方に黒い花束を  作者: 雪逸 花紅羅
消えゆく理と運命の狭間で
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天使が堕天使になるまでの取るに足らない昔話

ガレッド視点です。

今回は少しだけガレッドの昔話を書いてみました。

上手に書けたのか不安しか残りませんが・・・いってみましょう!!

相変わらず鳴り止むことのないオルゴールに私は手を伸ばした。

しかし、伸びた手はオルゴールに触れることなく空を切ることになった。

お嬢様がオルゴールの蓋を閉じたのである。ならば、この手の行く先は無い。

私は手前にあったティーカップに手を運び、片づけた。

それが一番自然に見えるだろうと思ったからだ。

この動作に対してお嬢様は何も仰らない。良かったと心の中で深い溜息をついた。

ティーカップを片付ける音に交じり微かにお嬢様の声が聞こえた。


「ねぇ、ガレッド・・・天界に行きたいのだけれど行き方を知らない?」


聞くだけ無駄な問いだと思えた。私も元は神に仕えた天使。

天界に行くなど容易いことだ。尤もショコラさえ居なければ・・・。


「私の翼であれば使い物になります。お嬢様位ならば抱えて飛ぶことも可能です」


ええ。お嬢様だけであれば何の心配もないのです。

お嬢様は軽いですし、何より亡くなられる原因がありません。

それに比べてショコラは重く、何より私が抱えて飛びたくはありませんので。


「おい、俺はどうなる?」

「ショコラ、まさかとは思いますが流石に飛べませんよね?」

「飛べるように見えるか?見えるならお前の目は節穴だ」


聞いた私が愚かでした。ショコラは超人であっても人間なのです。

人間が空を飛ぶことは出来ませんしね・・・どうしましょうか。

空飛ぶ機械などもなく、他に使える方法といえば・・・!

あることにはあるのですがショコラは確実に嫌だと言うでしょうね。


「ショコラ、貴方はからすに運んでもらいなさい」

「ハァッ?出来る訳ないだろう。そもそも俺は鴉が嫌いだ」

「そうですか。ならば良いのですよ。私とお嬢様だけで行きます」

「ちょっと、ガレッド。それは酷過ぎる提案だと思うけれど」

「いいえ、お嬢様。それしか天界へ行く方法は無いのです」


確かにショコラにとって酷な提案であることは重々承知しております。

しかし、私も大の男を抱えて空を飛べる程の筋力が無いのです。

それに重量オーバー・・・色々とオーバーしていますので。


非情と言えば余りにも非情。それでも覚悟のない者に天界は厳しい。

天界に入れば即刻、命を落とす可能性もある。

それを知っている私だからこそ判断することが出来る。

天界で全うに戦って勝てる筈が無い。地上とは比べものにならない。

無駄な血は流すべきでは無いのです。神様の為にもお嬢様の為にも。

だから、これは私が下したショコラに対する最終試験。

さぁ、立ち向かいなさい。苦手とするものを信用する強さを!

