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12 カナ

 フギの国、北の火山。砂利の斜面を登っていく二人の若い女性がいる。

 一人はショートカットの茶髪、腰に剣を刺し、小手をはめ。胸だけにプレートメイルを着ている。ソードマンだろう

 もう一人はウィッチだろう、ウェーブがかった髪にローブ、手に杖を持ち、義足だ。その女性がもう一人のソードマンに対して教師のように教える。

 

「S級モンスターガルファング、名高い狼男やヴァンパイアほど強くはないが気をつけるのじゃぞカナ。それにしても驚く程の成長速度じゃの、もうS級モンスターと戦える程になるとはな」

「でしょー? 神様に能力って言うの貰ったんだってば、いい加減信じてよオール!」

「そうかそうか。ではこれが最後の授業じゃ、スキルや魔法は学べば覚えられる。才能あるものならば習得は簡単じゃ時間はかかるがの。下々の者は魔法に選ばれるなどと言っているが要は相性や才能じゃな。スキルについては……まぁ使い込めば強くなっていく、これはお主が使う明鏡止水からわかるじゃろ?」


 オールと呼ばれた少女はカナが転生してこの世界に来たことを信じていないのだろう。カナはこれまで何度も説明したがまったく取り合ってもらえなかった。


「明鏡止水! いつの間にか五秒も持つようになったよ!」


 スキル明鏡止水。極限にまで集中し相手の予備動作から行動を先読みする、しかし効果時間は短く、かなり疲れる。


「次に魔法じゃが、基本は四種類じゃ、ファイア、ウォータ、アース、エアーじゃな。もちろん魔力が強ければ飛距離や大きさ、密度も変わる。ワシのように鍛えれば二種類の魔法まで使えるようになるぞ、基本は誰に何処になど考え力を制御し唱える必要があるが、これは才能によって魔法名だけで発動できる。もちろんその分威力は落ちるがの」

「え、えーーーーーーーと。すごーい、さすが五本の指に入るとか言われてるオール先生だね!」

「……カナ、わかってないじゃろ?」

「…………それにしても……オールに出会えてよかったよ」 


 カナは笑顔を作り、誤魔化した。

 カナはこの世界に転生してから訳が分からず街中をウロチョロしていた、そして裏路地で追い剥ぎに合いそうになったところで偶然オールに助けられたのだ。それからモンスターの事などを習いながら冒険に連れて行ってもらい、成長の速さを見込まれ、いつのまにかゴールド級冒険者になっていた。今日はこの周辺の村を荒らしまわっていると思われるガルファングを倒しに来ていた。 

 カナは思う。もうすぐこの世界に来て一年、肉まん食べたいなぁ。と。


「カナ?」


 だがオールは冷めた目をしてジッと見つめてきた。


「あ! 頂上が見てきたよ!」

「む、本当じゃな」


 今度はしっかりと誤魔化せたようだ。

 二人が頂上にたどり着くとそこには化物がいた。全長十メートルはある犬の形をした化物、口は裂けその中には上にも下にも無数の牙、舌はなくすべてが牙だ。鼻は一つだが頭の全てをいくつもの目で覆っている、死角はないだろう。顔の比率が大きく、家でも丸呑みできてしまうのではないだろうか。そんな化物がだだっ広い岩肌の上をノシノシと歩いている。


「ガルファングで間違いないの。さて行こうかの、先鋒はまかせるぞい」

「うん! わかったー!」


 カナは走り出し、飛んだ、化物の背面から剣を叩きつけるが化物には見えているのだろう距離をとりカナに向き直った。


「カナ! 右から行くのじゃ!」

「おっけーい!」


 カナが走り出し化物に近づく、そして剣を横薙ぎに振り化物に迫る。


「ファイア!」


 オールが絶妙なタイミングで魔法を発動する。化物の足に火が飛び燃え上がる、カナの斬撃が化物の胴体に深い傷を残す。すると化物は痛みからか咆吼する。


「グガァアアアアアアアアア」


 耳を塞ぎたくなるような大声に二人は怯んだ、それは重く体の芯に響くような声で足をすくませる。化物のいくつかの目が動きカナを捉える。化物の右足が振るわれ、それをなんとか剣で受け止めたカナは吹き飛ばされた。


