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第39話 秘密組織

今まで、魔物相手の狩人だったカイルが、だんだんと運命が変わります。

 ミナは夕方の薄暗い部屋でベッドに寝転んでため息をついていた。


 婚活ツアーは滞りなく終わり、みんな魔法に掛けられたような幸せな気分で家に帰って行った。あの中からカップルが生まれるのは必然だろう。

 ガナスも肩の荷が下りたようで、ほっとしていた。まあ、みんなうまく行ったということだろう。


 しかし、ミナは心が重かった。

(街に住む…カイルがいない…街で暮らす…カイルと離れる…)

 似たような言葉が頭の中に繰り返し浮かび、ぼうっとしていた。


「ミナ」

 部屋の外からカイルの声がする。

 ミナは飛び上がって起きて、扉を開いた。

「カイル、お帰りなさい」


 最近、カイルは毎日のように街に行って、騎士団で訓練をしている。狩りには行っていないのだ。

「ミナ、何かあったのか? レイが心配してた。急にミナの元気がなくなったって」

「う、うん…」


 ミナはベッドに座り、カイルはいつものように椅子に逆向きに座る。

「何かあったっていうよりも…」

 そこで言葉が止まった。カイルは続きを待っている。


「あのね…」

 また言葉が止まる。カイルは首を傾けて言葉を待っている。


「未来が見えてくると、不安になるってこと、ない?」

「ああ、あるな。しょっちゅう見えてるし」

 ミナはカイルを振り返った。


「あ、そうか。そうだよね」

 そう、カイルは戦いに入ると未来視ができるのだった。言葉を間違えた。


「前にね、街に住もうと思っているって言ったでしょ?」

「ああ、言ってたな。それが便利だって」

「うん…」

 またしばらく黙ってしまった。


「街に住むのか?」

 カイルのほうが口を開く。

「わからない…。やっぱり街に住むと、……寂しいかな」

「住めばいい」

「え?」

「俺も街に行くかもしれない」


「それ、街に住むかもしれないってこと?」

「ああ」

「ほ、ほんと?!」

「…たぶん」


「カイルが街に住むなら、私も街に住む」

「それ、ミナらしくない。いつだって自分の思い通りに生きたいくせに」

「う…」

「もう一度、ゼロから考えろ。俺だって、街に一年もいないかもしれないしな。人に依存していたら判断を間違うぞ」

「おっしゃるとおりです。…すみませんでした」


 俯いて素直に反省するミナを見て、カイルはクスッと笑った。

「ミナは前に言ってたろ?」

「何?」

「『この世界が私に望んでいることをするんだ』って」

「えっ、言ったっけ?」

「ああ、部屋で一人で叫んでた」

「ええ~?! 聞かれてた~?!」

(うう~、すごく恥ずかしい…)

赤くなったほほを両手で隠した。


「もう一回、その気持ちで考えろ」

 ミナは大きく息を吐いた。

「うん、…わかった。ありがとう」

「さ、めし、いくぞ」

「うん…」

 一緒に部屋を出て、食堂へ向かう。

(カイル、やっぱり私の家族だ…)

 

                  * * *


 カイルは滝のように汗をかいていた。

 騎士団の一番精鋭のクラスである第一組の連中と次々と対戦し、あちこちに打ち身の傷をつくっていた。この組との対戦成績が7割以上にならなければ、ラフカーンとは手合わせできない。

 しかし、第一組の騎士たちもかなりの腕で、カイルはまだ4割しか勝てないのだ。


 これを続けてもう1週間だ。残念ながら、勝率はまったく上がらない。自分が多少強くなっても、相手も強くなっている。だから、ここで7割の勝率というのは並大抵ではないと気づいた。


