第拾八話「惨殺⑦」
鷹田の力はあの幻に影響されたかのように、さらに強くなった。
十太郎は、何度も正気に戻るよう攻撃の間に呼び掛けたが、いっこうに彼の心の中に届く気配は感じられなかった。
(あの小僧の持つ力を手中に収めるため、ここまで落ちなければならないものなのか)
まだ、何もつかめていない、あせる十太郎であったが、これ以上、ここでの争いは長く続けたくなかった。
(右近やあの伴天連の女たちは、ふそ無を奪いにこっちに向かってきているはずだ)
二人の戦いを遠巻きに見ている九蔵も手をこまねいていた。
「ああ……あぁ……」
背負っていたひそ無が、いつからか手にしていた汚れた骨を右手で振っていた。その骨を無造作に投げると、そこには一体の『骸』が身体を小刻みに震わせ立っていた。頭骨も欠け、ただれた皮膚がぼろ布のごとく揺れている。
その子供のような背の低い骸は、九蔵の指示を待っているかのように見えた。
「あの大きな男を倒せるか」
何の気なしに、九蔵が言った言葉を骸が耳にすると、すぐに背を向け、地面を四つ足で駆けた。
十太郎の戦いに気をとられていた鷹田の首に、骸がかぶりついた。
「何!」
突然の出来事に十太郎の方が思わず声を上げた。
骸はほんの数秒取り憑いただけで、引きはがされたその身体は鷹田の刃に両断された。
十太郎も九蔵も薄々気付いていたが、このことで確信した。
(ひそ無の力は無限に骸を生み出す)
「鷹田のおっさんよ、あんたの人生ももう棚じまいだ、本当はもっと色々と積もる話があったんだけどな」
十太郎は、甲割を上下逆さに持ちかえた。
「九蔵さん、頼む、力を貸してくれ、俺の甘い見通しで、この場で時間を取り過ぎた」
返事をするまでもなく、九蔵は鷹田に迫った。
鷹田の力を持ってしても、二人の手慣れた連携技を長時間相手にしたことで、見る間も無く劣勢に陥った。
十太郎は小さな火薬玉『鳥の子』で鷹田の視界を遮ると、腫れて膨らむ右肘に甲割の短くとがった方の先端部分を突き刺した。
動脈まで貫き通った瞬間、腕から赤い血が噴き上がる。
「やっちまってくれ!」
十太郎の合図の声。
九蔵は愛刃を鷹田の太い首筋に食い込ませるやいなや胴体から切り落とした。
首のない鷹田の大きな身体は、痙攣したようにむやみやたらに刃を振り回していたが、膝を崩し、地面に倒れた。
十太郎は切られた鷹田の表情が、以前のような人の良さそうな顔つきに戻っているのに気付いた。
「憑きものが落ちて良かったな……」
少しの間、その場で手を合わせた十太郎はひそ無を背負う九蔵を見た。背中のひそ無はまた寝入っている。
「九蔵さん、所帯じみた姿が似合っているなぁ」
「つまらぬ、早く山を下りるぞ、追っ手はこちらに気付いている」
刀の血をぬぐった九蔵の懐紙が、古い朽ちかけた骨の間を風に乗って転がっていく。
「十太郎、お前の責任だ、また余計なことを言ったのだろう」
二人の視線の先にさっき見逃した三人の子どもたちが草原の中に立っていた。




