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第七十二話 ラストの復讐

 ヴィオレットとアマリアにとって、衝撃的な展開となってしまった。

 カレンを殺し、結界を解いた。

 これで、帝国を滅ぼせる。

 ヴィオレットは、そう信じていたのだ。

 だが、突然、ラストが、裏切った。

 クライド達を味方にして。

 ヴィオレットとアマリアは、クライドの屋敷に連れていかれ、部屋に閉じ込められた。

 なぜかは、不明だが、アマリアとは、同じ部屋に入れられたのだ。

 一体、どういう意図があるのだろうか。

 ヴィオレットも、アマリアも、見当がつかなかった。

 


 あたりが、暗くなり、夜になると、ラストは、ソファーに座り、ワインを飲んでいる。

 それも、とても高価なワインだ。

 クライドが、直々に仕入れたらしい。

 ラストは、上機嫌で、ワインを飲み始めた。


「どうよ?二人の様子は」


「おとなしくしている」


「そっか」


 ラストは、クライドに尋ねる。

 ヴィオレットとアマリアが、どうしているか、気になっているようだ。

 クライド曰く、部屋でおとなしくしているらしい。

 アマリアはなんとなく、想像がつくが、ヴィオレットは、想像がつかない。

 本当に、大人しくしているのだろうか。

 疑問を抱くラストであったが、クライドに尋ねることなく、ワインを飲み干しながら、返答した。


「地上は、どうなってんだろうな」


「さあな。今頃、騒いでいるんじゃないか?」


「かもしれないな」


 クライドは、地上の方が気になっているようだ。

 結界が解かれ、帝国は、姿を現した。

 エデニア諸島の民は、今頃、騒ぎ立てているだろう。

 アトワナの話によると、島々を支配していた帝国が、撤退したという。

 残りは、ルーニ島だけらしいが。

 どうやら、海賊が、帝国と対峙し、追い払ったという。

 アトワナは、エデニア諸島の様子も、探っていたようだ。

 どうやってかは、不明だが。

 帝国が姿を現したとなれば、海賊は、動き始めるだろう。

 彼らを利用できるかもしれない。

 ラストは、そう、推測していた。


「ラスト、頼んだぞ」


「わかってる。コーデリアを殺して、俺が、皇帝になる」


 クライドは、ラストに託す。

 信じているようだ。

 ラストが、コーデリアを殺して、次の皇帝になると。

 クーデターを起こし、帝国をのっとるつもりなのだろうか。


「期待しているぞ」


 クライドは、ワインを飲み干した。

 ラストなら、皇帝になってくれると。

 帝国を変えてくれると。

 ラストも、笑みを浮かべながら、グラスにワインを注ぎ、それを飲み干した。



 ヴィオレットとアマリアは、部屋で閉じ込められている。

 ドアを蹴破ろうとしたが、頑丈だ。 

 ラストが、指示したのだろう。

 ドアを破壊できないようにしろと。 

 それにより、ヴィオレットとアマリアは、部屋から出られなくなってしまった。


「はぁ……」


「大丈夫か?」


「あ、はい」


 アマリアは、ため息をつく。

 当然であろう。

 ラストが、裏切ったのだ。

 ショックから立ち直れていないのだろう。

 ようやく、彼を受け入れられたというのに。

 そんなアマリアをヴィオレットは、心配していた。


「ヴィオレット、私達は、どうなるんでしょうか?」


「さあな」


「……」


 アマリアは、ヴィオレットに尋ねる。

 不安に駆られているのだろう。

 自分達は、どうなってしまうのかと。

 だが、ヴィオレットでさえも、不明だ。

 ラストが、何を企んでいるのか、見抜けないのだから。

 アマリアは、うつむき、黙ってしまった。


「安心しろ。アマリアが、殺されるはずがない。殺せるわけがないんだ」


「じゃあ、ヴィオレットは?」


「どうだろうな。私を殺す事は今はできない。だが、魔剣さえあれば、殺せる」


 ヴィオレットは、アマリアの不安を取り除くように、語りかける。

 ラストは、アマリアを殺すはずがないと思っているようだ。

 アマリアが、聖女だからと言う理由ではない。

 別の理由があるように思えてならないのだろう。

 根拠はどこにもないのだが。

 だが、アマリアが、心配しているのは、自分の事だけではない。

 ヴィオレットの事だ。

 ヴィオレットは、本当に、大丈夫なのかと。

 だが、ヴィオレットは、答えられなかった。

 現在、自分を殺せるものはいない。

 カレン達は、死んだのだから。

 だが、魔剣を手にしてしまえば、別だ。

 魔剣なら、誰でも、ヴァルキュリアを殺せるのだから。


「魔剣……ですが、あれは、王宮エリアにあります」


「コーデリアを殺すつもりなら、魔剣は手に入れるだろうな。暴走するだろうが」


 アマリアは、推測しているようだ

 もし、ヴィオレットを魔剣で殺そうとしているのであれば、それは、不可能ではないかと。

 だが、ラストが、コーデリアを殺すつもりならば、必ず、魔剣を手に入れるはずだ。

 コーデリアを確実に殺すために。

 なぜ、魔剣が、必要なのだろうか。

 アマリアは、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。


「ラストは、ヴィオレットも、殺すつもりなのですか?」


