16話(追放者サイド):落日
ギルド【金の太陽】拠点内酒場。
「ブリオさん、俺達はこのギルドを抜ける」
そう言いだした、このギルドに所属する新人パーティは、今日だけで五組目だ。ブリオはもはや怒る気力もなかった。
「さっさと出て行け。言っとくが、あとから戻りたいと言っても無駄だからな」
「誰が戻るかよ。自分達ばっかり支援魔術独占して、肝心のギルドの業務が全部止まっている。Aランクギルドと聞いてきたのになんだよこれ。全部アニマさんのおかげだったじゃねえか。俺達はアニマさんとこに入れてもらうさ」
新人冒険者達がそう吐き捨てて出て行った。
ブリオは剣に思わず手を掛けるも、隣にいた古株のメンバーの重戦士レントが顔を横に振った。
「ブリオさん。悪い事は言わねえからよ、アニマさんに戻ってきてもらおう。ギルド庁への支払いが滞ったせいで、ギルドの生命線とも言える依頼を受けられなくなるなんて、もうこのギルドは終わっている」
「……ふざけるなよ。俺が! どれだけ苦労して!! このギルドをここまで成長させたと思っているんだ!!」
ブリオが今度こそ激昂する。だが、もうそれを宥める者はいない。皆、そそくさと拠点を去って行くのみだ。
「あんたじゃなくて、アニマさんが苦労して努力した結果に、俺は見える。ブリオさん、あんたギルド業務何一つ出来ないじゃないか。なんで、ギルド庁への支払いが行われていない? 武具のメンテナンスはどうなってる。命を左右するアイテムも補給出来ていないぞ。さらに、バフについても皆が質が下がったと嘆いている。新人達もどうかと思うが、出て行くのも仕方ないだろ」
「……黙れ」
「そもそも、ギルド運営資金がなぜ底を付いているんだ? 前までは堅実な経営状況だったはずだろ。その鎧……高そうだな」
「それは……」
ブリオは言えなかった。ずっと財布の紐を握っていたアニマがいなくなったのを良いことに、鎧を新調したり、高級娼婦を呼んでどんちゃん騒ぎをしたりと、金を使いまくったことも。
「俺は、剣士ブリオに憧れてここに入ったんだ。アニマさんが堅実なギルド経営をして支援もきっちりしてくれていたから安心していた。なのになんで、あんたらがアニマさんを追い出したのか理解が苦しむが、きっとSランクへの布石だと俺は信じてたよ。だけど、この体たらくはなんだ?」
レントの低い声に怒気が籠もる。
「……アニマだ。全部アニマが悪いんだ」
「あんたはもうダメかもしれねえな。俺も出て行かせてもらう」
そう言って去っていくレントの背中を見て、ブリオは、アニマに戻って来てもらおうかと一瞬、考えてしまった。
「ありえん!! くそ!! おいコモド!!」
自分に対し怒りを感じたブリオが近くのテーブルを剣で両断しながら、とあるメンバーを呼んだ。
「なんすか、ブリオさん」
現れたのは、レンジャーと呼ばれる職種の、隠密行動や斥候を得意とするメンバーのコモドだ。
「……アニマを探す。手伝え」
「っ!! もちろんです!」
コモドは、ようやくこの頭の堅いギルドマスターが思い直した事にホッとした。
だけど、コモドは気付いていない。
ブリオの目に、狂気が宿っている事を。すでに、【金の太陽】の名声も剣士ブリオの誇りも翳り――落日が迫っている事を。
金の太陽は沈み……そして銀の月が昇る
ざまぁまで……あと少しです




