第九十一話 残忍な女帝
「コーデリア……」
ついに、コーデリアと対面したヴィオレット達。
特に、ヴィオレットは、憎悪を抱いているようだ。
自分達を陥れた元凶の一人なのだから。
それでも、怒りを抑えている。
怒りに駆られて、コーデリアを殺しにかかれば、逆に、コーデリアに殺されてしまうからだ。
ヴィオレットは、冷静さを装って、静かに、コーデリアをにらんでいた。
「アマリア、貴方は、どうして、私をにらんでいるの?何か、怒らせるようなことをしたのかしら?」
「……」
コーデリアは、アマリアに問いかける。
理解できないようだ。
なぜ、アマリアは、自分をにらんでいるのか。
ルチア達の運命を狂わせたと、微塵も、思っていないのだろう。
無邪気に問いかけるコーデリアに対して、アマリアは、黙っていた。
答える気にもなれず。
「カイリ、やっぱり、生きていたのね。そう、思ってたのよ」
「……」
コーデリアは、カイリへと視線を移す。
弟のカイリと再会を果たせたことを喜んでいるようだ。
それも、異常なまでに。
確かに、カイリは、行方不明になっていた。
それは、コーデリアが、仕組んだ罠だ。
母を殺したカイリを陥れる為に。
コーデリアは、何を企んでいるのだろうか。
思考を巡らせるカイリであったが、見当もつかず、警戒していた。
「ヴィオレット、貴方に、聞きたいことがあるわ」
「……」
コーデリアは、ヴィオレットへと視線を移す。
それも、妖艶な笑みを浮かべて。
先ほどまで、少女のように無邪気であったというのに。
コーデリアは、本性を現したかのようだ。
それでも、ヴィオレットは、冷静さを装って、コーデリアをにらんでいた。
「ルチアを殺した気分は、いかがかしら?」
「っ!!」
コーデリアは、ヴィオレットを煽る。
ヴィオレットが、怒りを爆発させるとわかっていながら。
ついに、ヴィオレットは、耐え切れず、目を見開き、コーデリアに向かっていこうとする。
だが、その時であった。
カイリが、コーデリアに向かって、短剣を投げつけたのは。
コーデリアは、舞うように、短剣をよけた。
それも、微笑みながら。
「貴方から、先に、殺しにかかるとは思ってなかったわ。カイリ」
コーデリアは、殺されかけたというのに、笑みを浮かべている。
と言っても、予想外だったようだ。
ヴィオレットよりも、先に、カイリが、殺しにかかるとは、思ってもみなかったのであろう。
カイリは、ただ、静かに、コーデリアをにらんでいる。
その瞳に、憎悪を宿しながら。
「ひどいわね。貴方の事を生かしておいてあげたのに」
「どういう意味だ?」
コーデリアが、意味深な発言をする。
なんと、カイリが、牢から脱出できたのは、意図的なもののようだ。
カイリは、ぴくりと、眉を動かし、問いただす。
コーデリアは、何を企んでいるのだろうかと。
「確かに、私は、魔神を復活させようとしていたわ。お母様の意思を引き継いでね」
コーデリアは、静かに、語り始める。
魔神を復活させようとしていたのは、自分の願いであったのだ。
叶えられず、カイリに殺された母親の意思を引き継いで。
だからなんだというのだろうか。
ヴィオレット達には、なぜ、そのような話をし始めたのか、理解できなかった。
「そのためには、ヴァルキュリアの魂とアマリアの命、そして、貴方が、必要だったのよ」
「私が?」
「ええ」
魔神を復活させるためには、神の力と融合したヴァルキュリアの魂、聖なる力をその身に宿したアマリアの命が、必要であった。
だが、それだけは、足りないらしい。
なんと、カイリも、必要だったという。
カイリは、驚き、困惑した。
まだ、見当もつかないのであろう。
コーデリアは、何をしようとしているのか。
「魔神を復活させても、制御しなければならないでしょ?だから、器が欲しかったのよ」
「まさか、私は……」
「そう、魔神の器として、生かしておいたのよ。貴方の力は、魔神に近いから」
魔神を復活させても、力を手に入れるには、制御しなければならない。
ゆえに、魔神の器が必要だったのだ。
カイリは、魔神の力と近い力をその身に宿しているらしい。
悪夢の力が、まさに、そうなのであろう。
ゆえに、コーデリアは、カイリが、死亡したと偽装しなかった。
カイリを生かしたうえで、捕らえさせるために。
「でも、ヴィオレットの魂は、不完全だった。だから、殺させたの。ヴァルキュリア達を」
「貴様!!」
あと一人の魂を捧げれば、魔神は、復活する予定だった。
ヴィオレットの魂は、まだ、不完全であり、復活には、ほど遠い。
他のヴァルキュリア達も、まだ、不完全であった。
だからこそ、コーデリアは、ヴァルキュリア同士で、殺し合いをさせたのだ。
ヴィオレットは、怒りをぶつける。
