表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GunZ&SworD  作者: 聖庵
108/185

シーン 108

広場での休憩が終わった。

束の間の休息は必要だ。

緊張が続けば無意識に力が入り、何もしていなくても疲れてしまう。

もちろん、休憩中ずっと警戒を解いていたわけではなく、危険が迫ればすぐに対応出来る準備は出来ている。

馬車は轍に沿って森を進んだ。

グリプトンの襲撃以来、特に何事もなく、生き物の気配さえ感じない。

忘れかけていた平穏な時間に感謝した。


「…レイジ、人だ!」


ニーナが声をあげた。

急いで御者台に移動すると、進行方向に数人の人影が見える。

みんな同じ格好で、白いパジャマのような姿だった。

遠くから見ても不気味で、幽霊かと思うほど虚ろな目をしている。

それでも、ちゃんと足があり、幽霊でないことは明らかだった。


「…こんな森の中に人?」

「移送された信者が逃げ出してきたのかもしれないな。武器は持っていないからあのままにしておくのは危険だ」

「そうだな。驚かせないようゆっくり近付く」


ニーナは馬をゆっくりと歩かせ、人影の方に近付いていった。

人影の数は全部で六人。

表情に生気はなく、みんな疲れきった顔をしている。

僕は彼らの手前で馬車を止めさせ、外に出て六人に声をかけた。


「こんな所でどうしました?」

「…逃げてきました」


集団のリーダーと思われる若い男性が口を開いた。

疲れているのか言葉に覇気はない。

集団を見てみると男女が三人ずつで、みんな若い印象だ。

この世界の常識で言えば、働き盛りの若者と言ったところか。


「逃げて来たってどこから?」

「…森の奥にある廃坑です。他にも仲間が捕らわれています」

「廃坑…ホリンズの根城か!」

「ホ、ホリンズ!?」


男性は怯えたように肩を震わせた。

他の面々も同様だ。

何か恐ろしい体験をしてきたらしい。

トラウマを思い出し、一瞬で恐怖が電波して六人を支配した。


「ここは危険だ。とりあえず馬車の中へ」


先を急ぐのは大切だが、彼らを見捨てるわけにはいかない。

彼らをどこか安全な場所に移す必要がある。

出来ればどこかの町に届けなければならない。

そんな事を思った時だった。

突然、一人の女性が膝から崩れ落ちた。

身体を痙攣させ錯乱状態になり、苦しそうな声をあげ始めた。


「レイジ、そいつらから離れろ!」

「…え?」


アルマハウドの声が聞こえた瞬間、女性は白目をむいて悶絶すると、背中の筋肉が急激に盛り上がり始めた。

背中は異常に膨れ上がり、骨格が異様に歪んでいく。

目を疑うような光景に目を奪われてしまった。

女性は数秒も経たないうちに、人の姿から獅子の身体に変わり、背中にはコウモリの羽が生え、尻尾はサソリの尾という怪物に変わった。


「レイジ、危ないッ!」


呆けてしまった僕の前にサフラが立ち塞がった。

次の瞬間、怪物はサフラに目掛けて突進攻撃を加え、彼女の身体が宙を舞った。


「サ、サフラーーーッ!?」


僕は頭の中が真っ白になり、無意識に目の前の怪物に向けて拳銃の弾を連射した。

怪物は顔面の原形を留めないほど穴だらけになり動かなくなった。


「レイジ、サフラちゃんを連れて馬車に戻れ!こいつらも同じだ!」


ニーナに指摘されて周りを見ると、他の五人も身体の変化が始まっていた。

僕は慌ててサフラを抱き上げ、ニーナの待つ馬車に駆け込んだ。

幸い怪我は軽傷で気絶しているだけだった。

ニーナに彼女を預け、セシルとアルマハウドの三人で迎撃に向かった。

残りの五人も先ほどの怪物と同じ姿に変わり、すでに僕らを取り囲んでいる。

気を許せば一斉に襲い掛かってくるだろう。

馬車の中にはサフラたちが居るため、できる限り被害を少なくしなければならない。


「馬車に近付けるな!絶対に死守するんだ」


変化した影響なのか、怪物たちは非常に気性が荒い。

飢えた獣のように、僕らを獲物として認識しているようだ。

数の面では“三対五”と不利な状況で、手薄になった二体がそのまま馬車を襲う危険性がある。

まずは馬車から遠ざける方法を考えなければいけない。

獅子の身体をした怪物なら、猫科の動物のように素早く動き回る可能性がある。

素早さに対応するには、取り回しが便利な拳銃の方が扱いやすい。

それに、最初の一体を倒した時のように、拳銃でも倒せる事は実証済みだ。

僕は二人が戦いやすいよう銃で牽制しつつ、怪物を馬車から遠ざけるよう仕向けた。


「二人とも、援護する!各個撃破するんだ」


怪物の機動力を奪うため、馬車に近い順番から数発ずつ弾を浴びせる。

弾を当てる事が最優先のため、思ったように急所には当たらず、一発ずつのダメージは致命傷には繋がらない。

それでも怪物を怯ませるには十分で、動きが鈍くなった敵から順に二人は斬り掛かっていった。

一体ずつの強さはそれほど脅威ではなく、弱ったところへ一太刀浴びせれば倒せる程度だ。

アルマハウドは大振りに剣を横薙にすると、同時に二体の怪物を斬り捨てた。

剣のリーチが長いため、重さを生かした一撃は恐ろしい破壊力がある。

セシルも目の前の怪物に対し、雷を帯びた刃で斬りかかると、怪物を一瞬で消し炭なった。

僕は残ったか怪物に狙いを定め、額に目掛けて何発も弾を撃ち込んだ。

