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13 対決

 街から離れた山の中、木が開けている場所がある、足元には草が生えていた。その奥にはダンジョンがあり、おそらく中は広いのだろう、モンスターが詰まっていたと予想できる。

 月明かりが照らすその広い場所には先頭に女性が立ち、後ろには千を超える異形の群れが待機している微動だにしない。

 女性の前に悪魔のような女が降り立ち両手にぶら下げている一人、カナを無造作にドサっと地面に落とした。悪魔のような女は隅の木にオールを縛り付けている。その傍らには騎士の鎧を着た兜から手が飛び出している異形のモンスターが待機していた。

 カナは地面に落とされた衝撃で目を覚ました。


「なにこれ」

 

 カナは唖然とした。見たこともない異形のモンスターが軍勢を組んで整列しているのだから、それもかなりの数だ。

 しかし腰に差している剣に無意識でも手を添えていた。

 女性は悪魔のような女を呼び戻した。

 

「貴様にはこいつと戦ってもらう」


 そう言う女性の前には悪魔のような女がいる、それを見たカナにはわけがわからない。

 こいつと戦うの? なぜ? と、カナは思った。


「なんであたしがそんな事を――」

「あそこの女は仲間ではないのかの? 言いたいことはわかるな?」


 絶対的有利な状況で女性はオールを少しだけ見た。カナも視線を追うとその先に縛られ木に括りつけられているオールがいるのを確認した。


「ワシのことはいいのじゃ! 逃げるのじゃカナ!」


 その声は聞こえていた。しかしカナは悪魔のような女に斬りかかった。

 縛られているが、抵抗しようとしているのか体を必死に動かしているオール。いくら魔法を放ってもこの数に囲まれたらひとたまりもないだろう。近づかれたら魔法を使う余裕なんてない、広い範囲を攻撃する魔法でもこの数を相手にしたらいくらオールでも先に魔力が尽きてしまうだろう。その事はカナにも察しがついた。

 絶対に助けるからねオール! 先手必勝!

 女性は多くのモンスターがいる方に下がっていく。


「ハァー!」


 気合を入れてカナは悪魔のような女に斬りかかる。それは手で払われた。だがカナはなおも追撃する、袈裟懸け、横薙ぎ、突き、それをもすべて躱された、当たらない、薄皮一枚で避ける。

 こいつ、強い!

 ギリギリで避けているように見える、しかしカナにはわかった、完全に見切られていると。ギリギリで簡単に避ける自信があるのだと。

 その一方的な攻撃は長く続いた、悪魔のような女は一切手を出してこない。カナの集中力はだんだんと上がってくる、この世界には悪魔のような女とカナとの二人しかいないような錯覚に陥るほどに集中していく。

 いける!

 そして剣筋が捉えた、少しだけほんの少しだけ皮膚に傷がつく。悪魔のような女の目が細まるのをカナは見た。しかしまだ反撃してこない。それからだんだんと攻撃が当たるようになってきた。悪魔のような女の傷は増え、ついに血が出るくらいの浅い傷ができた、徐々に深い傷を付けられるようになってくる。そして剣を口めがけて突き放つ。


「そこまで!」


 女性の一声で悪魔のような女が大きく後ろに下がると、口の中に入っていた剣はその切っ先を地面に向けた。


「これで、開放してくれるの?」


 カナは肩を上下させながら呼吸をして問いかけた。だが女性は歩みでるだけだ。


「次は我だ、エアスラッシュ」


 女性がいきなり呪文を唱えると、突然突風が吹きカナコは吹き飛ばされた、木々から生える枝を背中でへし折り、太い木の幹に打ち付けられる。


「ぐっ、うっ」


 ズルズルと木に背中を預け、座り込んでしまった。


「カナ!」


 オールが魔法を放とうとしたのか動き出そうとした時、カナはオールに向かって笑いかけながら手の平を出した。

 待って、その言葉はオールに伝わっていると思う。

 カナはかすかに笑を浮かべる。

 こいつを倒せばなんとかなるかも、と。モンスターはきっとこいつが操っている、統率を失えば混乱の中逃げることができるかも知れない。そう思い。立ち上がった。


「うぉりゃー!」


 カナは走り出した、女性に向かって猪のように。

 しかし女性はなおも呪文を唱える、頭上から燃えた隕石が降ってくるが走る、ギリギリで巻き込まれなかったが地面は抉れ焦げている、カナは服が燃えたが気にしない。次いで体が少し硬直する、そして雷が落ちた。


「きゃぁああああああああああああ!」


 カナコの絶叫が静かな空間にこだまする。カナは力なく地面に倒れた。が、草を握り締めて掴んだ後、すぐに剣を杖がわりに立ち上がる。走り出したがまた一瞬だけ体が動かなかった、炎の玉がカナコに向かい飛んでくる、それを左手で払い除けた。手が焼けただれる、もう左手は使えないが剣は持てる。ほんの一瞬、感じられないくらいの違和感が体を襲う、その間に雷が左足に落ちた、二度目の雷で足が言うことを効かなくなった。

 負けない、絶対生きて願いを叶える。オールも助ける!

