第一部室棟へ
第一部室棟。
文立学園大学の校内にある綺麗な部室棟だ。4階建てであり、この第一部室棟には優秀な成績を収めた部活や優良なサークルの部室が入っている。
《軽音サークル》も第一部室棟に部室を持つ。
「相変わらず綺麗っスね。第一部室棟は」
「あぁ。この建物を見るたびに、私たちがいる第二部室棟が馬小屋に見えてきて悲しいよ・・・」
第一部室棟前で肩を落とす《探偵サークル》の2人。
「って、そんか事を言ってる場合じゃねー! さっさと軽音サークルに話し聞きに行くぞ!」
「そっすね! さっさと行きましょう!」
足立と田中は、第一部室棟に足を踏み入れる。
綺麗で広々としたエントランスが2人を出迎えた。
「うぉ・・・中も綺麗スね」
「あぁ・・・第二部室棟のエントランスなんか床が抜けてるのにな・・・」
「先輩。あの床そろそろ直しません? 敵が攻めてきた時用のトラップって言うの、本当に限界ですよ」
エントランス奥には、部室棟内の案内図があった。第一部室棟はアルファベットの『H』の形をしており、それぞれ西棟、東棟で別れていた。
案内図によると《軽音サークル》は1階の西棟にあるようだ。
「ちょ、、、見てください先輩! この建物、シャワー室にマッサージ室、それに軽食が食べれるフードコートみたいな場所もあるみたいスよ!」
「まじか! 住めるじゃんここ!」
「それに、全室床暖房完備。すごい設備ですね!」
「いいな〜。もう私ここに住み着きたい。第二部室棟は底冷えするから、夜寝る時大変なんだよなー。シャワー室もないし・・・」
足立はそう口にしながら《軽音サークル》の部室の方へ足を進める。田中も黙って彼女の後に続いた。
数歩ほど歩いた後に、不意に田中の脳裏にある疑問が浮かぶ。
ーーーえ!? 先輩、第二部室棟にすんでんの!?
「・・・」
尋ねようかと思ったが、言葉がつっかえて出てこない。
確か少し前に、家賃を払えず部屋を追い出されそうと言っていたが、、、。
あの時は、冗談かと思い笑って返したが、、、まさか。
「まさかな・・・」
「ん? どした〜田中?」
ぽつり、と呟いた田中の言葉に、足立が耳ざとく反応してきた。
「いえ、なんでもないです・・・」
口早にそう言って会話を強制シャットダウンする。
足立は訝しげな顔をしたが、すぐに「そか」と言って前を向き直ってくれた。
ほっ、とする田中。
まさか、大学内に住み着いたりはしていないはず。
そう考える田中だが、足立のボサボサの頭に小汚いスエットの上下を目にするあたり、本当にもしかするかもしれない。
「・・・」
そうこうしているうちに、軽音サークルの部室についた足立と田中。
部室の中から話し声が聞こえてきたので、在室しているのがわかった。
田中は扉をノックすると、中から「どうぞ」と帰ってきたのでーーー、
「失礼しまーす」
と挨拶をして部室にお邪魔する。
入室した足立と田中に軽音サークルの視線が集まる。部室にいたのは5人。
「えっと・・・どちらさん? 入部希望者では・・・ないですよね?」
軽音サークルの1人が怪訝な目で尋ねてきた。
「あーと・・・警戒せずに聞いて欲しいんですけど、僕たちは《探偵サークル》と言いまして・・・」
《探偵サークル》という単語を聞いた瞬間、軽音サークルの部員たちが騒ついた。
「あーっと、本当に警戒しないでください! 僕たちはアナタたちを、どうこうしようって訳ではなく、少し話を聞きたいだけなんです!」
「話し・・・? 一体なんの話ですか?」
警戒しながらも、落ち着いて田中の話を聞いてくれる軽音サークル。どうやら演劇部のように、追い出されるような事にならず安心した。
「先輩」
「ん! あぁ」
田中は、足立に会話の主権をゆずる。
足立は、「突然押しかけて申し訳ないね」と前置きをして本題に入る。
「私たちは今、禿げ・・・じゃない、初代学長像破壊事件の捜査をしていまして。あなた方がその事件現場を目撃されたと聞いて、話を聞きにきたんですよ」
「えっ? でもそれって解決しましたよね? 確か、俺たち学生課に目撃した犯人を伝えましたよ?」
「えぇ、まぁ。でも、少し気になるところがありまして・・・。よければ私たちにも教えて貰えないですかね? 目撃された事件の詳細を」
サークルメンバーたちは、顔を見合わせる。
正直、面倒といった風だ。
まぁ確かに、解決した事件の詳細を聞かれるのは面倒この上ないだろう。もしかしたら、野次馬根性的なもので聞きにこられた、と思われたのかもしれないし。
そのため、サークルメンバーたちは煩わしそうに嘆息をひとつ吐いた後ーーー、
「1回だけですよ」
そういって事件を目撃した時の詳細を話し始めてくれた。




