14話:四人目のメンバー
「それは……違うぞテト」
俺がそういうと、テトがキョトンとした表情を浮かべた。そこには嘘も何もなく、純粋にそう思っているように見えた。……どうやらこの子はそういう風に育てられたのだろう。
「確かに、ダンジョン内にある死体の物は、拾った人の物になる。だけど、まだ生きている人を殺して奪うのは犯罪だ。本当であればテトは衛兵に突き出されて、よくて禁固刑、悪くて死刑だ」
「でも……パパは……そうしろって」
テトがそう言って、怯えたような表情を浮かべた。
「テト、冒険者の中にはそういう犯罪を行う者もいる。ダンジョン内は基本的に無法地帯だからな。殺して装備を奪う、いわゆる冒険者狩りってやつだ。だけどな、そういう奴はいつか逆に狩られる運命にある。だから、絶対にそんな事はやっちゃいけないし、そんなことをテトに教えた奴は親だろうが、信じてはいけない」
ダンジョンで冒険者である両親を亡くし、孤児となる子供達がこの王都には一定数いた。そういう子は大体野垂れ死にか、もしくは闇ギルドなどの犯罪組織にいいように扱われて、やはり死んでいく事が多い。
俺は何度かそういう孤児と依頼中に遭遇したことがある。だけど、俺には彼ら彼女らの世話をするほどの余裕はなかった。生きていくだけで精一杯だったんだ。
後に、そんな子達と苦い再会を果たした事もある。
だから、俺はテトを放っておけなかった。
エゴかもしれない。綺麗事かもしれない。だけど、俺はもう好き勝手生きると決めた。
「テト、君は強い。素晴らしい力を持っている。俺とアスカ二人を相手に、惜しいところまで追い込んだ。だから、その力は正しい方向にとまでは言わないが、せめて罪のないように使って欲しいんだ」
「……正しいって何。罪って何……テト、分かんないよ」
テトが泣きそうになりながら、そう声を絞り出した。
俺だって分からないさ。だけど、それでも今のテトが間違った方向に向かっているのは分かる。
そんな俺とテトを見て、シエラがため息をついた。
「……テト、君さえ良ければ、僕らのギルドに入るといい。アニマが実力が認めるなら、構わないだろうさ。ついでにそっちのポンコツ剣士も」
「ついでとはなんだついでとは」
アスカが口を尖らせるが、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「良いのか、シエラ。目指すのは最強最高の最小のギルドだろ」
「良いんだよ。ちゃんと、二人とも見たから」
なるほど、【心眼】を使ったようだ。ならば問題ないだろう。やはりテトもアスカも実力者だったか。あとでどんな感じだったか聞いておこう。
「ギルド……?」
テトが首を傾げた。
「家族……みたいなもんだ。まあ、うちに関してはもっと殺伐とした寄り合いになりそうだが……」
「テトはずっと一人。一緒なのは死体だけ……時々パパが、あれしろこれしろって言ってくるの。最近は【冥王の徴】を集めろって……。持っている者がいたら殺してでも奪ってもいいって」
やはり……その冥王の徴とやらが関わってくるか。
俺は銀のロングソードを見て、なぜそんな曰く付きの品があんな依頼の報酬になっていたのだろうかと、疑問に思った。
「テト、そのパパとか言う奴は間違っている。だからもう関わらない方がいい」
「……お兄ちゃんは、痛い事しない?」
怯えたような目で見てくるテトを、俺はまっすぐに見つめ返す。
「しないさ。俺も、シエラもアスカもな」
「……ここにいてもいいの?」
「もちろんだ」
「……分かった。テト頑張る」
そう言って、初めてテトは笑ったのだった。その笑顔は、年相応で、とても可愛らしかった。
☆☆☆
「しかし、たった1日で、二人もメンバーを増やすとはね」
「悪かったって」
「別にいいさ。二人とも文句のない実力者で、更にうちのギルドに相応しい力を持っている。むしろ、褒めているんだよ。偶然か必然か……」
狼亭の一階で、俺はシエラとビールを飲みながら今日の事について話し合っていた。テトはあの後またすぐに寝てしまい、アスカは宿屋から荷物を運んでくると出て行った。
どうやら俺含め、全員がここに寝泊まりする形になりそうだ。俺だけ寝床が1階の奥にある鍛冶場らしいが……まあ、別にいいけどさ。
「アスカに関しては、剣士として完成されているね。あれでまだ伸び代があるから恐ろしい。何より、うちにぴったりのスキルを持っていた。本人は無自覚のようだけどね」
「スキル?」
「ああ。【全陣鏖殺】っていうスキルでね。身体能力、持久力、自己回復力などが超向上する代わりに、戦闘中に敵と味方の区別が付かなくなるという、特級にやばいスキルだ。あの実力でそんなスキルを使えば当然、一緒に戦うパーティメンバーにも甚大な被害が及ぶだろうね。よく、これまでは追放で済んでいたよ」
なるほど。それで俺にも攻撃を向けていたのか。めちゃくちゃやばいスキルだな。
「まさに、我がギルドに相応しい人材だよ。敵味方問わず斬り伏せる剣士なんて、かっこいいじゃないか」
「そうか……? 大迷惑斬りばかりされて、大変だったぞ」
「でも、君は一緒に戦って平気だったのだろ?」
「平気じゃねえよ。まあ避けたり防御したりすれば問題ないが」
「そのレベルに達していない奴はそもそもこのギルドには相応しくないさ」
「なるほどな……それで、テトは?」
俺がそう聞くと、シエラは押し黙った。そしてビールを飲み干すと、目を細めてこう言ったのだった。
「アスカなんて可愛いぐらいに……もっとやばい」
というわけで、四人目のメンバーが加入しました。
基本的に、シエラがスキルや能力を見て、認めた者のみが加入できます。
シエラさんはロマン砲大好きっ子なので、デメリットがたくさんある代わりに超火力出せるキャラとか選びがち。
 




