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ミナの気づかないうちに、アンドリオンとバンリオルの綱引きが…(第48話)

ミナの賢さに、もう我慢ならず、そばに置きたくてたまらないアンドリオン。

一方、領主の危険な計画に、ラフカーンはカイルを引き込もうと…。


 カイルはまだ騎士団員ではない。だから、隠密行動に使える。

 しかし、この二人をもし失うことになれば、自分は罪悪感にさいなまれるだろう。逆に成功したら、この国は大混乱に陥る。行くも地獄、退くも地獄なのである。


 アンドリオンに話して、領主を止めてもらうか…。


 しかし、ラフカーンからアンドリオンに告げることはできない。それは領主に対する裏切りとなる。アンドリオンが察してくれればよいのだが…。


 ラフカーンは悶々としながら城内を騎士団本部へと戻っていく。そのとき、彼は一人の女性を見た。

(あれはエカーリア様…。隣にいる男は…)


 なぜかカイルと共に歩いている。

 ラフカーンがエカーリアを見たのは、アンドリオンが西の城壁に行くときにつけた護衛の騎士たちを見送ったときだった。馬車に乗るのはアンドリオンとエカーリアだと聞かされていた。確かに、アンドリオンに「お兄様」と呼び掛けていた。


 もう何年もこの城にいるのに、今まで見たこともなかったエカーリアを見て、大変印象深かったため、ラフカーンは一目で覚えた。


 そのエカーリア様がお付きもつけず、城内を歩き、カイルと楽し気に歩いている。

 それは不思議な光景だった。


(カイルがなぜエカーリア様と? ……わからぬ…。エカーリア様の心を射止めたということか?)

 それは考えられぬことではない。この城内でカイルのような庶民の服装で歩く者はめずらしい。それだけでも目に留まるのだ。そして、フライアも気に入るような外見であることも確かだ。


(女心はわからぬ…)

 ラフカーンは足早に騎士団長室に戻っていった。


 * * *


 次の日、アンドリオンは側近を呼び、大特急でミナの部屋と馬車、専用の御者を用意するように言いつけた。

 御者というよりも、ミナの護衛ができる者だ。身元が確かで、御者はもちろん、多少の武芸の心得があり、いざというときにはミナを守れるものであることが条件だ。


 部屋は城内の貴族用の宿泊施設の一つに決めた。そこは小さな独立した一棟で、地方から来た貴族の一団が泊まる施設である。とりあえず、侍女を三人付け、部屋の掃除や片付け、連絡係を担当させ、城の食事を運ばせればよいだろう。


(これならすぐに呼び出せる…)

 アンドリオンはワクワクした。もう、呼び出すたびに迷惑そうな顔を見ずに済む。役職は「行政顧問」だ。


 アンドリオンはミナに、ミナが住むことになる家を見せた。

「どうだ? これなら気兼ねはいらぬぞ」

 そう言って、アンドリオン自ら、ミナを建物に案内した。


「まあ。素敵な建物ですこと!」

 それは白い小宮殿のような、かわいらしい別棟だった。二階建てで正面から見ると縦長の窓が5つあり、下は玄関広間、食堂、応接間と使用人の部屋、上は広い居室が三つある。


 ミナは恐る恐る中に入る。内装はシンプルだが、明るい幾何学模様の壁紙が貼られた壁には、ブリアの各地の風景画が何枚か飾られていた。床は温かみのある木材だ。


「あの…。本当にここをお借りしてもよろしいのですか?」

 ミナは何か変な条件でもあるのではないかとちょっと心配になった。


(ほら、『愛人になれ』とか…? ま、アンドリオン様がそういう目で私を見たことはないけど…)

「条件は、私の行政顧問という役職を受け入れることだ。だから、私が呼びだすときは優先して来てもらいたい」

「え…」


 ミナはげんなりした顔をしたので、アンドリオンはあわてて付け足した。

「あくまでも、自由都市に関する話とか…、そう、労役や商いなどの相談役だ。怪しい関係のつもりはないぞ!」

 汗ばみながら、アンドリオンは強調した。


「わかりました。それだけで良いのですね。それで、御者と馬車、それに侍女を付けてくださると…?」

「そうだ。文句なかろう」

 アンドリオンにとってみれば、安いものだった。

 

