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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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N④

 Nに案内された場所は、比較的原型の残った建物の一室だった。

 4人は、その部屋に用意されていたキャンプ用のイスに腰掛ける。

 その椅子はアイテムの一種で、ダンジョンの中などの野外で休憩するためのものだ。


「ねえ、しぐるん。とーかちゃんは?いないの?」

「残念ながら今は会えないんだ。悪いね、ボクだけで」

「ふーん」


 桃花は、未だにあの塔から出ようとはしない。

 ハートが来たことを知れば出てくるかもしれないが、それを試すのは後でも良いだろうとNは判断していた。


 Nは、ハート以外の3人に目を向ける。

 そのうちの1人には見覚えがあった。


「キミは、確か樹永だったかな?」

「……っス」


 樹永は、自分の名前を知られていることに少し驚いたが、かの自警団の団長補佐であればそんなこともあるだろうと思い、気を取り直す。

 おそらく、()()()()()()()()()()も分かっているのだろうが、ここで追及するつもりはないらしい。


 次にNは、樹永の隣に座る挙動不審な女に視線を向ける。


「そちらのキミは……ひょっとして、エイ?」

「な、ナンノコトデショウカ?ワタシワカラナイ」

「誤魔化さなくて良いよ。今更キミと戦うつもりはない」


 Nはハートとの距離感や立ち振る舞いから、その女性がエイであることを一瞬で見抜いていた。

 滝汗をかいて誤魔化そうとしているエイに、愁眉を開かせるように言う。


「キミの目的は理解している。ハートが戻ってきた以上、キミが自警団と敵対する理由はない。そうだろう?」

「それはそうですけど……」

「とはいえ、自警団の中にはキミに恨みを持つ者もいる。ここにいる間は、さっきの姿でいてもらうけど、いいかい?」

「はい」


 Nにはまったく意味がなかったが、それ以外ならこの姿がエイだと気づく者はいないだろう。

 少なくともこの塔の周辺では、ずっとこの姿でいてもらうことになるだろう。


 そして、Nは唯一記憶にない女性へと目を向ける。


「残ったキミは……」

「リリスと申します。私から、Nさんにお話があるのですが――」



 #



「――話は分かった。こちらも協力しよう」


 Nは、守護者と半獣にまつわる一連の話を聞き、現状を把握した。


「やけにあっさり飲み込みますね」

「前々から予想していたことだからね。そこまでの驚きはないさ」


 この世界が仮想現実などではなく、自分たちの知らない何らかの技術によって成り立っていることは、Nの予想通りであった。

 その予想がリリスの証言によって確定的なものへと変わったことは、まぎれもない前進である。

 しかしここから先、さらに前に進むためには、まだわからないことも多い。

 そのための情報を得ようと、Nはリリスに質問を始める。


「それで、肝心の敵戦力について、何か分かっている情報はあるのかな?」

「戦力に関しては、ハートさんとエイさんが実際に戦ったようですので、そちらを参考にできるかと」

「では、敵の人数や拠点の位置は分かるかい?」

「申し訳ありませんが、分かりません」

「向こうはおそらく守護者たちが作った施設を利用してボクたちにアナウンスをしているのだと思うけど、かつての守護者たちの拠点の場所は知っているかい?」

「すみません。父から教えてもらうほどの時間もなかったもので」

「……敵の目的について心当たりは?」

「分からない、です」


 Nの質問に、リリスは分からないとしか答えられないようだ。

 どことなく落ち込んだ様子のリリスに、エイが慌ててフォローを入れる。


「ま、まあまあNさん。リリスさんはお父さんから話を聞いただけなんですから、全部知ってるわけじゃないのは当然ですよ」

「本当は、父が必要な情報をまとめて、寝起きの私が分かる場所に置いてくれる手筈だったのですが……敵に奪われたのか、そんなことをする余裕がなかったのか、置かれていなかったのです」


 ある程度の覚悟はしていたが、まさか肝心なところが分からないとは。

 敵の位置も分からないのでは動きようがない。

 多少は期待していただけに、Nは肩透かしを食らったような気分になった。


「……それなら、まずはキミがコールドスリープをしていた場所に案内を――」


 Nが話を進めようとした時、部屋の外からドタドタと足音が聞こえてきた。

 足音は部屋の前で止まると、大声で叫ぶ。


「Nさん!少々よろしいでしょうか!?」

「来客中だ。そこで話せ」

「はっ!南方面より敵襲です!」

「モンスターか。数と種類は?」

「いえ、PKです!総勢は百に満たないくらいですが、レベルが高くて……!我々だけでは厳しい相手です!」


 自警団は今、主戦力がいない。

 この塔にいたレベルの高い者は他の塔との連携や周辺の調査のため出払っているのだ。

 それでもモンスター相手ならどうとでもなるはずだったが、まさかPKが集団で攻めてくるとは。

 こんな時に、間が悪いことである。


 Nは、ため息をつきそうになるのを何とか抑えながら、4人のほうへ目を向ける。


「ハート、協力を頼めるかい?……ハートはどこだ?」

「あれ?さっきまでここにいたはずなんですけど……」

「ハートさんなら、話に飽きてどっか行っちゃったっスよ」


 今日は随分おとなしいと思っていたら、いつの間にかどこかに消えていたようだ。

 相変わらずこらえ性のない女である。


「……まあ、ハートなら騒ぎの中を探せば会えるだろう」

「ですね。もしかしたらもう戦い始めちゃってるかもしれません」


 探索者たちの共通認識の1つに"騒ぎの中心にはハートがいる"というものがある。

 ハートはよく問題を起こすし、関係のない面倒ごとにも自分から首を突っ込んで行きもするため、気が付くといつも騒動の中心にいるのだ。


「3人は連絡があるまでここで待っててくれ!」


 エイはこの塔ではアバターを使えないし、他の2人は戦力にカウントできない。

 ゆえにNは、3人を部屋に残して現場へと向かう。


 報告に来た団員に案内を頼み、道中で戦況を確認する。

 それによると、敵とは軽いにらみ合いが続いており、いつ戦闘が始まるのか分からない状況らしかった。


「――Nさん」


 少し進んだところで、後ろから声がかけられる。

 その声にNは驚き、すぐさま後ろを振り返る。

 背後にいたのは、桃花だった。


「トウカ!?もう大丈夫なのかい!?」

「ええ、ご心配をおかけしました」


 桃花は、走りながらも器用に頭を下げる。

 聞くところによると、イリカという団員に敵襲を伝えられ、居ても立っても居られずに塔から飛び出てきたらしい。


「これまで自警団をNさんに任せきりにしてしまい、申し訳ありませんでしたわ」

「いや、いいさ。それがボクの役割だ」

「ありがとうございます。これからは、わたくしも役に立ちますわ」


 部屋にこもっていた時は、もっと暗い声色をしていたものだが、今は普段の調子を取り戻している。

 何があったのかは分からないが、自力で持ち直したようだった。

 Nは、桃花に元気を出してもらうためにあれこれと策を考えていたのだが、それも必要なさそうである。


「そうだ、トウカ。さっきハートとNが来たんだ。あとで会っていきなよ」

「――え?」


 何の気なしに、Nは2人の来訪を告げる。

 しかし桃花はそれに対して、想像だにしない所から攻撃を受けたような、そんな顔をした。

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