第八十九話 もう一度、殺す
コーデリアは、魔剣の前に立っている。
決して、触れようとはしなかった。
まるで、ヴィオレット達を待っているようだ。
「ふふふ、そう簡単には、殺させないわ」
コーデリアは、一人、笑みを浮かべる。
やはり、コーデリアは、知っているようだ。
ヴィオレット達が、今、どこにいて、何をしているのか。
おそらく、ルチアが、妖魔になったのも、コーデリアが、仕掛けた罠なのであろう。
そうとも、知らないルチアは、ヴィオレット達の前に現れ、妖魔となってしまったようだ。
「さあ、どうするのかしら?ヴィオレット」
コーデリアは、待ちわびていた。
ヴィオレットは、どうするのか。
ルチアを殺せるのか、それとも、殺されるのか。
ヴィオレットは、呆然と立ち尽くしていた。
状況を把握できていないようだ。
「まさか、ルチアが、妖魔に……?」
ヴィオレットは、愕然としている。
考えることも、したくないのだ。
信じたくないのであろう。
ルチアが、妖魔になったなどと。
「う、うう……」
ルチアは、ただ、唸り声を上げて、ヴィオレット達をにらんでいる。
まるで、ヴィオレット達を敵とみなしているかのようだ。
暴走しているのかもしれない。
もう、すでに。
「おおおおおおおっ!!!」
ルチアは、雄たけびを上げた。
それだけで、音圧で、押されかけそうだ。
まがまがしい力も、放たれている。
ヴィオレット達は、すでに、ルチアに押されかけていた。
「これは、まずいぞ……」
「ルチア……」
カイリも、危機感を感じているかのようだ。
今のルチアの姿を目にして。
アマリアも、ルチアを心配している。
このままでは、ルチアが、暴走したまま、ヴィオレットを殺すのではないかと。
そうさせないために、カイリとアマリアは、構えた。
だが、その時であった。
ルチアが、アマリアに迫ったのは。
それも、一瞬にして。
アマリアも、カイリも、反応できず、ルチアは、魔法・エビル・ブロッサムを発動した。
「きゃっ!!」
「アマリア!!」
アマリアは、すぐさま、固有技・ホーリー・プロテクトを発動する。
危機を感じたのだろう。
無意識のうちに、発動したのだ。
ゆえに、ルチアの魔法は、はじかれたが、衝撃を受け、アマリアは、吹き飛ばされてしまった。
「ヴァルキュリアが、妖魔になると、こうなってしまうのか……」
ヴィオレットは、衝撃を受けていた。
ヴァルキュリアが、妖魔に転じてしまうと、威力が、増すのだ。
他の妖魔達とは違って。
それゆえに、アマリアが、発動した聖なる盾を吹き飛ばすかのような衝撃を生み出した。
ルチアを殺すのは、至難の業のように、思えてならなかった。
「ヴィオレット、アマリアを頼む!!」
「待て!!カイリ!!」
カイリは、アマリアの事をヴィオレットに託し、ルチアの方へと向かっていく。
ルチアを止めるためであろう。
だが、ヴィオレットは、カイリを止めようとした。
うかつに近づけば、殺される可能性があるからだ。
固有技・ナイトメア・キルを発動するカイリ。
だが、ルチアは、カイリの固有技をいとも簡単に、回避し、魔技・ディザスター・ブロッサムを発動。
カイリは、回避するが、よけきれず、刃と化した華のオーラが、カイリの腕を切り裂いた。
「ぐっ!!」
カイリは、苦悶の表情を浮かべるが、はを食いしばって、体勢を整えた。
それでも、ルチアは、冷酷な表情で、ヴィオレット達を見ている。
もはや、ヴィオレット達の事を敵視しているように思えてならなかった。
「ルチア……」
ヴィオレットは、歯を食いしばる。
耐えられないのだろう。
狂ってしまったルチアを見るのは。
「お前は、私が、殺す!!」
ヴィオレットは、鎌を握りしめ、ルチアに向かっていく。
固有技を発動して、ルチアを殺すために。
固有技・チャロアイト・ライトニングを発動するヴィオレット。
だが、ルチアは、素手で、宝石の刃をつかんだ。
「なっ!!」
「む、だ、だ」
ヴィオレットは、あっけにとられる。
その直後、ルチアは、唇を動かした。
それも、ヴィオレットに聞こえる声で。
ルチアは、魔法・エビル・ブロッサムと魔技・ディザスター・ブロッサムを同時に発動した。
「ぐあああああっ!!」
「ヴィオレット!!」
まがまがしい力は、刃と化し、渦となり、ヴィオレットの体を切り刻む。
ヴィオレットは、雄たけびを上げながら、血を流して、吹き飛ばされた。
彼女を目にしたアマリアは、目を見開き、思わず、叫んだ。
「う……」
ヴィオレットは、床にたたきつけられ、仰向けになって、倒れる。