「わからない。あいつが、何を考えているのか……」


 アマリアは、不安に駆られているようだ。

 もしかしたら、ヴィオレットは、ラストに殺されてしまうのではないかと。

 だが、ヴィオレットでさえも、不明なのだ。

 ラストは、何を企んでいるのか。

 なぜ、急に裏切ったのか。

 その時であった。

 ノックの音が、響いてきたのは。


「はい」


「しっつれいしまーす」


「食事をご用意いたしました」


 アマリアは、返事をするとアトワナとキャリーが部屋に入ってきた。

 しかも、夕食を運んできてくれたようだ。

 二人の前に、食事が置かれる。

 食事は、用意してくれるようだ。

 だが、ヴィオレットは、ただ、黙っていた。


「……」


 ヴィオレットは、食事に、手をつけようとしない。

 何か、不信を抱いているかのようだ。

 もしかしたら、毒が入っているかもしれない。

 眠り薬を入れられている可能性だってある。

 ゆえに、ヴィオレットは、夕食を食べようとはしない。

 アマリアも、食事を手をつけられなかった。

 まるで、恐れているかのようだ。


「安心しなって~。毒は盛ってないからさ~」


「どうだか。そんな事、信じられると思うか?」


「確かに」


 アトワナは、いつものように、語る。

 毒など盛っていない。

 だが、それを証明する事は不可能であろう。

 ヴィオレットは、未だ、疑っているようだ。

 なぜなら、ヴィオレットは、クライド達を殺そうとした。

 その事をアトワナ達も知っているはずだ。

 もしかしたら、毒で、ヴィオレットを弱らせようとしているかもしれない。

 たとえ、殺せなくとも、ヴィオレットにとっては、苦痛であろう。

 アトワナは、ヴィオレットに問いただされ、納得していた。

 確かに、証拠などどこにもない。

 証明などできるはずないのだと。


「じゃあ、いい事、教えてあげるよ」


「なんだ?」


「ラストの奴、コーデリアを殺して、皇帝になるんだって」


「え?」


 アトワナが、証拠を差し出す代わりに、情報をヴィオレットに流す。

 これで、信用してもらおうというのだろうか。

 だが、ヴィオレットにとっては、衝撃的な情報であった。

 ラストが、皇帝の座を狙っていたなどとは、知らなかったのだ。

 これには、さすがのヴィオレットも、驚きを隠せなかった。


「アトワナ」


「大丈夫だよ。ヴィオレットなら」


「ですが、私達を殺すつもりだったのでしょう?」


「……」


 ヴィオレットに情報を流すアトワナを、キャリーが、責める。 

 ヴィオレットの事を信用していないのだろう。

 当然だ。 

 ヴィオレットが、クライド達を殺すつもりだったなどと聞かされれば、不信感を抱くのは。

 だが、アトワナは、信用しているらしい。

 どんな理由があったとしても。

 それでも、キャリーは、信用できないようだ。

 ヴィオレットは、何も言えなかった。

 彼らを殺そうとしていたのは、事実だったから。


「でも、ラストの事を信用できるとは、限らないよ~?」


「た、確かに……」


 アトワナは、ラストの事を信用しているわけではなさそうだ。 

 ヴィオレットが自分達を殺そうとしていたという事が、事実であっても、全ての話が、事実と言わけではない。

 キャリーも、納得しているようだ。

 確かに、ラストの言う事を全て、信用できるとは限らないと。

 二人のやり取りを聞いたヴィオレットは、夕食を食べ始める。

 アトワナ達の事を信じたのだろう。

 自分を信じてくれたのだから。


「確かに、毒は、入ってないようだな」


「でしょ~?」


 夕食を食べたヴィオレットは、確信を得たようだ。

 毒は入っていない。

 アトワナは、自分の事を敵視しているわけではないのだと。

 それを聞いたアトワナは、ウィンクして、返事をした。

 アマリアも、続けて、夕食を口にする。

 毒が入っていないと知り、安堵したようだ。


「まぁ、なんで、ラストが、あんた達を裏切って、閉じ込めたのかは、わからないけどさ。裏がある気がするんだよね~」


「裏?」


「そうそう」


 アトワナは、ラストの事を探っているようだ。

 なぜ、ヴィオレット達を裏切って、部屋に閉じ込めたのか。

 何か、裏があるとしか思えない。

 目的を果たすだけではないという事なのだろう。

 ヴィオレットは、思考を巡らせる。

 ラストの事を思い返しながら。



 深夜になると、クライドは、部屋から出た。 

 部屋に残っているのは、ラストのみとなったのだ。


「悪いね。ヴィオレット、聖女サマ。ここからは、俺一人で、やるつもりだ」


 ラストは、ワインを飲みながら、呟いた。

 まるで、ヴィオレットとアマリアに語りかけるように。

 ヴィオレット達を裏切ってでも、ラストは、一人で、帝国を滅ぼすつもりだ。


「コーデリアを殺して、皇帝になる。復讐を果たしてやる」


 ラストの目的は、帝国を滅ぼす事で、復讐を果たすことであった。

 おそらく、コーデリアに対しての。 

 ワインを飲み干したラストは、不敵な笑みを浮かべる。

 復讐をやり遂げられると確信を得たのだろう。

 彼は、恐ろしく、冷たい瞳で、月夜を眺めていた。


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