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第19話 村長も驚愕の巨大な投資額

思いがけず、領主にプレゼン…。これは、市井の一主婦が、大企業のトップに直接売り込みに行くようなもの。

おそろしや…。

 馬車は市場を通り過ぎ、タンブリーの北側へと進む。


 大きなお屋敷が並ぶ通りをしばらく走った後、馬車が止まり、重い鉄の門がゆっくりと開く。

 ここがブリア候カリディオン・ローガンの居城で、近くで見ると想像以上に大きかった。

 威圧感というより、積み上げてきた時間の重みを感じさせる建物だ。


 正面の3階建ての建物は、馬車が通り抜けられるように中央部がアーチ形になっており、そこを潜り抜けると、練兵もできる広い広場があり、その先にいくつかの建物が左右半円形に並び、その中央部には高い塔のある城がある。


(すっご~い。村とは全然違う…)


 城のほうではなく、半円形に並ぶ建物の一つの前で、馬車を降りた。

 すると、案内役が現れ、二人に告げた。


「アンドリオン様はまだご不在です。その前に、領主様がお会いするとのことでございます」

(えっ…)

 二人は顔を見合わせる。ガルベルトでさえ領主様に会う機会はほとんどない。二人とも冷や汗をかき始めた。


 そこから、案内役に導かれ、二人は広い廊下を進む。

「領主様は執務室でお待ちです」


 板敷の床を進むと、途中から大理石貼りになり、ミナの靴音がやけに大きく響く。村娘にはあるまじき音だ。ミナは少し恥ずかしかったが、二階に上がると絨毯が敷かれており、ミナは安心した。


 案内役は二階の突き当りの部屋に二人を通した。扉の前の衛兵が扉を開け、室内にいた侍従が後を引き継ぐ。


 そこは100平米くらいの大きさで、正面には領地の紋章が描かれた大きなタペストリー、左右の壁には歴代領主の肖像画が並んでいる。それだけでもかなり重厚な雰囲気だ。

 農民の娘が来るような場所ではないだろう。


 入り口に近いところにソファーが二つと長椅子、テーブルがあった。奥には重厚な机と椅子があり、その椅子に風格のある男が座っている。


 派手な装いではないが、地位の高さが感じられる織りの良い布と、ジャボと呼ばれるヒラヒラの二段フリルの襟元、その中央には金細工で縁取られた大きな赤い宝石が輝いている。


 年のころは50代で、ミナの両親と同じくらいだろう。赤みを帯びたたくさんの巻き毛が細い金の輪で抑えられている。顎髭が顔の輪郭を縁取る。


「領主様、エルノー村の行政官を務めております、ガルベルトにございます」

 村長が片膝を折り曲げ、右腕を胸に置き、深く頭を下げる。


「こちらは、今回の定期便事業を立ち上げたエルノー村のミナ・クロエでございます」

 ミナもスカートの端を持ち上げて、一礼した。


「ミナ・クロエでございます。お目にかかれて光栄でございます、領主様」

 自分の声は、思ったより落ち着いていた。胸の鼓動は速いが、逃げてはいない。


「おもてをあげよ」

 ミナが顔を上げてすっと立つ。領主は、ミナをじっと見た。服装、姿勢、目線――すべてを測るように。

「……ほう、若いな」

 それが、最初の言葉だった。

「はい」

 ミナは照れ笑いのように小さく笑った。この若さはチートなので、言い訳をしたいのだが、やめておいた。


 そして、ミナは言葉を続けた。

「ですが、村のために役に立ちたいと思っております。すでに、村と街を結ぶ定期便は稼働しております。今日はそれを発展させるためにご相談をさせていただきたく…」


 領主の眉が大きく動き、机に右ひじをつき、顎を右手のこぶしに載せてミナをもう一度よく眺めた。

「ほう」

 そして、にやりと笑った。


 何かおかしなことを言っただろうか。ミナが言葉を止めて待っていると、

「村娘とは思えぬ堂々とした態度であるな。これは驚いた」

 と領主はおもしろそうに頷いた。


「は。恐れながら、ミナは生まれながらの商人かと思うほど、商いの知識がございます」

 ガルベルトが冷や汗をかきながら、口をはさんだ。


「ほう。なにやらエルノー村でおもしろいことを始めたという報告を得ておる。私も興味があるので、それを聞かせてもらいたい」


 領主は2人に長椅子に座るように言い、自らもソファーに座った。


「話すがよい」

「はい。ありがとうございます」

 ミナはヨーカが貸してくれた袋から数枚の紙を取り出した。


「こちらが企画書にございます」

「企画書?」

「はい。定期便事業計画の案でございます」

 ミナはそれらを並べた。


「まず、この案の目的をお話しいたします。

現状では、農家が直接市場に出向いてそれぞれが個別に農産物を販売しております。

村の8割の農家は市場で販売しています。市場は天候に左右されますので、廃棄量も多くなります。


また、タンブリーの街の発展に伴い、若者は村を離れていく傾向がございます。それで、村は今、人手不足となっております。つまり、人手も農産物も無駄の多い構造になっているのでございます」