 右足だけでの跳躍、しかしそれは女性に届いたと思った。そのまま剣を振るうも何かに阻まれたように剣が当たらずにそれた。

 !? なんで!?

 また呪文が唱えられカナコは地面に転がった。先程よりも近い。

 さっきは当たらなかったけど感覚は掴んだ! 次は決める!

 カナは立ち上がり飛んだ、対する女性は手を向けている。

 

「明鏡止水!」


 その神経は研ぎ澄まされていた。ワルツを踊るようにきらびやかで、相手の意思を読み取るように、それでいて無駄のない動き、雷の動きすらも先読みし最小限の力でクルッとターンをした。そして相手の足払いを、さながら蝶が舞っているかの如く、軽やかに飛びながら躱し、地面と水平の状態から体を捻り、もう1回転、勢いを乗せたまま剣を振り下ろした。


「空中加速!」


 見る限り速度に女性はついて行けていない、と思った。

 勝った! と考え剣を振るう。

 だが女性はニヤニヤと勝ち誇った顔をしていた。




 そして気がつくと悪魔のような羽と尻尾が生える幼女が剣と、女性の手を掴んで止めていた。その後、黒髪の男が森の中から歩いてくる。


「確認なんだが、街を襲ったのはそっちの女でいいのか?」

「あ、うんそうだけど」


 剣は動かない、カナがわけもわからず答えた。


「そうか、気持ち悪いモンスターも引き連れてるしな、そうだろうな。ドララ、その子を離してやれ」

「はいでしゅパパ」


 この子、ドララって名前なのかしら。

 ドララがカナを離し後ろに下げるといきなり悪魔のような女がドララに殴りかかる。が、黒髪の横に飛び退り躱す。


「――! いきなり攻撃ちてきまちた!」

「貴様等はなんだ、我の邪魔をするではないわ! 邪神! そいつを殺せ!」


 邪神、悪魔のような女のことだろう。


「ぷぷ、邪神、こんなに弱そうなのが邪神でしゅ? 怖いでしゅ、怖いでしゅー」


 ドララは両手を交互に上下させ笑っていた、怖いという言葉とは裏腹に馬鹿にした笑いだ。

 この子! 煽りよる!

 女性がドララを指差すと邪神は一切の迷いもなく襲いかかっていく。そして顔に手を伸ばした、それを顔だけ横に動かして避けたドララは邪神の後ろに周り込んだ。

 え、見えなかった。カナはいきなり邪神の後ろに回り込んでいるドララに驚いた。

 左手を前首に回し耳のあたりを掴む、そして右手は腰を掴んだ、ミシミシと邪神の骨が軋む音がする。そして首筋に噛み付いた。


「かぷっ、ちゅー」


 邪神の歯がすり合わされる、力を込めて振り払おうとしているのだろう。だが肘が当たってもビクともしない、ブンブンと体を振り回しても一向にドララが離れる気配はしない。


「あにこえおいちい!」


 邪神の血はドララに好評のようだ。

 

「きぃいいいいいいいい!」


 邪神が叫んだ、痛みか快感か。ドララに好評の血は一気に吸い上げられたのだろう、みるみる干物になっていった。

 その一連の動きの後は誰もが何も言わずに沈黙が訪れた。


「……なにこれ」


 少しするとカナが呟き、それを聞いた女性が行動に出る。


「異形たちよ、行け!」


 女性の命令に異形のモンスターたちが動き出す。黒髪の男はモンスターに手を向け、ゆっくりと指を閉じながら呪文を唱えた。そして拳を握りこんだ。


「ブラックボックス」


 異形のモンスターたち一人一人の周りに幾何学模様が浮かんだ。黒い、暗闇よりも黒い漆黒の四角い薄い膜が包んだ。老朽化した壁が崩れていくように異形のモンスターたちの表面がボロボロと地面に落ちていく。表面が崩れ落ちると次は新たに表した表面、流れ出す血が固まり、内蔵だった部分が崩れ落ちていく。最後にはなにもなくなりその四角い膜は消えた。


「さっすがパパでしゅ~、にへへへへ」

「おぉ、想像した通りの魔法になった」


 ドララは黒髪の男に微笑みかけ、黒髪の男は満足げに何度かうなずいた。


「なんじゃあの魔法は!? あんな魔法聞いたことも、書物にすら残っておらん!」

 