なにしろ、フレスタで作っていた壁の予算がもう不要なのだから。あれを推し進めるために、どれだけの人手と金を使ったことか。


「はい。文句などございません」

 そう言って、礼をした。

「ありがとうございます。では、お受けさせていただきます」

「そうか」

 アンドリオンはやっとホッとした。


 ミナの気が変わらぬうちにと、さっさと「行政顧問」の役職を登録した身分証をつくり、渡した。これは外交もできる職種のため、身分証明書は必須だ。


 ミナの護衛や侍女の選定、内装の変更など、準備に少し時間がかかるので、引っ越しは一週間後ということだった。



 ミナは引っ越しのことをヨーカや役場のリントンたちに報告した。リントンとガナスは大変驚いて、「アンドリオン様の行政顧問?!」と叫んで、二人で顔を見合わせた。


「アハハ…。この定期便事業や『ポロスの祝福』に貢献したのを評価してくださったようなのです」

(愛人になったと思われたらいやだ…)ということで、二人が妄想するのを先んじて抑えておいた。


「確かに。実は、『ポロスの祝福』以来、財務部のほうでもアンドリオン様の采配に驚いているところです。今までより予算を削っているのに、新しい事業を始めております。そのたびに、財務部では予算の再編成をしております」


 とガナスが言った。アンドリオンは村対抗戦のやりかたをあちこちに採り入れているようだった。


「はい。ですので、定期便事業のほうは、これからはお二人にさらに負担がかかると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

「はい、こちらは大丈夫です。だいたいの仕事の流れは整いましたし、新しい3人の役人も育っております」

 リントンの答えに、ミナはほっとした。


 次は、一応バンリオルにも報告に行こうと思った。ボリックが部屋を貸すと言ってくれたあと、まだ返事をしていないのだ。きちんと断らなければ…。

 レイと二人で市場に行ったついでに、バンリオル邸にまわることにした。


「ミナは城の中に住むのか…。兄貴も城の中だしさ…。うちも人口減るなあ…」

「あんたが結婚しないからでしょ」

 レイももう18歳なのだ。


「それを言うなら、カイルだろ! あいつが結婚しないから、うちの人口が増えないんだよ」

「うん。確かに…」

 カイルはもう21歳だ。


(でも、カイルは今、騎士団の仕事にのってるから、結婚はしないだろうな…)

 とミナは思った。


 ボリックはミナの訪問を歓迎してくれた。

「ミナさんのほうから来ていただけるのは光栄ですね」

「まあ、何をおっしゃいますやら…。わたくしこそ、うかがわせていただき、光栄ですわ」


 そんなやり取りをしながら、お茶を飲み、ミナは切り出した。

「で、前にお声がけいただいた引っ越しの件なのですが…」

「はい。決めていただけたので?」


「いえ、それが…。実はアンドリオン様から仕事をいただきまして、その都合で城内に住むことに…」

「え…?」

 ボリックはカップを持つ手を止めた。


「それはいったいどういう…」

「あ、あの。誤解しないでくださいませ。城内と言っても、居城の中ではございません。最近、仕事の呼び出しが多いので、アンドリオン様が近くに住めとおっしゃいまして…」


「ほう、仕事? それは定期便のことですか?」

「いいえ。わたくし、そのほかにもいろいろとアンドリオン様のお手伝いをさせていただいているのです」


「え、そうなのですか…。差し支えなければ、その仕事についてお伺いしても?」

「あ、はい。先日行われた『ポロスの祝福』ですとか、河岸の拡張工事についての意見ですとか…」

「な、なんと…」


 ボリックはかなり驚いた様子を見せた。

(そんなに驚くことかな…?)

 ミナは逆にそれに驚いた。ボリックが領内の公共事業に興味を持つとは思っていなかったからだ。


「最近、公共行事の進みがよいと聞いておりますが、それはミナさんのおかげなのですね」

「いえいえ、おかげだなんて…。ほんの2つか3つ、意見を述べたまでですわ」

 とミナも牽制した。大げさに評価されるのも困る。


「で、ミナさんはいつ城内に引っ越されるので?」

「はい。1週間後くらいになるかと思います」

「そうですか……」


 ボリックはしばらく考えていたが、微笑みながら、切り出した。

「ミナさん、私はあさってから王都に帰るのです。ミナさんもご一緒に王都にいらっしゃいませんか?」

「え?」

 ミナは驚きを隠せなかった。

(王都…)

 まるで今まで空想の中にしか存在していないようなものが、一挙に現実的になったような感覚だった。



姿を見せたことがないエカーリアのフリをしていたミナ。

騎士たちの間では、「エカーリア様を見たぞ!」と噂になっていました。それが王都でひょんなことにつながります…。

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