起き上がることさえできないようだ。
それでも、ルチアは、ヴィオレットに迫った。
それも、容赦なく。
だが、その時であった。
「待ってください!!ルチア!!」
「あ、アマリア……」
アマリアが、ルチアの前に立ち、両手を広げる。
ヴィオレットを守るかのように。
ヴィオレットは、起き上がることもできず、ただ、アマリアを見ていることしかできなかった。
「お願いです!!正気に戻ってください!!」
アマリアは、懇願する。
ルチアに、元に戻ってほしいのだ。
妖魔のままでは、ルチアも、ヴィオレットも、傷ついてしまう。
ゆえに、アマリアは、固有技を発動して、浄化を試みた。
だが、それは、叶わなくなった。
「ぎゃあああああっ!」
突如、ルチアが、叫ぶ。
狂ったかのように。
聖なる力を感じて、拒絶しているかのようだ。
ルチアは、そのまま、アマリアに、襲い掛かった。
暴走しながら。
だが、カイリが、短剣で、ルチアの胸を刺す。
心臓を直接刺したのだ。
「っ!!」
「カイリ!!」
ルチアは、痛みを感じたのか、目を見開く。
だが、カイリは、決して、短剣を引き抜こうとしない。
このまま、ルチアを殺すつもりなのだろう。
アマリアが、カイリの身を案じた。
カイリが、殺されてしまうのではないかと、不安に駆られて。
「アマリア、ヴィオレットを連れて、逃げろ!!」
「え?」
カイリは、アマリアに託す。
ここから、逃げるようにと。
アマリアも、驚きを隠せない。
カイリは、何をするつもりなのだろうか。
「もう、ルチアは、元に戻らない。殺すしかないんだ!!」
カイリは、悟っていた。
ルチアを元に戻す事は、不可能なのだ。
たとえ、アマリアでさえも。
妖魔になった者が、元に戻ったケースはない。
アマリアの力でも、元に戻すことはできない事は、カイリは、わかっていた。
ゆえに、殺すしかないと、決意を固めたのだ。
ヴィオレットに、変わって、自分が。
「なら、私が……」
「駄目だ!!」
「なぜだ!!」
ヴィオレットは、起き上がる。
歯を食いしばって。
激痛に耐えようとしているのだろう。
自分が、ルチアを殺すと、決意を固めているから。
だが、カイリは、それを拒んだ。
なぜ、拒むのだろうか。
ヴィオレットは、見当もつかず、声を荒げて、カイリに問いただした。
「……心が、壊れかけているからだ」
カイリは、静かに、答える。
ヴィオレットの心情を悟っているかのようだ。
答えを聞いたヴィオレットは、目を見開いた。
信じられないと言わんばかりに。
「それは、先ほど私が言った言葉だろ?」
「そうだ」
カイリの言葉は、先ほど、カイリに向けていった言葉と全く同じだ。
カイリが、クロスとクロウを殺そうとした時に。
同じ覚悟を抱いているからこそ、カイリは、気付いていたのだ。
ヴィオレットの心情を。
もし、もう一度、ルチアを殺してしまったら、ヴィオレットは、どうなってしまうのか。
だが、ルチアは、まがまがしい力を発動して、カイリの体を蝕み始めた。
「ぐああああっ!!」
「カイリ!!」
カイリは、絶叫を上げる。
それでも、短剣を抜こうとしなかった。
ルチアをこのまま、殺すつもりだ。
だが、それも、叶わず、ルチアは、強引に、短剣を引き抜き、カイリを突き飛ばした。
「うう……」
カイリは、仰向けになって、倒れる。
重傷を負ってしまったのだろう。
ルチアは、容赦なく、カイリを殺そうとした。
だが、その時であった。
ヴィオレットは、歯を食いしばり、鎌で、ルチアを切り裂いたのは。
「ぎぃああああああっ!!」
「ヴィオレット……」
血しぶきを上げ、絶叫するルチア。
アマリアは、ヴィオレットを見ていた。
心配そうに。
アマリアも、心配しているのだ。
ヴィオレットの心が、壊れないかと。
「アマリア、カイリを頼む」
「駄目だ……」
ヴィオレットは、カイリの事をアマリアに託す。
カイリは、ヴィオレットを止めようと、起き上がり、手を伸ばした。
だが、ヴィオレットは、カイリから遠ざかり、ルチアに、迫った。
体を斬られたルチア。
傷は、癒え始めたが、まだ、完全ではない。
殺すなら、今しかなかった。
「ルチア、ごめん」
ヴィオレットは、ルチアに、謝罪しながら、鎌を振り回す。
丸で、覚悟を決めたかのように。
「今、殺すから!!」
ヴィオレットは、涙を流しながら、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動した。
ルチアに向かって。