 領主は少し目を見開いた。


「わたくしの考えておりますのは、人手を効率よく回し、農産物の廃棄量を減らし、さらに、村人に競争原理を持ち込んで、農産物の量と品質を高めるということにございます」


「なんと。人手と農産物を効率よくまわすとな? 競争原理? すると、農産物の量が増えると申すか」


「はい。現在、バラバラに市場に運ぶ労力を減らせば、その仕事から解放された者が畑で働けますし、他の仕事につくこともできます。

農産物を一括で買い取ることで村全体の農産物の品質管理ができますし、出来具合を競わせて、より良い品質のものには高い値で買い取ることができれば、農家は農業に力を入れるでしょう。

その結果、収穫量も増えます」


「ふむ…」

 領主はあごひげを撫でながら、遠くを見て考えているようだった。


「そして、この仕組みがいったん出来上がれば、領地全体にこの仕組みを採り入れることができます。すると、領地全体の農業の効率がよくなり、その分、収穫量が上がるでしょう。それは税収を上げます。領主様にとっても利益になると思われます」


「領地全体にこの仕組みを採り入れたいと…?」

「はい。わたくしの頭の中には、そのような絵がございます。しかしながら、わたくし一人では微力でして、行き詰まっております。最初の大きな投資が必要なのでございます」

「すでに定期便がまわっておるのであろう? なんの投資が必要なのだ?」


「はい。競争原理のかなめは品質管理です。品質管理は長期にわたる作業です。

すぐには結果が出ませんが、収穫量を上げるためには必要な作業です。

品質を管理することで、農業の意味は変わるでしょう。


ただ食べ物を作ればいいわけではなく、おいしいもの、丈夫なものを作った農家が正当に評価される仕組みがあれば、みな頑張るでしょう。

そのためには評価する仕組みが必要です。

そこで、領主様、アンドリオン様のお力をお借りしたいのでございます」


 ミナはテーブルに広げた紙の1枚を指さした。


「今必要なのは、大量の木箱です。これを顧客と農家の両方に貸し出します。

これができれば、品質管理が可能となります。


ただ、木箱を損傷されたりなくされたりしないようにするために、領主様のお名前をお借りしたいのです。領主様のお墨付きの事業であれば、おいそれと木箱をなくしたりしないでしょう」


「なるほど。これはおもしろい」


「必要な投資額はおよそ1万1000ポル。これは、専用の荷馬車一台と、木箱400個、専用の職員二人を雇う費用です。専用の馬車は農産物の傷みを減らすために必要です。そして、試算ですと12か月後から黒字になる予定です」


「な、なんと…」


 声を上げたのはガルベルトだった。とんでもない金額を言い出したと思ったのだろう。


「ふむ…」

 領主は特に驚きもせず、企画書を見ていた。そして、1枚を手に取ってよく見る。

「この書類はよく書けておるな。文字もうまいし、計算もできておる。なかなか賢いとみえる」


「恐れ入ります」

 ミナはほっとした。一応、伝えるべきことは伝えた。あとは企画書をよく読めば、試算の根拠がわかるはずだ。


「さて、農産物の収穫量や品質が上がると、どんな良いことがあるかな?」

 領主はソファーに深く座り直し、ミナを見つめながら聞いた。


「はい。さきほど、税収が上がると申し上げました。農業は国の根幹でございます。どんなに人が生まれようが、食べ物なくしては育ちません。


農業の効率が良ければ、1万人でしていたことを7000人でできるようになるでしょう。残りの3000人は別の仕事をすることができます。


治安を守る者やモノの流れにかかわる者は国の安全や発展のためには必要なものですが、それ自体は何も生産しません。


農業が発達してこそ、それらに従事する者を養え、国の安全、国の便利さが生まれます。つまり、新しい産業が生まれる余地になるのです」


「ふむ。なかなかの慧眼であるな」

 領主はニヤリとして、満足したようにあごひげを撫でた。


「まあ、よかろう」

 そう言うと、領主は指を動かし、そばに控えていた侍従を呼んで何かを言いつけた。それから案内係を部屋に入れ、ミナとガルベルトを別の部屋に案内するように言いつけた。


「なかなかおもしろい話であった。下がるがよい。そろそろアンドリオンも戻っておるだろう」

 そう言って、領主は机に戻り、ミナとガルベルトは部屋から出た。


「では、こちらにお越しください」

 そう言って、案内係は建物を出て、2人を別の棟に案内していく。


 ミナはガルベルトに近づいて、こそこそと話した。

「領主様がわざわざお話を聞いてくださったということは、この話を気に入ってくださっているということですよね?」

「はあ、そのようだな」


 ガルベルトは喜ぶ余裕がない。自分の予想を超えた大きな金額を聞いて、冷や汗をかいている。

「ミナさんのその度胸…いったいどこから来るんだい…?」


 普通の村娘が考えたこともないような大きな金額を領主に提示できるという度胸が、ガルベルトには理解できなかった。


 大きすぎる金額は危険だ。

(とんでもないことにならなければ良いが…)

 ガルベルトにとって、そう祈るのが精いっぱいだった。


ミナの視点の広さにお気づきいただければ幸いです!

「バタフライ効果」というのがありますが、

たかが野菜の一括販売。それが、各方面にいろいろな波及効果をもたらし、最終的には領地全体に波及する。

そんな企画を立てたいですね!


「ふむふむ」と思っていただけたかたは、ぜひ、高評価とブックマーク、お願いいたしますm(__)m


次回は、ミナの良い上司?となる(かもしれない)時期領主アンドリオンとの出会いです。


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