第八十三話 キウス兵長の狂気
キウス兵長は、構えたままだ。
隙を見せない。
さすがと言ったところであろう。
ヴィオレット達も、構えた。
いつでも、襲撃に耐えられるように。
「まさか、カイリ様が、こちらに、お戻りになられるとは」
「勘違いするなよ。私は、お前達を殺しに来た暗殺者だ」
「そうでしたか。まぁ、どちらでも、構いませんけど」
キウスは、カイリに声をかける。
以前、カイリに仕えていた事もあるからであろう。
王宮エリアを追放され、行方不明となっていたが、カイリであったが、まさか、カイリが、戻ってくるとは、予想もしていなかったようだ。
だが、カイリは、皇子として戻ってきたわけではない。
帝国を滅ぼす暗殺者として戻ってきたのだ。
その事を聞かされたキウス兵長は、残念がる事はなかった。
どちらでもよかったのだ。
なぜなら、カイリを殺すつもりでここに立っているのだから。
「アマリア様、なぜ、そちらにいらっしゃるのです?まさか、この者たちの仲間になったなどと、言いませんよね?」
「その通りですよ。私達は、ヴィオレット達の仲間になりました」
キウス兵長は、理解できない事があったようだ。
それは、アマリアが、この場にいる事。
しかも、ロッドを手にして、構えている。
自分を殺そうとしているかのようだ。
そう見えたがために、キウス兵長は、アマリアに問いかけた。
本当に、ヴィオレット達の仲間になってしまったのかと。
アマリアは、堂々と答えた。
今は、ヴィオレット達の仲間として、ここに立っているのだと。
「つまり、この帝国を滅ぼすと?」
「はい」
「私を殺すと?」
「はい」
アマリアの意思を聞いたキウスは、問いかける。
帝国も、自分も、滅ぼすつもりなのかと。
アマリアは、堂々と、うなずいた。
容赦はしない。
帝国を滅ぼすという事は、キウス兵長も、コーデリアも、殺すつもりなのだ。
それを知ったキウス兵長は、嘆いていた。
アマリアは、変わってしまったと。
「貴方が、たぶらかしたのですか?ヴィオレット様」
「いいや。アマリアの意思でここに来ている」
「そうですか……」
キウス兵長は、信じられないようだ。
アマリアが、自分の意思で、この場にいるなどと。
ゆえに、ヴィオレットに問いかけた。
ヴィオレットが、アマリアをたぶらかしたのではないかと。
だが、ヴィオレットは、首を横に振った。
アマリアは、自分の意思で、この場にいるのだと。
キウス兵長は、さらに、嘆いた。
アマリアの意思であること言う事は、帝国の真実を知ったがゆえのことなのだろうと、悟って。
「それは、残念でなりません」
キウス兵長は、うつむく。
予想もしていなかったのだろう。
ヴィオレット達が、襲撃しに来るとは。
アマリアが、自分の意思で、キウス兵長を殺しに来たとは。
だが、この事実を受け入れるしかなかった。
「申し訳ございませんが、ここで、死んでもらいましょう」
「死ぬのは、お前だ!!キウス!!」
キウス兵長は、改めて、ヴィオレット達をにらむ。
まるで、殺意を抱いているようだ。
カイリは、声を荒げた。
共に過ごした彼と、決別するかのように。
キウス兵長は、床を蹴る。
同時に、ヴィオレットとカイリも、床を蹴った。
「はああっ!!」
ヴィオレットが、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。
だが、キウス兵長も、魔技・スパーク・ブレイドを発動した。
彼の属性は、雷のようだ。
雷の刃がぶつかり合い、相殺する。
だが、続けて、カイリが、固有技・ナイトメア・キルを発動する。
一瞬にして、殺そうとしているようだ。
だが、キウス兵長は、すぐさま、回避し、魔法・スパーク・スパイラルをカイリに向けて、発動した。
キウス兵長は、数少ない精霊人の一人だったのだ。
ゆえに、魔法も、魔技も、発動できた。
「ちっ!!」
固有技が、不発に終わり、カイリは、舌打ちをしながら、回避する。
だが、魔法は、カイリに迫ってきていた。
ここで、アマリアは、固有技・ホーリー・プロテクトを発動。
聖なる盾が、カイリを救ったのだ。
ヴィオレットは、鎌をキウス兵長に、振り下ろすが、キウス兵長は、剣で、薙ぎ払い、鎌を弾き飛ばしてしまう。
そのため、ヴィオレットは、バランスを崩しかけるが、後退しながら、体勢を整え、キウス兵長と距離を取った。
「やはり、強いな」
「ああ、さすがと言ったところだ」
ヴィオレットは、舌を巻く。
それは、カイリも、同様にだ。
キウス兵長を追い詰めることができないからだ。
