09 こうして俺は幻覚を見た
今日はもうこの章だけです
大風が依然として唸りを上げ、瞬く間に、夜になった……
空気は少し冷たく、こんなに見たこともないような凄まじい雨の夜、阿福はそっと河馬を叩き起こした。河馬はすでに完全装備で出発できる態勢の彼を見て、もう夜になったのだと気づいたようだった。
「今から出発するのか?」
河馬は乾いた頬をこすり、目の前の黒衣をまとい、疲れ切った顔をした男にそう言った。
「そうだ。」阿福の答えはとても簡潔だった。無精髭の生えた顔は、ずいぶん長く剃っていないようだった……
しかしその輝く瞳の奥には、何か別の思いがあるようだった。
それがなぜか、内心に淡淡とした不安を感じさせる。
やめよう……
こんなことを考えてどうする。
ここでは、何をしていても不安になる。
雨粒が地面に跳ね、遠くの寒風がゆっくりと河馬の体に伝わってくる。時折足元を氷のように冷たくする大雨、夢にも見ないような感覚、そして心の底がぽっかり空いたような気持ち。
なぜ?
そんな感覚になるのか。
水滴がそっと体に付着し、自分が本当にここにいるという実感が感じられない。硝煙の舞いとともに、すべてがこの黒いひび割れたアスファルトの上に押し込められている。
明らかにひび割れているのに、なぜ湿っているのか……茶褐色の砂土を露出させて。
なぜ?
河馬は全身をぼろぼろの服の中に縮めた。
「まだ何か未練があるのか?もう美人に会っただろう?何の未練がある……」
阿福は前を歩き、河馬を連れて素早く潜行していく。
美人?何を言っているんだ……
河馬はうつむき、黙っていた。心の中にはいつも説明のつかない獰猛さのようなものがあり、またすべての源泉が見つからないようでもあった。何もわからない……本当に何もわからないのか?一体何が起きている?
空は大雨に埋め尽くされ、あの真っ暗な空の中にある、灼けつくような源泉を見ることはできない。
「お前がどうやって傅月と知り合ったのかは知らない……だが、お前もきっとわかっているはずだ。一度この場所に足を踏み入れたら、もう死人だということを……」
阿福の言葉はとてもゆっくりだった。こんな大雨の中では、音を漏らさず、しかもはっきりと発音するのは容易ではない。
ざあざあと降る大雨が、すべてを覆い隠す。
目の前の通りも壁も、湿った一枚の風景に変えてしまう。
「どういう意味だ?」
河馬はそう尋ねた。
しかし阿福は答えず、代わりに的外れなことを言った。
「人の一生は、何かを追い求めずにはいられない……」阿福は目の前の霧のような光景、そして遠くの果てが見えない境界線を見て、遠くを指さして言った。「たとえ命を代償にすることになっても……」
河馬は必死に阿福について遠くを見た。遠くはすべて雨幕に覆われている。
しとしとと降る雨粒が、果てしない暗い草地の上で無数の水しぶきを反射し、漆黒の世界に広がっていく。
河馬は階段の下から苦労して上がってきて、いつの間にか二階建ての小さな建物の屋上に来ていることに気づいた。頭の上の雨粒がざあざあと頭に注がれ、全身を冷たくしていく。
遠く……霧がかっている。
「あれは何だ?」
河馬は遠くのものが見えず、思わず尋ねた。
阿福は遠くを見て、いっそ上着さえ捨てた。黒い上着を無造作に投げ捨て、大雨に身を任せる。すぐに全身が濡れ、その骨まで染みるような注ぎ方に、河馬までその冷たさを感じるようだった。
阿福は大声で言った。
「お前の目の前にあるのは無人地帯だ。その先は反乱軍の支配地域で、今頃どれだけの人間が銃をお前の頭に向けているかわからない。」
河馬はとても信じられず、体まで曲げてしまった。
「ドン!」
河馬は慌てて頭を下げた。
気づくと、それは阿福が大声で言っただけで、自分を脅かしただけだった。阿福自身は微動だにせず立っている。
「命はいらないのか……」
河馬はしゃがみ込んだまま、阿福にそう言った。
しかし阿福は気にせず、両腕を広げて言った。「いつか、お前はわかる。この世界には、命よりも大切なことがたくさんある。そして今が、そのために選択を迫られる時だ。」
河馬は答えず、ただ両腕を広げた阿福を見て言った。「資源探索をするんじゃなかったのか?どうして……」
阿福は笑った。雨水が彼の髭だらけの頬を伝わる。
「資源探索がお前の番になるか?新人……俺にとっては、それはただの口実だ。資源探索?何だっていい……わかっていることがある。たとえ言っても、常駐のボスは承諾しないだろう。しかしそれがどうした?俺の人生の意味はどこにある?傅月のボスが、旧友の恩人の生存を確認するために死の危険を払えるなら、なぜ俺が、友人の生死のために少しの覚悟を払えない?」