全て、コーデリアの掌の上で、転がされていたようで、我慢ならなかったのだろう。
「いいじゃない。強制じゃないもの。貴方は、自分の意思で、殺したんでしょ?」
「……」
確かに、ヴィオレットは、自分の意思で、ヴァルキュリアを殺した。
コーデリアに、操られていたわけではない。
はめられたわけでもない。
だが、怒りは、抑えきれなかった。
コーデリアの思惑通りに、進んでいたのだから。
「コーデリア、貴方は、彼女達をなんだと思ってるんですか!!ヴィオレット達は、貴方の道具じゃない!!」
アマリアは、コーデリアに怒りをぶつける。
耐えられなかったのだろう。
ヴィオレット達は、今まで、帝国を信じて、コーデリア達を信じて、命を賭して、戦ってきたのだ。
帝国を、世界を守るために。
だというのに、ヴィオレット達を、コーデリアは、道具扱いしていた。
アマリアは、それが、許せなかったのだ。
どうしても。
「ずいぶんと、吼えるのね。箱入り娘のくせに」
「……」
「私の大事なカイリを奪っておいて、何様のつもり?」
コーデリアは、初めて、怒りを露わにする。
アマリアに、責められ、感情を抑えきれなくなったのだろう。
どうやら、アマリアの事を恨んでいるようだ。
コーデリアは、知っていた。
カイリとアマリアが、愛し合っている事を。
お互い、想いを告げる事はなかったが。
コーデリアも、カイリの事を愛していたのだ。
弟としてではなく、一人の男性として。
アマリアに取られた気がして、許せなかったのだろう。
ゆえに、コーデリアは、アマリアをにらんだ。
「私は、貴方のものになったつもりはない」
「あら、残念」
カイリは、きっぱりと、言い放つ。
コーデリアのものではないと。
冷たく突き放されたというのに、コーデリアは、微笑んでいた。
妖艶に。
「まぁ、いいわ。魔神さえ、復活してしまえば、こちらのものですもの。世界を手に入れたも同然よ」
カイリの想いなど、コーデリアにとっては、どうでもいい事のようだ。
なぜなら、魔神さえ、復活してしまえば、いいのだ。
カイリを、魔神の器とさせられる。
それは、カイリを手に入れたも同然だ。
同時に、世界を手に入れることもできると、コーデリアは、推測している。
「まぁ、アライアは、自分が、魔神の力を手に入れるつもりみたいだけど」
魔神復活を計画していたのは、コーデリアと母親だけではない。
アライアも、計画に加担していたのだ。
彼女は、研究者であり、ヴァルキュリアを不死身にさせたのも、彼女の研究によるものだ。
魔神を復活させる方法も、彼女が、導きだした。
アライアは、自分こそが、魔神の力を手に入れようとしていた。
コーデリアも、母親も、彼女の思惑を見抜いていながら、アライアの計画に賛同したのだ。
アライアさえも、利用しようとしたのだろう。
「だから……こっちへいらっしゃい」
コーデリアは、手を伸ばす。
まるで、ヴィオレット達を招き入れるかのように。
彼女の笑みは、恐ろしく、妖艶だ。
世界を手に入れるためならば、なんだってするのだろう。
幾人の命を切り捨てでも、道具扱いしてでも。
「断る」
ヴィオレットは、コーデリアの懇願を拒否する。
そして、鎌を振り回し、構えた。
カイリも、アマリアも、構える。
もう、話しても、無駄だと思っているのだろうか。
「私は、お前を殺す」
「あら、英雄に出もなるつもりなのかしら?」
ヴィオレットは、断言した。
コーデリアに向かって。
コーデリアは、自分を殺せば、魔神復活を阻止できる。
それは、英雄にもなれるという事だ。
そう推測したコーデリアは、ヴィオレットに問いかける。
だが、ヴィオレットは、静かに、首を横に振った。
「違うな。私は、多くの人間や精霊を殺した。ルチアも、カレン達も、殺した。お前を殺したところで、自分の罪が、消えるわけではない。償えるわけではない」
ヴィオレットは、英雄になるつもりなど、毛頭なかった。
なぜなら、ヴィオレットは、多くの命を奪ってきたからだ。
たとえ、帝国の民が、死人同然であっても。
彼らだけではない。
ヴィオレットは、ルチアも、カレン達も、殺したのだ。
共に戦ってきた仲間をその手にかけた。
今更、罪を償えるわけではない。
コーデリアを殺しても、罪は、消えない。
ヴィオレットは、理解していたのだ。
自分が、血に濡れた罪人である事を。
「だからこそ……」
ヴィオレットは、鎌を握りしめた。
まるで、覚悟を決めたかのように。
「世界を壊して、私は死ぬ」
ヴィオレットは、決意を固めていた。
二年前、ルチアを殺し、全てを知ったあの日から。
コーデリアと帝国の民の世界である帝国を滅ぼし、全てが、終わった後、ヴィオレットは、自ら、命を絶とうと。




