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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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エイ⑦

 ハートたちがたどり着いた白き塔。

 その上階には生活スペースが用意されており、数人が住めるようになっていた。

 どういうワケか水道やガスが通っているようで、蛇口をひねれば水が出た。


 そんな生活スペースの中で、風呂場にあたる空間にエイはいた。

 いや、今の彼女をエイと呼ぶのは間違っているのかもしれない。

 一糸まとわぬ姿で湯船につかり、実に100年ぶりの風呂を満喫している彼女は、プレイヤー〈あ〉ではなく、15歳の少女『大槌レイ』その人なのだから。


「ふう……」


 もはや記憶の彼方であった風呂に入るという行為に、レイは感嘆のため息を吐く。


「まさかお風呂に入れる日が来るなんて、思ってなかったな」


 かのゲーム『ロストアドベンチャー』において、風呂に入る機会はほとんどない。

 なにせゲームであるため、汚れることなどなく、入る必要性がないのだ。

 それゆえかゲーム内の建物に風呂はついていなかった。

 一部の好事家のプレイヤーが手作りした風呂ならあったが、汗も垢もない身では水を浴びても気持ちいいとはさほど思えないため、“エイ”が風呂に入ることはなかった。


「けど、やっぱり何なんだろうな。この体」


 数時間前、運営から通達があった。

 しかしその内容は、レイにとっては疑問の多いものだった。


 ――おめでとうございます!塔への到着率が50%を超えました!これより、次のミッションに移ります!


 ――続いてのミッションは【自分の体を守り切れ!】です!


 ――皆さんは、もうご自分の体とは対面しましたでしょうか!?もちろん自分の体ですので、100年前のように自分で動かすことも可能ですよ!


 ――塔に一度でもアクセスした方は、どこかの塔にある自分の体を呼び出すことができます!もうすでに試した人もいるでしょうが、コールドスリープポッドの右側の装置に手を入れると、自分の体とアバターを入れ替えることができますよ!


 ――ただし注意点が1つ!コールドスリープポッドに入れてない間は、ごく普通に生命活動をすることになります!つまりお腹が空きます!あまり長時間の移動はおススメしませんよ!


 ――さて、みなさんにはそんな自分の体を守っていただきます!いったい誰から?と疑問に思っている方もいるでしょう。


 ――かつてベザトに存在した『大監獄』。そこに収容されていた囚人たちを解き放ちました!彼らの目的はプレイヤーのみなさんの身体を破壊することです!


 ――プレイヤーのみなさんは、PKに負けないよう、頑張ってくださいね!


 ――それともう1つ、エクストラミッションのお知らせです!


 ――ただいまメールのほうに送りました地図を見て、目印のある場所へ向かってください!そして、そこにいるある人物を殺してください!クリア報酬として、豪華な景品もご用意しておりますよ!


 ――それではみなさん、よいゲームライフを!


『ロストアドベンチャー』において、運営がプレイヤーに直接関与してくることはほとんどなかった。

 せいぜい、最初のチュートリアルと初期のスタートイベントの時くらいか。

 だというのに、こちらの世界に来てからはやけに運営の声を聞いている。

 方針が変わったのだろうか?


 そしてそのミッションの内容も意味が解らない。

 仮に大監獄の中の囚人が解き放たれたとして、どうして彼らが他のプレイヤーを襲うのだろうか。

 ラスボスが倒された以上、無理に経験値を稼ぐ必要はなく、わざわざ敵を増やすようなことをするはずがない。

 第一、プレイヤー同士を争わせて運営になんの得があるというのか。


 それにもう一つのミッションも問題だ。

 そこにいるのは誰なのか、殺せというのはどういうことか、報酬とは何なのか、分からないことだらけだ。


「……ダメだ。のぼせてきちゃった」


 風呂に入るのが久しぶりのせいか、長く入りすぎたらしい。

 こういうクラクラする感覚も久しぶりだな、なんてことを考えながら、レイは浴槽から出た。



 ♯



 少女は、手のひらに収まるほどの大きさの棒状の機械を握りしめ、側面のスイッチを押す。

 すると、その姿が一瞬のうちに変化し、そして現れたのは喜永だった。


「なるほど……つまりこれは、一種の転移装置ってわけっスか」


 樹永が手にしている装置は、箱の側面に取り付けられていたものだ。

 どうやらあの箱には転移装置も組み込まれているらしく、プレイヤーが作動すると、箱の中に自分の肉体が転移してくる。

 さらに、樹永が持つ機械は子機のようなものであり、自身の肉体とアバターとを瞬時に入れ替えることができる。

 ただし、アバターに関しては箱に収まることはなく、どこかへと消えてしまう。


「しかし、これだけ調べても向こうの意図が全く見えてこないっスね」


 この塔に関してはあらかた調べ終えたが、運営の情報につながりそうなものは全くと言っていいほどつかめなかった。

 というか、あまりにもオーバーテクノロジー過ぎて理解できないことも多い。

 こんな状態では、運営の全貌など見えてくるはずもなかった。


 とはいえ、情報が足りてない中で頭を悩ませても仕方がない。

 樹永は気持ちを切り替えて次のことに意識を向ける。

 まずは、この後にどこに向かうのかを決めなければならない。


 樹永はハートを探して外に出た。

 たしか散歩をすると言って出かけたはずだった。


 塔の外に出ると、すぐ目の前にハートが背を向けて立っていた。

 ちょうどいいと樹永は話しかける。


「ハートさん。次に向かう場所なんスけど――」


 しかし、その言葉はすぐに止まることとなる。

 ハートの視線の先に、ある人物が立っていることに気が付いたからだ。

 その人物は、小柄なハートよりもなお小さかったが、どんな巨大なモンスターよりも恐ろしかった。


「――この塔で、クソ強えやつがプレイヤーを狩ってるって聞いたんだが、てめえのことか?なあ、ハート」


 かつて最強と謳われた少女、みゆきが怒気を発しながらハートを睨みつけていた。

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