 遠目から眺めていたオールが言った。

 女性は自分の後ろから敵に迫るはずのモンスターが来ないことに違和感を覚えたのだろう。そして振り返る。そこに居たはずのモンスターたちはいない、土がむき出しになった穴がいくつも出来ている。


「なにが?」


 唖然とした声で呟く。


「ドララ、そいつはやっていいぞ」

「やったぁああああああああああ」


 ドララの声が低いものに変わっていた。

 なんだろう、ちょっと怖い。

 口が横に大きく裂けて鋭い牙が飛び出し、目は弧を描きニタニタとした獰猛な笑みを浮かべている。

 黒髪の男もなんだか驚いているように見える、保護者じゃなかったのか? とカナは思った。


「ひぃ、来るな! 来るでない!」


 女性は、ゆっくりと歩き近づいていくドララを拒絶するように手をかざした。するとドララの足が止まる。手を出し、そこに何かがあるように見える。

 パントマイム?


「そぉおおおおおおれぇえええ、見えてるよぉおおおおおおおおお!」


 何が見えているんだろうか、何かをこじ開けるように両手で広げようとしている。自分の攻撃が逸らされたのと関係があるのだろうか。


「来るな! 来るな来るな来るな!」


 魔法が何発もドララに向かって放たれるが、それは体に当たるとはじけて消える。その光景が続くと魔力切れだろうか、攻撃は止んだ。


「あっひゃひゃひゃひゃ、もっとないとぉおおおおおお捕まえちゃうよぉおおおおおおおお」


 カナの体から何か、煙のような黒いモヤがドララの手の辺りに集まっていき、広がる。

 はっきりと見えるようになった。黒い壁が女性を守っている。


「足りないよぉおおおおお、そんなんじゃ足りないよぉおおおおおおおお」


 モヤが集まって出来た壁、それにヒビが入る。ドララが力だけでこじ開けようとしていた。時間の問題だろうと思った。


「やだ、来ないで、来ないで」


 女性は尻餅をつき、後ろに下がろうと、距離を取ろうとしている。


「バァああああああああああああああ」


 壁がバラバラに破れ消えた。ドララは女性に迫っていく。


「あ、いあ、いやぁああああああああああああああ」


 首をゆっくりと振りながら絶叫し拒絶の色を表すが。ドララは肩に齧り付き肉を頬張った。


「おいちぃいいいいいいいいいいい!」

「いやぁあああああ許して、助けて!」


 涙を目にたっぷり貯めた女性と目があった。手を伸ばしてこちらを見ているようだ。助けることなんてできない。そもそも襲ってきたのはそっちだ。

 ドララは女性に組み付いたまま押し倒し。腹の部分の服を噛みちぎるとその顕になった白い肌に牙を突き立て、腹の肉を抉り取る。そして腹を開いた。


「止めて、お願い止めて、許して」


 震える手で顔を引き剥がそうとしているのか、押し返そうとしているように見える。しかしドララはまったく動かない、それどころかどんどんと食い破っていく。


「内蔵おいちいよぉおおおおおおおおおおおお」 

「いやぁあああああ」


 女性は失禁し地面を濡らした。腸を引きずり出され咀嚼され続ける。内蔵を体から引っ張り千切る音、グチャグチャと生の肉が噛み潰される音、腹に顔を突っ込み血をすする音が聞こえる。気持ち悪い。

 カナは吐き気を覚え口元を手で覆った。

 まだ死ななかった。心臓には手を出さないらしい。その時間が長く続いたと思う。その間ずっと女性は叫び声をあげ、痛みを紛らわしているようだった。

 グッタリとあきらめたのか死んだのか、手が下ろされた。でも目が離せなかった。目が合っているような気もした。女性の顔は最初に見た顔と変わっているような気さえする。


 黒髪の男がオールに近づいて行くのが見えた。

 ! オールを守らなきゃ!

 しかし黒髪の男は手を出す気はないらしい、立ち止まり話しかけていた。


「お前は有名なウィッチ、オールか?」

「そ、そうじゃ」

「この魔法の事は内緒にしておいてくれ、代わりと言ってはなんだが今回の件はお前が解決したことにしていい。俺はフギとチアイの国の国境近くにある街、貿易の街に行く」


 オールはこくこくと頷いた。


「あぁそうだ、魔法のことを言ったらお前の事を殺すからな」


 それだけ言い、ポカンとするオールを置いて黒髪の男はドララと呼ばれた幼女を連れて帰っていった。

 あの二人はなんだろうか。自分が必死に戦っていた人たちをもろともしない強さだった。黒髪の男も転生者なのだろうか。でもなぜだろうか、あまり悪い人には見えない。それどころか優しそうな人にさえ見えた。

 オールと目が合って同じ言葉が出てきた。


「「なにが起きたの?」じゃ?」 

 


 

 

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