18 頑張るフランちゃん
ご主人様からこの屋敷に住む事を伝えられ何日が過ぎただろうか。それからご主人様は部屋に篭もり何かをしているようだった。
ネコとドララは街に遊びに行っているようだし、ドラゴンも何かをしている。
フランはする事がなく街に出かけるつもりもなかったため、永遠と炊事場でお皿を磨いていた。
「終わりやがったですぅ」
やる事がなくなってしまった。そう思ったフランは意を決して屋敷から足を踏み出すと、近所に住んでいる赤ちゃんを抱いた奥様方が話している声が聞こえた。
「娘を殺されたらその相手、絶対殺すわよねぇ」
「わかるー、自分がどうなっても絶対ぶち殺すわよねぇ」
そんな奥様方から挨拶をされ、恥ずかしさのあまり屋敷へと引き返した。
話す必要のない人とはあまり関わりたくなかった。だって恥ずかしいから。
人間ってわからない、もっと人間の事知りたい。そう玄関の前で考えているとドラゴンが帰ってきたようだった。その後ろには少女がいる。
お客さんだろうか?
「フラン? ちょうど良かったです、セイギ様に呼ばれたらこの少女、コーネリアを案内して下さい。殺さないようにお願いします。あなたは食堂で待っていてくれますか?」
すると外でいきなり突風が吹き、玄関に集まった風がドラゴンのワンピースを捲り上げた。
「ふふ、ドラゴンさんのお尻真っ赤ですね」
コーネリアがそんな事を言うとパンッと乾いた音がした、ドラゴンが平手で張り倒している。手加減しているのだろう尻餅をつくだけですんだ。
知ってる、これは一撃で生意気な女を黙らせる技だ、さすがドラゴンは知識をうまく使っている。
「あまり舐めた事を言うな、底辺風俗に沈めるわよ? この世界に強い者は多い、死にたいの?」
「す、すいません」
はっきりと言っているドラゴンが羨ましかった。思えばご主人様にも気持ちをストレートに伝えている。少しだけ尊敬した。
食堂の場所を知っているのだろうか、立ち上がりトボトボとまっすぐ迷いなく進むコーネリアに続こうとした所でドラゴンに呼び止められた。
「フラン、少し待ってください」
「――?」
コーネリアが食堂に入っていくのを確認し、声が届かないと判断したのか口を開く。
「セイギ様は幼女を愛しているご様子。あなたはもし何かあった時に幼女を殺す覚悟をしていますか?」
そんなこと考えたことがなかった。幼女を殺すことに特に躊躇いはない。でもご主人様には嫌われたくなかった。でももしご主人様と敵対する幼女がいたとしたら殺すだろう。もちろんバレないように、敵対する者を消す。
しかしドラゴンはそんな状況のことまで考えていたのか。やっぱりすごいとフランは思った。
でも負けたくなかったし覚悟だってしている、ご主人様のためならなんだってする。自分の気持ちはドラゴンみたいに、素直に表現できないけど。
「ご主人様が危険になりやがったら、ボクが壊れてでも助けやがりますぅ」
「そうですか、わかりました」
ドラゴンは見定めるように見た、その後踵を返しまたどこかに行ってしまった。
あ、早くコーネリアと言う人をもてなさないと、ご主人様のお客様だ。そう思いフランは食堂へと向かう。
食堂は綺麗で清潔な白い布を被せた長いテーブル、その周りにいくつもの椅子があり、その一つにコーネリアが行儀よく座っている。
「少し待ちやがれですぅ」
そう言うと、お辞儀された。やっぱり話すのは少し苦手だ。フランは奥の部屋へと向かう、遠くからとても大きな叫び声と物を倒す音が聞こえた。そして手にお皿を持って食堂へと戻る。
簡単な料理だ、ウインナーとフォアグラを焼いただけの物。それを差し出すと不思議そうな顔をされる。見たことがない食べ物なのだろう。
でもご主人様の知識から得たものだ、おいしいだろう、自信を持ってもてなすつもりだ。
「い、いただきます」
コーネリアは警戒するようにフォークとナイフでそれをつつき、鼻に近づけ臭いを嗅いだ。
少し失礼かな? とも思ったが仕方ないだろう、見たことないだろうし。大丈夫だ、しっかり調理したはずだ。
やがてそれらを口に運ぶと微妙な顔をしている。肉は柔らかそうな気がしたのに不味いのだろうか、誰よりもコーネリアにとっては美味しく感じると思ったのに。
食べ終えた頃だろうか、ご主人様からお呼びがかかり、コーネリアを案内する。
また暇になってしまった。
フランは食堂の奥へと足を向ける。
そこには口から食べ物の入ったチューブを垂らす男と、猿ぐつわをした男が椅子に縛り付けられている。
フランはコーネリアの微妙そうにしていた顔を思い出した。
なぜだろうか?
