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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第4章 忘却の彼方
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智慧の魔女

 グリフィンが消滅し、智也はゆっくりと高度を下げながら地面に着地した。


グリフィンのいた場所には巨大な穴が開いており、先程放った魔術の威力を物語っていた。


仇敵を倒し安堵したのも束の間、智也は全身の痛みが増して膝から崩れ落ちた。


彼の右腕の部分から、徐々に蒼い痣が広がり始め、左半身にまでそれが侵食し、激痛が走る。痣の出来た部分は段々とミイラのように変化していき、全身が蝕まれているような感覚だった。


(まずい、このままだと、完全に眷属化してしまう......)


体の痛みが更に増していき、心臓の鼓動が早まる。それと共に痣の侵蝕が増していく。



 その時、智也の体の内部で宇宙を映したような樹木の根が伸び、そして、その根が漆黒の色に変わった。


その瞬間、ミイラのようになっていた部分がまるで無かったかのように治っていき、痛みが和らいでいった。


眷属化していた彼の肉体が、突如として元の人間の姿へと戻ったのだ。


(あれ、こんなことが前にも......)智也は痛みが消えるのと同時に、意識を失って倒れた──



◇◇◆◆◇◇



 智也は夢を見た。


真っ暗な空間、どこを見渡しても、何も見えない。空虚さと孤独さが酷く突きつけられるような、そんな空間だった。


まるで感覚は無いのに意識だけが有るという奇妙な状態で、智也はその空間にいた。


その時、声が聞こえた。それは男の声だった。



「守れなくて、ごめん」

その声の主はそう呟いていた。


その人物がなぜ謝っているのか、智也は見当もつかなかったが、漠然と眷属化した時に感じた"後悔や自責の念"の主はこの人物だと感じた。


智也は言いたかった『何をそんなに後悔しているのか』と、しかし、今の彼は意識があれど体が無い。故にその言葉は発せられなかった。



 漆黒の闇、あるいは虚空の中から智也の意識は再び覚醒する──



◇◇◆◆◇◇



 智也は現実世界で目を覚ます。


まぶたを開くと、真っ先に目に映ったのは先ほど倒したはずの【智慧の魔女】だった。


「起きましたね」と魔女が陽気に言った。


智也は飛び起き、蛇を見た猫のような俊敏さで距離を取った。


「お前は、さっき、致命傷を負ったはず......何で生きている!?」智也は驚きのあまり裏返った声で言った。


「貴方もやったように、肉体を少し"過去の状態に戻した"のですよ」と魔女は微笑んで言った。



「また、殺しに来たのか?」智也は警戒しながら訊ねた。


そう言うと、魔女はクスりと笑った。

「いえ、違いますよ。ただ貴方ともう少し話がしたくなったというだけです」


智也はその発言に疑問を持った。

「お前は僕が計画の邪魔だから殺す的なことを言っていただろ。どうして殺さない?」


「......確かに、貴方は確実に私の目的の障害に成るでしょうから、殺しておいた方がいいでしょう......しかし、それと同時に、私は貴方に期待しています。貴方なら、"私の為すことを阻止出来る"と」魔女は言った。


「......それは、矛盾しているだろ」智也は言った。


「そうです。私もそれは分かっています。ですが、面白い。そうは思いませんか?」と魔女は不敵に笑った。


「......どのみち、今の僕には戦えるほどの力は残っていない......話に乗るよ」智也は嫌々ながらも言った。


「ふふ、それは賢い選択ですよ」




 それから、智也と魔女はグリフィンの屋敷の方へ歩ながら話をした。


「お前の目的は何なんだ?」智也は言った。


「......それを今この場で私が言ってはつまらない。そこは貴方が推測するところですよ」と魔女は言った。


「......」智也は黙り、小さくため息をついた。


「そう言えば、二条家の者たちとは仲良くしていますか?」と魔女が言った。


(なんだ、急に?)


「仲良くはしている......でも、もしお前が二人に良からぬことをするなら、今度こそお前を完全に殺す」智也は冷徹な瞳になって言った。


魔女はおちょくるようにクスりと笑う。

「あら、怖いですね。もはや私のことは人として見てくれないのですか?」


「......月の神事件、もし朝霧さんが負けていれば、今頃数え切れないほど大勢の人が死んでいた。なんでお前がそんなことを平然と出来るのか疑問だった。でも、今日お前と会って確信したよ。お前は人を人として見ていない。人間も動物も、あらゆる生物を等しく軽く見ている」


それを聴くと、魔女は笑った。

「当然です。人も獣も、変わらない。命あるものはいつか死に絶え、"無"となる。そうすれば万物は等しい。人間だから命が重いとか、そんなことあるはず無いでしょう。人間含めてあらゆる生物は無機物と同じ、ただ感情を持っただけの"物"です」


「......お前は、命を何だと......いや、無駄か」智也は腹が立ったが、半分諦めの気持ちで言葉を抑えた。


「ふふ、最後まで言えば良いじゃないですか。お前は命を軽んじる化け物だとでも......ですが、生憎と私は命の重みというのがわかりません。貴方も私と同じになれば、きっと理解できますよ」と魔女は少し哀しげに言った。




 グリフィンの屋敷に着き、扉を開いて中へと入った。

屋敷に入ってすぐ、廊下で倒れる同じ顔をした執事たちが目に入った。


「彼らは、完全に同じ姿形をしている人造人間ホムンクルス。主を失い、命令権を持つものがいなくなったので活動を停止したのでしょうね」と魔女は言った。



智也は倒れる人造人間ホムンクルス達に哀しげな表情をした。


「ふふ、それらは生きていませんでしたよ。ただ、生きているように振る舞っていただけですから」魔女は言った。


智也はそれにこたえず、ただ沈黙した。



長い廊下を二人はゆっくりと歩く。壁に飾られている絵画は、生前のグリフィンが唯一残した物だ。


「この絵画達、ほとんどは魔物の姿をしていますけどね、あの一枚だけは少し違います」と魔女は一つの絵画を指さした。 


その絵画はグリフィンとは画風が違い、男のものよりも更に悍ましく、冒涜的なモノのように思えた。


その絵画に描かれているのは異形の存在。輪郭は人の形をしているが、それは魔物でも、ましてや人でも無い。


その絵画に描かれているのは、"神"だ。人間を恐怖させ、統一させる絶対的な力を持つ神。


その絵から感じる凄まじい本能的な嫌悪感に智也はそれから目を逸らした。


「その絵はグリフィンさんのお兄さんが描いたものですよ。題名は確か、『神話の楽園』でしたか」と魔女は呟いた。


(これが、楽園......?)

絵画に描かれている阿鼻叫喚し祈りを捧げる人々の姿を見て智也は思った。



「そうだ、貴方に"神話"の話をしてあげましょう」と魔女が突然言った。


「神話.......? 何の神話の話だ?」智也は尋ねた。


「強いて言うならば、"この世界の創造"に関する神話ですよ」魔女は不気味に微笑んだ──


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