「キャ!」


 ズザザっと剣を地面に突き刺した音がする。手も使いなんとか吹き飛ばされる勢いを殺した。が化物の追撃は終わらない、噛み付きをなんとか横に避けた、続いて右足をしゃがんで避ける。大きい化物の攻撃は距離をとっても届いてしまう。

 こんな所で死ねない! 私は絶対に帰るんだ! カナは思う。

 カナが化物の攻撃を必死に躱していると、ラチがあかないと思ったのか、先程から火の刃を飛ばしているオールの元に化物が突進していく。


「なんじゃと!?」


 化物の噛み付きを後ろに下がりながら避けようとしたのだろう。しかしギリギリのところで避けたが頬が牙で抉られ体当たりされていた、その勢いのまま吹き飛ばされてしまう。身を守るように間にあった杖は折れたが死んではいない、苦しそうに地面で胸を抑えながら蹲っている。

 また私のせいでオールが……。

 走りながらカナは思い出していた。駆け出し冒険者の頃、オールが自分を庇いモンスターから背中に大きな傷を負ったことを。

 私はオールを守る、どんなことがあっても守ってみせる、今度は私が!


「明鏡止水!」


 化物と対峙し、先に仕掛けた。走った勢いを殺さずに突っ込むカナ。上から剣を振り下ろす、化物はそれを横に躱した。躱したはずが剣の軌道が変わり、化物の目を何個か切り裂く。


「グラァアアアア」


 化物が咆哮をあげる、だがカナには予想できていた。怯まず、臆さず下がった剣を切り上げる、たまらず後ろに下がる化物を素早く追いかける、そして突きを放ち、化物の牙をへし折る。


「これで終わらせる!」


 カナは空中へと飛び上がった、そして化物に向かって上から加速する。化物は受けて立つ、口を大きく開け、カナを噛み殺す気だろう。


「空中加速!」


 空を足で蹴るとまた一段と速くなった、そして反応できていない化物の牙を体を捻りながら躱し、口の中を、そして頭の後ろを突き抜け、化物に風穴をあけた。

 体が牙に傷つけられたのか、ズタズタの体、化物の返り血を浴びたままの体を奮い立たせ、オールの元に向かった。オールは体を起こし座って見ていたようだ。


「化物みたいじゃな」

「ひどくない!?」

 

 抱きつこうと思ったがやめた。


「成長速度の事じゃよ」

「ふっふーん、ほら肩貸してあげる」


 そう言って二人は街に帰る。




 カナは夢を見ていた。そこは真っ白い壁紙に一つのベットが置いてある病室だ、男が寝ている。決して意識は戻らないと医者から聞いた。

 双子の弟がいた、二人はかなり仲がいい姉弟で近所でも噂になっていた。しかしいつも一緒に帰る弟がその日は彼女ができたからと言って一緒に帰らなかった。そして病院から連絡があった。弟は車に轢かれもう動けないと、意識も戻らないと。心臓が動いているのをカナは確かめた。でも意識は戻らないらしい、あの元気だった弟がもう声を出せないらしい。朦朧とした意識の中、親からの静止の声も届かず病院から飛び出した。そして大きな音がしたかと思うと自分の目の前には車が迫って来ていた。どれくらい時間が経ったかはわからないが意識が戻ると神様と名乗る者から成長促進、グ・ロウリィという能力を貰い、十個の秘宝を集められたらどんな願いも叶うと言われ、この世界に来たのだった。


 大きな音でカナの目は覚めた。宿屋の中にポツンと一人で眠っていたようだ。

 それは建物が倒れる音だったり、炎が燃え盛る音だったり。

 急いで外に出てみるとそこにはオールが立っていた。街が燃えている、遠くにはモンスターだろうか人の形を崩したような異形の者が大群で押し寄せてきている。

 

「たぶんあいつが親玉じゃな、モンスターが大群で連携をとり街を襲うなんて聞いたことがない、あのモンスターが操っているのじゃろう」


 オールの視線の先には悪魔のような女が飛んでいる、なるほど、とカナは思った。


「この距離ならば、ファイ――」 


 オールが呪文を唱えようとしたところで悪魔がカナコにも反応できない速度を出し、急加速してきた。二人は殴られ簡単に気絶すると悪魔に連れ去られて飛んでいった。

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