元々太っていた男に何日か無理やり食事をとらせた、手足がなかったから身動きがとれないのもいい兆候だと思った。ガチョウだって狭いゲージに閉じ込められているんだし。
フォアグラはまだ日数が足りなかったのかな?
ウインナーも失敗かな?
活け造りを参考に、生きたまま腸を引きずり出して肉を詰めたけど、やっぱり血抜きっていうのが大事なのかな? よくわからない。料理にも才能がいるらしいから自分には向いてないのかもしれない、そう思った。
フランは首を振る。自分を奮い立たせるために。
大丈夫、才能なんてなくても料理は思いやりだ。次は上手く振る舞えるようにしたらいいんだ。
丸焼きを試そう。硬い部分、爪と歯を引っこ抜いて、それから毛がなくなるように皮を剥ぐ。でもやっぱり鮮度が大事だと思う、できるだけ生きたままここまでこなそう。それから頭を切り落として逆さにして血を抜く。うん次はしっかり美味しく作ろう。
「ん~ん~」
隣の男がなにか唸っているのが聞こえる。うるさいと思った。でもわかった事が一つあった。
今から喋られなくなる人相手なら恥ずかしくない。
「うるせぇんだよ、黙れ! テメェはまず皮を剥いで敷物にしてやる、後は鹿の壁飾りみたいにしてやっからよぉ、なんだ?」
「ん~ん~」
椅子に縛られたままギシギシと左右に動かしていた。逃げる気なのだろうか。
「あぁ、わかんねぇ、親子揃ってうるせぇなぁ。肉でも食いてぇのか?」
フランは猿ぐつわの隙間から既に事切れている男の肉を口に押し込んだ。
それから丁寧に皮を剥ぎ、首を切り落として自分の部屋へと運んだ。
人間の事が少しだけわかった気がした。
でも人間は腐るんだ、やってから気がついた。どうしよう。どうやって壁飾りと敷物は加工したんだろう、ご主人様にホルマリンというものを作ってもらおうか、でもそうしたら、ご主人様の手を煩わせることになる。仕方ない、あとで釘でも刺して脳の研究でもしよう。そう思って買いに出かける。初めてなにかほしいと思ったかもしれない。
またあの奥様がいた、他の人を待っているのだろうか。でも少し様子がおかしかった。
また挨拶される、でも今度は少しだけ恥ずかしくない気がした。奥様もボクとそんなに変わらないのかもしれない。男の切り落とした顔を思い出してほんわかする。
奥様の抱いていた赤ちゃんを見ると、顔を刺されでもしたのか縫った痕。目は綺麗な石が埋め込まれていた。
剥製ってやつなのかな? 大きな叫び声はこの人だったのだろうか。
フランは勇気を出して話しかけた。
「可愛い赤ちゃんですぅ、相手は殺したですぅ?」
奥様は大事な物を取り戻せたと言った顔でニコニコしていた。
でも作り方は聞けなかった、奥様はずっと笑ってるだけで答えてくれなかった。




