21話(追放者サイド):愚かな襲撃者
数日後。
王都――【ぼったくりロード】ネズミ小路。
「おい、お前。本当にこっちなんだろうな」
「……ああ」
「ブリオさん、こんな大変な時に何をする気ですか?」
夜闇の中、路地裏を進む一団があった。
それは【金の太陽】のギルドマスターであるブリオと、その部下数名だった。
そして彼らを先導しているのは黒いフード付きローブを着た男だ。
「もし、嘘だったらお前の首を刎ねるぞ」
ブリオがその黒ローブの男を脅すが、男は笑うばかりだ。
「くくく……心配するな。奴らの拠点の場所は把握済みだ」
ブリオはアニマへの復讐を企てていた。だが、剣を折られたあの日以来、アニマの足取りが掴めなかった。そこで金を払って王都の闇に蠢く影達に依頼したところ、この黒ローブ男がアニマの拠点の場所を知っていると言ってブリオに近付いてきたのだった。
「良いか、お前ら。今から行く場所に潜む奴は敵だ。容赦なく全員殺せ」
「いやいや、待って下さいよブリオさん。そんな話聞いてませんぜ」
「……ギルドへの借金、犯した犯罪。全部、全うに清算していいんだぜ?」
「……ちっ、分かりましたよ。ただしこれで全部チャラですよ?」
渋々といった感じに部下達が頷いた。
「さあ……この路地です。そこの看板が出ている場所が……奴らの拠点です」
「……いくぞお前ら」
ブリオが剣を抜き、部下達も抜刀。静かに、三日月と狼の看板が掛かった店へと近付く。
路地には月光が差し込み、夜だというに、明るい。
「想定よりも――遅かったな。おかげで私は賭けに負けてしまった。その責任は貴様らの首で取ってもらおうか」
ブリオ達の頭上が声が降ってくる。凜とした、まるで月のように冴え冴えとした声だ。
「誰だ!?」
「ふふふ……さて、誰だろうな」
その店の屋根の上に立っていたのは、狐面を被った女だった。手に持つのは、分厚い幅広の刃をもった曲刀だ。ブリオの記憶が正しければ、あれは西方の砂漠の民が好んで使う曲刀だ
そんな刃が月光を反射しきらめく。それは月下のその女の、美しさと不気味さをより引き立たせていた。
あれは……まずい。ブリオの剣士としての直感がそう囁いていた。部下に任せても無駄だろう。
「ち、お前らは、店を潰せ!!」
ブリオがそう言って、指示を出すと同時に飛翔。屋根の上に飛び乗ると、その狐面の女へと斬りかかった。
「その程度の腕でうちのギルドに討ち入りとは……舐めているのか」
狐面の女の怒気を伴う言葉に、ブリオは一瞬動きが硬くなってしまう。
そしてここで初めて知ったのだった。本物の――殺気と剣気がどれほどまでに強烈か、を。
「師匠が出る幕もないな」
狐面の女がブリオの動きに合わせて、まるで舞踏のようにステップを踏みつつ曲刀を薙ぎ払う。刃同士が触れ、金切り声を上げる。
「は?」
「一合目で折れるとは、なまくらすぎるな」
ブリオはこの日の為に新調した剣があっさり切断された事を一瞬理解できなかった。更に狐面の女は回転。翻す刃が縦に走り、何かがボトリと屋根の上に落ちる音が響く。
その音を聞いて、ブリオはようやく右腕の感覚がないことに気付いた。
「うわああああ!! 俺の腕があああ!!」
ブリオが肘から先が消失した右手を抱えながら、屋根の上から転げ落ちた。その先には、更なる地獄が待っている。
「ぶ、ブリオさん……助けてくれ……スケルトンが……ひえええええ」
満身創痍といった姿で、部下達が悲鳴を上げながら逃げていく。それらの後を追うのは、不気味なオーラに包まれたスケルトンナイトの群れだ。
地面に身体を打った衝撃で動けないブリオはあっという間にスケルトンナイトに囲まれてしまう。
「ひいいいい。近寄るな!! 近寄るな!!」
悲鳴を上げるブリオへと小さな影が迫る。
「お兄さん……死体? それとも死体じゃない?」
それは、顔の上半分をドクロのような面で隠した幼い少女だった。手にはその体躯よりも大きな、骨を組み合わせて作ったような禍々しい大剣が握られていた。
「まあ……どっちでも……いいや。どうせ死体になるし」
少女が、見た目にそぐわない膂力で大剣を振り下ろした。
「くそおおおお!!」
ブリオは渾身の力で身体を跳ね上げると、そのまま脱兎の如く逃げ出す。
「なんだあいつら!! ありえない!! なんで俺より強い奴ばっかりなんだ!!」
早く回復魔術を掛けないと右腕が戻らない。焦るブリオはいつのまにか姿を消していたあの黒ローブ男の事をすっかり忘れていた。
「ああ……弱すぎる。【金の太陽】の筆頭剣士というから期待したが、何一つ出来ず敗走とは……これでは計画が台無しだ。もういい。始末せよ」
無様に走るブリオにそんな言葉が届いた。
「え?」
ブリオが気付いた瞬間。ブリオの身体にナイフが刺さっていた。
「かはっ」
闇からまるで突然現れたかのような、複数の影が黒く塗られたナイフを次々にブリオへと突き立っていく。
「なん……で」
「お前が弱いからだよ」
一人の影――ブリオを先導していた黒ローブ男がそう言って、ブリオの頭へとナイフを突き立てた。
「……陽動にすらならないとは無能め。仕方ない、我らだけで行く。【冥王の徴】を取り返すぞ」
黒い影が蠢き、ブリオ達が狙っていた店へと向かう。
しかし彼らはその途中で、立ち止まった。
「ちっ、ブリオ……あの馬鹿野郎」
なぜなら――その路地の先には、彼らが今まさに求めている、【冥王の徴】を構えている男が現れたからだ。
「目標発見――奪うぞ」
黒ローブ男の声と共に再び戦闘が――始まる。
これにてざまあは完了ですが話はまだまだ続きます。そして次話で新キャラ登場です(ヒロイン候補ではありませんw