最後の一体は逃げ出そうと背中を向けたため、セシルは飛び上がり直上から脳天を串刺しにして仕留めた。

後に残ったのは恐ろしい怪物たちの死体だけ。

周囲の気配を探ってみたが、近くに敵はいないようだ。


「…一体何だったんだ。何で人が化け物になるんだよ!」

「落ち着け、レイジ。きっとその答えはこの先に待っているはずだ」


アルマハウドは冷静だった。

僕がこの隊のリーダーなのに情けない。

動揺した心を抑えるため、両手で頬を強く叩いた。


「…すまない。少し動揺しただけだ。大丈夫、落ち着いたよ」

「それにしても、人間が化け物になるなんて聞いたことがない。ホリンズと言う男は一体何者なんだ?」

「…転生者だ」

「転生者…?」


僕はポツリと呟いた。

隠していてもいずれ分かる事だ。

馬車を見ると目を覚ましたサフラがこちらを見ていた。

彼女の無事がわかると自然に安堵の溜め息が漏れた。


「とりあえず馬車に戻ろう」


馬車に戻ったところで本題に入った。

まず、僕がどういう存在なのか詳しく説明するところからだ。

故郷が地球であること、ここへ来た経緯、前世の記憶がある事など詳細は多岐にわたる。

それを聞いた面々は目を丸くした。

彼らにしてみれば、僕が突飛な事を言っていると感じただろう。

そんな中でもサフラだけは疑う事なく、僕を真っ直ぐ見つめている。

転生者にまつわる話が終わり、ホリンズが僕と同じ境遇である事も告げた。


「…俄かに信じられんな」


説明を聞き終わって尚、アルマハウドは話を飲み込めずにいた。

言葉だけで事実を伝えるのは難しいが、決して嘘は言っていない。

彼の気持ちが分かるだけに、強引に納得させようとは思ってはいない。


「じゃあ、レイジは別の星の人なんだね」

「厳密に言えばそうなるかな。いや、どちらかと言えば記憶だけが残っていて、身体は別なのかもしれない。前世の俺は何処にでもいる普通の学生だったからな。こんなに強い身体じゃなかったんだ」

「そうなんだ。私はレイジの言葉を信じるよ。でも不思議。そうやって言われて、今までのレイジがしてきた事を思い出したら納得しちゃった」


サフラは頷いて一人で感心している。

こんな事を言って嫌われるのではないかと不安だったが、取り越し苦労だったらしい。

サフラが納得した事でニーナとセシルも何とか話が飲み込めたようだ。

残るはアルマハウドだけだが、彼はずっと難しい顔をしている。


「仮にだ…仮にホリンズがお前の言う転生者だとして、勝ち目がありそうか?私の見立てでは、ヤツはお前以上の実力と叡智を持っているように思うが」


アルマハウドは眉間にシワを寄せている。

まだ完全に納得した様子ではないが、僕の率直な意見が聞きたいらしい。


「…隠しても仕方がないからハッキリ言う。可能性は限りなく低い。いや、むしろゼロに近いかもしれない。ただ、これはあくまでも、俺が一人でヤツに挑んだ場合の話だ。だけど、みんなが協力してくれれば、その可能性は限りなく成功に近付くと思う」

「…そうか。わかった、それがお前の意志なんだな。転生者の話、これはまだ私の中で飲み込みきれていないが…お前を疑っているわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれ」


アルマハウドは遠い目をした。

彼自身、自分の目で見たモノしか信じられないタイプだ。

完全に納得するには時間がかかるだろう。


「…それで、ホリンズと言う男が転生者なら、かなりの曲者だな。今倒した怪物にしても、グリプトンにしても、ヤツが作ったモノと見て間違いないだろう」


ニーナは冷静になって怪物の死体を眺めた。

元々、彼らは人間だったのか、それとも怪物が人の姿に化けていたのかの判断がつかない。

少なくとも人語を操り会話が出来たところを見ると、前者の可能性が高いだろうか。


「この先は慎重に進む必要があるな。レイジ、御者を代わってくれないか?私には少し荷が重い」

「わかった。お前は荷台で休んでいろ。それと、サフラの事も頼む」

「レイジ、いつでも戦える準備をしておけ。どんな罠が仕掛けられているかわからない。おかしな物を見つけても迂闊に近付くなよ」


アルマハウドがアドバイスをくれた。

この先は何が起きてもおかしくはない。


「…セシル、どうした?」


先ほどから一言も喋らない彼女のことが気になった。

何か悩んでいる事があるなら共有しておく必要がある。


「いや…大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ」

「そうか?気になることがあったら言えよ」

「あぁ、心配してくれてありがとう。さて、気合を入れていくぞ」


セシルは気持ちを入れ替えて御者台に移動した。

彼女のナビゲートと索敵能力は非常に頼りになる。

セシルは森に入ってからずっと、微かに殺気を放ち続けているため、彼女の気配を感じ取った亜人や魔物たちは、事前に危険を察知して近寄ってこないらしい。

僕が探れる範囲で敵の気配を感じなかったのは、彼女が敵を遠ざけていたからだった。

おかげで旅が楽に出来ている。

だからと言って気を抜くわけではない。

心なしか手綱を握る手にも力が篭った。

GW期間ですが、関係なく投稿中です。




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