河馬はその狂ったような阿福を見た。
「一体何が起きたんだ?」
阿福は河馬を見て、口の端を歪めた。笑っているようでもあり、そうでもないようでもあった。
「言っただろう?彼は旧友のことで奔走している。実際そうだ。かつて俺たちの組織に恩のあった旧友が、一ヶ月前に人に陥れられた。傅月も俺もこの件に当たり始めたが、それについて、俺たちもボスも絶望していた。なぜなら何の知らせもなかったからだ。」
「だが半月前、突然お嬢様から知らせが入った。その恩人が旧市街の中にいるという……俺たちはすぐにここへ来た。多くの波乱があったが……やがて、この地域全体で反乱が起き、そこは反乱軍の支配地域に入ってしまった……しかし……それがどうした?これほどの恩を受けながら報いなければ、人として失格だ。」
「そうだ……傅月はこうしてここを越えていった。そして俺も今日……彼と同じようにここを越える……」
阿福は雨幕の外を見て、また河馬を見た。長い間見ていた。
「そして、お前はその恩人にとても似ている。」阿福は何かを決心したように、じっと河馬を見た。「武装民兵を手段として、この国の民主を守ることを目的とした候補議員、登盛……うちのお嬢様にはもう会っただろう。ジーンズを穿いたあの娘——夜だ。彼女は登盛の婚約者だ。そしてうちのボスは登盛に実際に会ったことはない。彼は電子部品の錬金ビジネスをしている。」
阿福は地面を見た。「俺が言えるのはこれだけだ。」そう言って、とても小さな拳銃を地面に投げた。拳銃は地面を滑り、最後には土埃を伴って止まった。
河馬はその行動を見て、しばらく何と言っていいかわからなかった。ただ彼が猛然と下へ飛び降りようと手を挙げて合図するのを見ていた。
ここは二階だ。落ちたら死ぬかもしれない。
「正気か?」だから河馬は慌てて声を出した。狙われるかどうかも気にしていられなかった。
「正気?この世界で生きていて、誰が正気だ?お前は正常か?」阿福は河馬を見てそう言った。「何が正常だ?俺はただ、人は人らしく生きるべきだと知っている……お前は戻ったら、あの臆病者に伝えろ。阿福はやるべきことをやりに行ったと……」
「お前は一体……」河馬はその姿を見て、続けて何か言おうとした。
しかし、その人が両腕を広げ、そのまま真っ直ぐに二階から飛び降りるのを見た。
かつてない解放感とともに。
一体どういうことだ?
河馬にはわからなかった。雨粒が顔に打ちつけ、ただ必死に一歩前に走らせた。
そして見た。白い雨幕の中に浸っている。
遠くのわずかなものも見えない。彼はそのままこの世から消えてしまったかのようだった。白茫茫とした雨幕の中に迷い込み、もうあるべき痕跡を見ることができない。
水滴が顔から少しずつ流れ落ちる。
「一体これはどういうことだ?」
河馬は遠くを見た。そこが反乱軍の支配地域のようだ。
そして誰かがそこで自分を殺せるかもしれない。
しかし今、彼はただ地面にへたり込みたいだけだった。
危険かどうかも構いたくなかった。
なぜ?
これは何だ?
恩人?お嬢様?これは何だ?
わからない、理解できない。
それに反乱軍の支配地域だの、陣地だの、すべて嘘だろう。
もし嘘でなければ、こんな場所でそんな無茶をするだろうか?
銃口の下で両腕を広げて?
何の意味がある?
たぶんただ俺を怖がらせるだけだ。老人は新人をいじめるような遊びが好きだ。
そうすれば……
彼に存在感があると証明できる。
しかし実際は、普通の人と何も変わらない。
しかも二階から飛び降りるなんて、信仰の飛躍でもするつもりか。
敵を殺せる……
何が反乱軍が今狙っているだ。
笑わせる。
もし反乱軍が狙っていたら、そんなに傲慢にできるか?
万歩譲って、彼の言うことが本当だとして。かつての旧友のために、命を代償に払う?ありえない?彼はこれを何だと思っている?熱血物語の主人公か、それとも趙氏孤児か?武侠小説だと思っているのか?一言不合で刀を振るい、友のために命を張り、四方に血を流す……
すまない、ここは古代ではない。
ここは新世紀。
本当に真に発達した新世紀!
ここには飢餓もないし、昔のような貧しさもない。これは生産力が極度に発達した社会だ!たとえ小さな問題があっても、すぐに平定できる!
しかも……
俺は古代にタイムスリップしたことはないが、たぶん古代にもこんなものはないと思う。
友のために?
