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帰りたい男の話  作者: はるゆめ
9/10

焦燥

見た夢に引きずられるような感覚。


俺は今いるここを異世界だと思っていたが、もしかすると夢を見ているだけなのかもしれない……。


そんな思いがぼんやりと浮かんだ。現実感が乏しいし。


ナハライズミ達は俺を救出に来るだろうか?

ケモノビト達の運動能力が凄すぎて絶望的な気持ちになる。

俺を担いで百メートル走並みの速度で走ってるのだ、森の中を。


すると。

ケモノビト達は止まる。


追尾つけられてるねぇ」

マジか?

「ここで相手するかねぇ」

俺は降ろされる。

「お前さまはここで大人しくぅ待ってておくれ」

目隠しと猿轡をされ、手足も縛られる。

ケモノビト達の気配が一瞬で消える。


どうする?

身動きが取れない。

転がってみるが、すぐに木の根っこみたいなものに当たる。


遠くで何かと何かが争う音。


近くで人の気配。そして静かな足音。

ケモノビトの誰かが戻ってきたか?


柔らかい手のひらが俺の顔を挟み込む。

「怪我はない?」

スズユフミの声だ。

「こっち」

拘束から解放され手を引っ張られその場を後にする。

俺はなすがままに着いていく。


山の斜面を下る。

躓きそうになりながらもとにかく走る。

川の音。

 「早く中に」

大きな岩のそば、川の中へ。

水はまだまだ冷たい。

そのまま対岸へ。

「これで匂いは消せる」

緊張したスズユフミの声色。


森から林へ。

陽光が射す。

薄暗い森から抜けた俺たち。


もう走れない。

それでも足を動かす。


「はぁっはぁっ、ど、何処へっ、行くんだ?」

息切れしてきた。


「あそこに洞穴があるからそこに隠れよう」

スズユフミの指さす先には獣の巣穴みたいな穴が見えた。


入り口を木の枝で隠す、念入りに。

足跡も消す。

そして臭い消しの粉を撒く。


洞穴の中は案外広く、腰を屈めなくても歩けるほどで、

奥へ進んだところで座り込む。

中は真っ暗だ。

彼女は俺を抱え込む。


「朝になったらナハライズミが迎えに来ると思うから」

「そうか」


俺の思念を感じ取ることが出来るんだったな、距離はどれぐらいかわからないが。

なら強く念じてみよう。

(ナハライズミ!俺はスズユフミもここにいる!)


「何も食べてないでしょ?これ食べて」

差し出された雑穀米おにぎりを頬張る。

(白米なんてないだろうしな)

ぼんやりそんなこと考えながら飲み下すと、気分はかなり落ち着いた。

暗さに目は慣れないが、触れ合う肌でスズユフミを感じる。


眠くなってきた。

そして。

スズユフミの体臭が甘く甘く俺の鼻腔をくすぐる。

湧き上がる俺の中の『男』。


(娘みたいって思ってたよな?)

(俺はそんなに溜まってたのか?)

(いかん、堪えきれん)

不意に塞がれる唇。

スズユフミの吐息もまた甘く、俺は自分に抗えなくてそのままスズユフミとひとつになった。


どれぐらい眠ったのか。

洞穴入り口を塞いだ木の枝から陽光が差し込んでいる。


「朝だよ」

振り返ったスズユフミ。


俺は驚く。

表情がない。

ゲームキャラの3Dデザイン画みたいな顔。

そこに生気は一切感じられない。


「お前……誰だ?」


「子種はいただいちゃったぁからねぇ。もういいかねぇ」

「なっ!」

スズユフミの輪郭が曖昧になり、そこにはケモノビトの女が立っていた。

幻術か!?

姿形どころか声も、いや雰囲気や気配も変えてたのか。





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