 その日、騎士団訓練所で4時間たっぷりと訓練したあと、門を出た。いつもかなり疲れた状態だ。ふと見ると、フライアが角に立っていて、手招きをしている。

「何か用か」


 フライアはジロッと下からカイルを見上げて、「相変わらず愛想なしね」と言った。そして、流し目をしてカイルの頬を人差し指でピンと叩く。

「いい男だから許すけど…」 


 カイルはこの手のタイプの女には今まで出会ったことがなかった。なんと言っていいかわからない。

「ちょっとついてきてよ。おもしろいところに連れていってあげるから」

 そう言って、いつものようにカイルの手を掴んで歩き出す。その様子は楽しそうだ。


 市場を通り抜け、街の東側に向かう。

「ラフカーンが言っていたわ。あなたは素質があるって」

 ふふっと笑って、カイルを見る。

「何の素質かわかる? 剣の素質…だけじゃないわ」


 カイルには何のことかよくわからなかった。

 裏通りに入り、一軒の小さな酒場にやってきた。

「ここよ」

 そう言って、カイルの手をまた掴み、奥に引き入れた。


「こんにちは。入るわよ」

 暗い店の中には一人の男がカウンターの中にいた。

「おう」

 皿を拭きながら、男が返事をする。


 フライアはさらに奥の扉を開け、カイルを入れると扉を閉めた。そして、階段を降りる。

 カイルは少し不安になる。これは店の中ではなかった。秘密の場所らしかった。

「ここよ」

 フライアはカイルを連れて、目的の場所の扉を叩いた。

「入るわよ」

「おう」


 男たちが何人か、丸テーブルに座ってカードをしていた。カイルが入ってきたのを見て、カードを置いた。

「この坊やがカイル。よろしくね」

「ああ、お前さんがカイルか。俺はメロー、こいつはカリス、こっちはナッシュだ」

 それぞれ手を差し出すので、カイルはわけもわからないまま、握手をした。


 3人とも大柄で、胸板も厚い。そんな中に華奢なフライアが立つと、小さな子供のようだった。カイルとフライアも椅子に座る。


「ラフカーンが喜んでいたぜ。良いカードが来たってな」

 ふふっとみんな笑っているが、カイルはなんのことだかわからない。

 フライアは困惑しているカイルを見て、説明を始めた。


「ここにいるのはね、ラフカーンの秘密の兵隊たちよ」

「秘密の兵隊…?」

「そう。ま、領主様の裏の戦力ってことかな?」


 カイルはまだよくわからなかった。だが、ラフカーンが「危険な仕事もしてもらう」と言っていたのは、このことなのだろうと思った。


「あなたにはわからないと思うけどね…。ブリア領は大変な立場に立たされている。表向きだけじゃなく、裏でも動いていないと、足元をすくわれる。だから、裏で働く組織があるってわけ」

「つまり、この領地に対する敵対勢力がいて、そこと戦っているってことか?」


「そうよ。あなたもその年なら知っているでしょ。10年前にも侵略戦争があった。どこが攻めてきたか知っている?」

「北の隣国グリダッカルだろ?」

「そうよ。それは過去じゃない。今ここにある危機なのよ。何もしなければ、とっくにこのブリア領はなくなっているわ。だから、誰がどんなことを企んでいるかを把握して、時には武力でそれを阻止する必要があるってこと」

「ふうん…」


「誤解しないでね。ここは領主様の正式な組織で『シーラの加護』という名前よ」

 シーラは水の神の名だ。


 カイルはオルトの話を思い出した。最近、諜報が活発化しているのだろうか。自分はそこに引っ張り込まれたということらしい。


(それにしても…)

カイルは心の中で違和感を感じていた。この違和感の正体はなんだろう?


(そう、フライアはバンリオルが雇っている魔法使いじゃないのか? バンリオルは王都の商人で、この領地の領民ではない。なんでバンリオルの仕事をしてた?)


 しかし、これはこの場で聞いてはいけない質問だろうとカイルは思った。そもそもフライアは、自分がバンリオルの仕事をしていたことをカイルに知られていることを知らない。


 メローがフライアから言葉を引き取った。

「ま、すぐに仕事をしてもらうわけじゃない。ただ、この国の状況を知ってもらいたいんだよ。俺たちはこのブリア領を守らなくちゃいけない。お前さんも家族がいるだろう?」

「ああ、いる」

「戦争になったら農民は大迷惑だ。だから、戦争にならないように争いの芽をつぶすのが俺たちの仕事ってことさ」

「…わかった」


 魔物や獣を相手にしてきたカイルにとっては、人間を相手にすることになるという大きな転換だった。 国を守るためと言われても、人に剣を向けるのはカイルにとって痛みを伴う。しかし、自ら騎士団に入ったのだから、もう後には引けない。


(覚悟がいるな…)

 カイルは人に剣を向けることを思うと、身震いする。


 ミナに言った言葉を思い出した。

「この世界が自分に望んでいることをする」


(俺はこの世界が自分に望んでいることを選ぶ。それ以外は選ばない)

 そう何度も心の中で繰り返すのだった。

 それは、この世界が必ず味方であるという大いなる信頼があっての祈りなのだった。


 しかし、カイルは自分の運命が、自分の想像を超えて大きく変わろうとしていることに、――まだ気づいていなかった。


自分よりも上の騎士たちを見て、カイルは負けん気が出てきました。


でも、ブリア領がそんな危機にあるとはまだよくわかっていないカイル。


どんどん、複雑な事情に引き込まれて行きます。


カイルもミナも、だんだんと、自分たちのいるブリア領がかなり危ない領地だということがわかってきます。


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