何が趙氏孤児だ?全部嘘だろう……
自分の子を他人の子とすり替えて、それから死ぬなんて、そんな馬鹿がいるわけない。
そんなのありえない。
何せ……家族が一番大切だ。
虎も毒といえど子を食わず。
何が友だ、兄弟だ、ましてや旧友……
そんなものは、肝心な時に信頼できない。
こんな空虚で漠然としたもののために、命を払う。本当にそんな人間がいるのか?
偽善的で、捏造された……
少なくとも俺は一度も見たことがない。かつての大学生活、高校時代、そしてもっと以前……いわゆる心を温めてくれたエイミー。
すべてすべて……
一体何の役に立つ?
この連中は、かつての友のために少しでも何かをするのか?
するのか?
あの言葉があるだろう?人と接すれば接するほど、犬が好きになる。
なぜなら少なくとも犬は人間を裏切らない!小動物でも長くいれば情が移る?しかし人間は?変わる時は変わる!
何が友のために犠牲だ?物語には誇張がある……この世界にそんな人間はいない。今はいない、昔もいなかった、古代にはもっといなかった。
人にとって一番大事なのは自分……
自分が終わってしまえば、すべてが終わる。
そうだ……
たぶんそうだ……
河馬は自分の両膝を抱え、二階屋上の矮牆の下に縮こまった。
寒さで全身が凍りついたようだった。
雨が私に注ぎ、格別に冷たく感じさせる。
なぜこんなに冷たく感じる……
そしてなぜ心がぽっかり空いている?
まるで大切な何かを失ったかのように……
俺は何かを忘れたのか?
違うだろう……
俺はまだちゃんとここにいる……
それでは……
なぜ?
わからない……
また……
なぜさっきの姿が飛び降りた瞬間、あんなに美しかったのか。まるで一生忘れられないことのように。
そんなものを本当に憧れるべきなのか?
それは死の危険だぞ……
……
やりたいこと、やるべきこと。
そんなもの……
俺にもそんなことがあるのか?
あるだろう……
たぶんあるだろう……
……
本当にあるのか?
いや……すべて彼が自分を騙しているんだ。
そんなはずない……
そんな人間はいないだろう。すべては偽物だろう。
もしかしたら……もしかしたら……
もしかしたら彼らは今、元の場所で、自分が鼻水を垂らして泣きながら、すべては芝居だったと告げるのを待っているのかもしれない。
そして高校の教師が自分に言ったように……
「人は自分のためにせずして天罰が下る……」
他人を簡単に信じるな。
まったく気にしないふうにそう言う。
ただあの姿は、まるでさっきまでここにいたかのようだった。
あまりにも現実的で……
今はこうして消えてしまった……
この消失はあまりにも速く、自分は少し驚き戸惑ってしまう。
速すぎて、雨粒の熱だけが頬に残っている。
「いつか、命よりも大切なものを見つける……」
口の中で思わずそう呟く。
「友のために……死の覚悟を払う。」
河馬はさらに隅に縮こまった。
寒い……
本当に寒すぎる……
こんなこと……自分にはあまりにも遠い……
遠すぎる……
本当に……
空は雨を降らせ、こんなに冷たい。
自分は少し息が詰まりそうだ。
俺は一体どこへ行くべきで、どこへ帰るべきなのか?わからない……俺は一体……
一体……
どこへ行くべき?
もし本当に神がいるなら……
教えてほしい。
本当の道はどこへ通じているのか?
河馬は目を閉じ、空を見た。
雨水が乾いた唇を濡らすに任せる。
今、自分は何をすべきだ?こうしてよろよろと戻って、それからあの連中にどう向き合えばいい?どう話せばいい?こうして人を失くしてしまった。彼らは自分をどうする?殺すのか?彼らの仲間を失くしたから……そうだ、自分は彼らと何の関係もない。こうして、自分は彼らと本当に少しの関係もなくなった。彼らも自分を接待する義務はもうないし、自分もここに居続けることはできない。
もし自分が一人ぼっちなら、本当にこの世界で生き延びられるのか?できないだろう……
はは……
自分は本当に……
最初から自分のことばかり考えている……
でも、死んだとしても……どうなる?
誰かが自分に注目するか?
こんな雨の夜に惨めに死ぬ。
誰も自分のことを思わないだろう。
たとえ太平の世でもどうなる?詩に書いてあるように、親戚はあるいは余悲を抱き、他人はすでに歌っている。死んで何をか言わん、体を山の阿に託すのみ。
あるいはあの人の嘘のように、みじめに生き延びるより、堂々と何かを追い求めたほうがいい。
わからない……
わからない……
本当に……本当に……
わからない……
何が友のために犠牲だ……死ぬだろう……
たぶん死ぬだろう……
きっと死ぬだろう……
もし……死んだら……
いや……
いや……
いや……
涙が声もなく雨粒に混ざる。
あれは嘘だろう……きっと嘘だ……
嘘だ……
彼は今きっと、自分をからかう芝居を準備している。
きっと……
きっとそうだ……