当然と言えば、当然であろう。
キウス兵長は、皇族を守ってきた。
身を挺して。
それほどの実力があるのだ。
いくら、三人がかりで、キウス兵長に斬りかかっても、殺すのは、至難の業だとヴィオレット達は、悟った。
「だが、私達も、負けるつもりはない!!」
ヴィオレットは、鎌を振り回す。
ここで、キウス兵長を殺せないのであれば、コーデリアも、殺すことなど、不可能に等しいからだ。
ゆえに、ヴィオレットは、あきらめるつもりはなかった。
ヴィオレットは、床を蹴り、キウス兵長に迫っていく。
続けて、カイリも、キウス兵長に迫った。
「はっ!!」
「せいっ!!」
ヴィオレットは、魔法・スパーク・ショットを発動する。
だが、キウス兵長も、同様に、魔法・スパーク・ショットを発動した。
ヴィオレットの魔法を相殺する為に。
すると、カイリが、固有技・ナイトメア・カースを発動する。
悪夢の中に閉じ込め、呪いをかけるためだ。
少しずつ、キウス兵長の体力を奪うつもりなのだろう。
「無駄です!!」
キウス兵長は、いとも簡単に、カイリの固有技を回避しようとする。
追い詰める事は、至難の業のようだ。
かのように、二人は、思えてならなかった。
その時であった。
「やあっ!!」
「何!?」
ここで、アマリアが、ロッドで殴りかかろうとする。
ヴィオレットやカイリよりも、力は弱い。
だが、アマリアは、守られるばかりでは、キウス兵長を殺せないと悟ったのだろう。
これには、キウス兵長も、驚きを隠せない。
彼にとっても、予想外だったのだ。
そのため、隙が生まれた。
ヴィオレットも、カイリも、隙を逃すはずもなく、キウス兵長に斬りかかる。
キウス兵長は、回避しきれず、ヴィオレットの鎌とカイリの短剣に体を斬られた。
「ぐあっ!!」
キウス兵長は、苦悶の表情を浮かべながら、うめき声を上げる。
だが、ここで、終わるわけにはいかない。
ヴィオレットは、魔技・スパーク・インパクトを発動。
キウス兵長は、爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされた。
続けて、カイリが、固有技・ナイトメア・カースを発動する。
キウス兵長は、呪いにかかり、徐々に、体力を奪われてしまう。
もはや、追い詰められたも同然であった。
「そろそろ、死んでもらおうか」
ヴィオレットは、鎌をキウス兵長に向ける。
止めを刺そうとしているのだろう。
傷を負い、呪いをかけられた。
もう、キウス兵長は、思うように動けないはずだ。
ゆえに、ヴィオレットは、止めを刺そうとしていた。
その時であった。
「くくくくっ」
「何がおかしい」
キウス兵長は、笑い始める。
それも、薄気味悪く。
ヴィオレットは、嫌な予感がして、問いただした。
「残念でございますなぁ。あなた方と、戦わなければならないと思うと……」
キウス兵長は、ゆっくりと起き上がる。
それも、不気味な笑みを浮かべたままで。
一体、何をしようと言うのだろうか。
あれほどのダメージを受けて、まだ、立ち上がれることも、違和感でしかない。
ヴィオレット達は、キウス兵長を警戒した。
「本当にぃいいいいいっ!!」
キウス兵長は、天を仰いで、叫ぶ。
まるで、狂ったかのように。
「カイリ、こいつ……」
「わかっている。様子がおかしい……」
ヴィオレットも、カイリも、キウス兵長の異変に気付いている。
故に、うかつに近づくこともできない。
アマリアは、怯えながらも、警戒していた。
「私は、わたしはああああっ!!」
キウス兵長は、叫び始めた。
しかも、まがまがしい力を発動して。
そのまがまがしい力は、ヴィオレット達を押しつぶそうとしており、ヴィオレット達は、思うように動けなかった。
「あああああっ!!」
「この感じ……まさか……」
まがまがしい力に覆われたキウス兵長は、狂ったように叫んだ。
彼の様子をうかがっていたアマリアは、悟ってしまう。
キウス兵長の身に何が起こったのか。
だが、止めれるはずもなく、まがまがしい力は、消え去り、静かに、キウス兵長が、ヴィオレット達の前に姿を現した。
「そ、そんな……こんなことになるなんて……」
アマリアは、愕然としている。
想像もしていなかったようだ。
今のキウス兵長の姿を見て。
信じられないのだろう。
「まさか、帝国で、妖魔が、出現するとはな……」
「ああ……」
ヴィオレットは、思わず、舌を巻く。
それは、カイリも、同様だ。
なぜなら、キウス兵長は、妖魔へと変貌を遂げていた。
帝国では、出現しなかったあの妖魔が。