15話:シエラの想い
「死操士ってのは知っての通り、死体を利用するスキルや魔術が多いんだけど、テトの場合はまさにそれに特化していてね。しかもほとんどが範囲スキルや魔術で、その効果は敵味方問わず、範囲内に居れば全員に適用されるものばかりだ。まるで……味方を殺して死体として利用しようとばかりにね」
なるほど……確かにあのスケルトンナイトの爆破と再生は、近くにいる味方まで巻き込んでしまうだろう。
「対軍特化とでも言うべき能力だ。並のギルドなら彼女一人で潰滅させられるだろうね」
「あの歳で一体どんな経験をすれば、そんな事になるんだ……」
俺は思わず唸ってしまった。想像もしたくない地獄があったとしか思えない。テトがあっさりこのギルドに入る事を決めたのはおそらく、無意識にでも今の生活から抜け出したかったからだろう。
あの怯えたような目を見ると、心が痛くなる。
「いずれにせよ、そのパパとやらが、こちらに干渉してくるかもしれないね」
「好きにしたらいい。邪魔するならぶっ潰す」
「その意気だよ、ギルドマスター」
シエラが悪い笑みを浮かべながら俺の肩を叩いた。ぜひとも、邪魔してきて欲しいと言わんばかりだ。
「しかし……冥王の徴か」
俺はカウンターのテーブルの上に置いた銀のロングソードを見て、ため息をついた。あの依頼はいわゆる地雷、もしくは罠依頼って呼ばれる物だったと今さら気付いたのだ。
依頼に対する報酬金は、基本的に依頼主が払った依頼料の額によって変わってくる。だが、依頼主の中には依頼内容によってギルド庁が決めた高額の依頼料を払えない者達がいる。
そういった場合は、物品を報酬に入れる事で依頼料代わりにできるのだ。当然ギルド庁によってその物品の審査はされるので価値は確かなのだが……。時にそういった物品で冒険者を釣って、嵌めようとする依頼主もいるのだ。
特に、ダンジョンで拾った武具を依頼料代わりにして悪巧みをする闇ギルドの連中は多いとか。つまり俺はそれにまんまと引っかかったわけだ。あの依頼が放置されていた真の理由がこれだろう。まともな冒険者なら避けるような依頼だからだ。
俺は最近、ギルドの雑務やら新人パーティへと助っ人ばかりしていたので、依頼を吟味して受けるという冒険者にとって一番の基本となる部分が疎かになっていた。スキルのせいで強くなって、少し驕りが過ぎていたかもしれないな。まあ、この武器自体は良い物だし、結果的にテトと出会えたから良しとしよう。
「……テトがパパと呼ぶ奴は何者なんだろうな」
「さてね。なぜ冥王の徴を集めているのかも謎だし」
シエラの顔には複雑な表情が浮かんでいた。俺は気になっていたことがあった。
「なあ、シエラ。その冥王とかいうギルドは……まだ存在しているんだろ」
「……ああ」
「どういう関係だ」
俺はただ、かまをかけただけだ。
だが、シエラの頭上の狼耳がピクリと反応したのを見て、俺は自分の推測が間違っていない事を確信する。
「流石だね、アニマ」
降参とばかりにシエラが微笑みながら両手を挙げた。
「ただの当てずっぽうだけどだ。テトが冥王の徴という言葉を出した時の反応。相手は闇ギルドで、明らかに俺達のギルドに相反する存在だ。知識として知っているだけならもっと反応も大きいはずだったのに、妙にそれが薄かった、それに俺の剣に最初やたら反応してただろ」
「そこまで見ていたとはね。確かにあの時は素直に驚きかけたから、わざと反応を隠したのだけど……それが仇となったとはね」
「それにな、俺はあまり偶然というものを信じなくてな。また話を詳しく聞くつもりだがアスカもどうやら何かその【冥王】とやらと関わっているようだし、テトも言わずもがな。そうなると当然、シエラも……と考えても不思議ではないだろう?」
「……僕の父親は、元【冥王】のメンバーなんだ」
なるほどね……。
「それなりに高名な冒険者でね。だけど、【冥王】が崩壊した時にダンジョン深層で行方不明。まあどう考えても死んだんだと思うけどね。この拠点は元々、父親が趣味でやってた酒場なんだ。当時の【冥王】のメンバーがよく集まっていて、必然的に第二の拠点みたいになっていた。僕も幼い頃よく彼らに遊んでもらっていたよ」
「七年前だったか。その崩壊とやらは」
「うん。それから僕はめでたく孤児となって、必死に生きたよ。闇ギルドを利用して、時に利用されてなんとかこれまで生きてきた」
シエラの顔に暗い影が落ちる。その壮絶な過去は、テトに勝るとも劣らないだろう。のほほんと生きてきた俺とは違う。
「僕は、かつての【冥王】が歪な形になっていくのを見たくなかった。だけど僕は無力な子供だった」
「……だから、最強のギルドを作ろうとしたのか」
「うん。【冥王】は……素晴らしいギルドだった。全員が個として最強で、そしてそれをサポートするメンバーも皆気の良い奴らでさ。だけど……僕は……」
震えるシエラの肩を俺がソッと抱いた。
「俺は気にしないさ。俺同様、シエラも好きにしたらいいし、このギルドもどういう方向性に持っていくにしろ俺はシエラを信じるよ」
「僕は――復讐がしたいんだ。父さんを……みんなを奪ったあいつらに」
「あいつら?」
「今の【冥王】を率いる奴らさ。最低最悪の屑共だ」
吐き捨てるようにそう言ったシエラの顔が怒りで赤く染まる。
「ごめん。これは僕の個人的な考えで、【銀の月】は関係ないんだ」
「良いじゃねえかそれでも。なら、俺らでぶっ潰せばいい。俺は特に恨みなんざないが、どうにもアスカもテトも何かしらそいつらに関わっていそうだからな。そういうしがらみはさっさと解消させるに限る。うだうだウジウジするの、俺は個人的に嫌いなんだよ」
あとから尾を引くぐらいなら、今バシッと解決させた方が良い。
「はは……ありがとうアニマ。君をギルドマスターにしてやはり正解だったよ」
そう言ってシエラは俺の肩に体重を預けるようにもたれかかってきたのだった。
「とりあえず明日からは……調査をしないとな」
俺はシエラの温かい体温を意識しないようにしながら銀のロングソードを見つめたのだった。
【銀の月】の当面の目標が出来ましたね。アニマさんもギルドマスターらしくなってきました