私は答えを待った。次の一言が彼の運命を別つのだから。


「分かった・・・そうしよう」


長考の末、彼が出した決断は称賛に価すべき答えだった。

大切なものの為に自らの命も差し出す潔さ。

それが彼の長所であり短所でした。

答えはやはり初めから決められているのですね。


「おめでとう、合格です。では用意をしましょうか。手伝ってください」

「嗚呼・・・嫌な予感しかしないが」

「頑張ってね、ショコラ!」


キッチンの扉を開くと私はショコラへと告げる。


「本当に良いのですか?もう後戻りは出来ませんよ」

「仕方ないだろ。腹を括るしかない」

「決意は固いようですね。私も止めることは致しませんので」

「鴉か・・・」


やはり荷が重そうですね。残念ながら本当に方法がこれしかなのです。

悩むショコラに苦笑しつつ、私はティーカップを洗い流した。

嗚呼、このように悩みも洗い流せれば良いのですが。そうもいきませんね。

流水は神の御加護。ティーカップは人間。注がれた紅茶は感情なのですから。

そしてティーカップは割れ、紅茶はその味を変えるのでしょう。

不変であるものなど何一つ無い。あるとすれば運命と呼ばれるものでしょうか。


「ショコラ、ティーカップを割ったらどうなると思います?」

「怒られても知らないぞ。俺は何もしてないんだからな」

「違います。哲学的な問いなので真剣に答えてください」

「割れたものは元に戻らない。どう足掻いても完璧には戻らない」


そうですね。貴方の言う通りですよ、ショコラ。

一度、割れてしまったものは元に戻ることは無い。

例え修繕し、傷が消え、姿形が元に戻ろうとも割れたという事実は消えない。

その事実とは運命であり誰一人として止めることの出来ない結末なのだから。


「急に何だ?心配事でもあるのか?」

「いいえ。特にありませんよ、ショコラ」

「オルゴールの時、様子も変だと思った」

「思い違いです。人の心配は良いですから自分の心配をしなさない」

「でもな・・・」

「今から向かう天界で犠牲になるのは貴方ですよ。甘さを捨てた方が良い」


天使が望む死刑とは言葉通りの死刑では無い。

中には良心的な天使も居る。争いを嫌い、平穏を好む天使も居る。

しかし少数派に過ぎないのだ。そのような天使は半数にも満たない。

良くて即死、斬殺、暗殺。悪ければ死ぬことすら許されない。

永遠に苦痛という檻に閉じ込められ幾度も罪を問われ続けるだろう。


正直に言えば私さえ恐ろしいと思った。

神の住むべき楽園が、こんな地獄で構わないのかと疑問を抱いた。

それでも天使は信じているのだ神様こそが唯一正しい光であると。

天使こそが光を守るべき存在であると信じて疑わなかったのだ。

私も信じていた。神様は常に正しかったし、その優しさは本物だった。

だが、天使の行いには度を越えたものが多く秩序がなっていなかった。

だから私は天使の座を捨て、天使と敵対した。

余りにも無慈悲な天界で生きていくことは出来なかった。

そう、私は神様の失敗作だった。あろうことか私は父を裏切ったのだ。

その罪は万死に値する。


神様を愛していた。

こんなに不甲斐なく、情けない私にも優しく手を差し伸べてくれた。

いつも、いじめられている私に「高位の座に就き身を護れ」とも。

努力して、努力して・・・様々な技と知恵を身に着けた。

全ては恩義に報いる為だった。神であり父である、あの方の為に!

神様もそんな私に様々な技を教えてくれた。感動し、涙したものだ。

そのことが気に召さなかったのだろう。私に対するいじめは激しくなった。


ある日、私に地上へ下りる機会が回って来た。

そこで私は一人の女性を目にした。勇ましく、強く、逞しい人だ。

一目で私は羨望の念を抱いた。人間の方が天使より優れていると感じた。

そのことに気付かれたのだろう。私は三天使の攻撃を受け、翼を負傷した。

天界に帰るには傷が深すぎて、地上に残るには危険すぎた。

行く当てはなく、帰る当てもない。私は絶望に打ちのめされながら願った。


そこに現れたのがケルビムの当主マリー様だった。

何も知らない私を屋敷へ連れて行くと宣言して、実行した。

「どうして?」と尋ねれば「全ては神の下に等しい」と。

心の底から感謝した。神様とマリー様に頭を下げた。


そこからというもの行く当てのない私はケルビム家の執事となる。

そして、ラディアお嬢様の執事となったのである。

幸せを噛み締める私を余所に、天界では裏切りの噂が広まっていた。

そう思われても仕方が無い。私は諦め、それを事実だと受け止めた。

神様の御心は計り知れない。きっと私を御恨みになっていることだろう。

いつしか純白の翼は漆黒に穢れ、ブロンドの髪も黒く染まってしまった。

嗚呼・・・やはり神様は私のことを御嫌いなのか。

切なくて、悲しくて、胸が張り裂けそうなほど痛かった。

まるで心に氷柱が刺さっているかのように。


「おい、大丈夫か?聞こえてるか?」

「・・・?何です?」

「何を考えていたんだ?尋常じゃない程、真剣な顔だったが」

「さぁ・・・何だったんでしょうね?」


天使が堕天使になるまでの取るに足らない昔話。

本当に愚かですね。私も人のことを言える立場ではないというのに。

天界へ行けば、あの方に御会いしなくてはならない。

誰よりも尊い、あの御方に・・・。

そればかりが私の気掛かりでした。


ガレッドがケルビム家の執事になる経緯ですかね。

天界のガレッド?アゼル?を書けて良かったと思っています。

しかし自己否定の塊というか・・・相当な努力家です。

近々、天界へ行くということで風当りが心配ですが・・・大丈夫でしょうか?

次回もお楽しみに!ありがとうございました!

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