第七十話 憎まれても、殺す
「な、何を言って……」
自分の防御力が下がった。
そんな事を言われたカレンは、戸惑う。
当然であろう。
自分の力が弱まっているなど、あり得るはずがない。
なぜ、ヴィオレットは、そのような事を言いきれるのだろうか。
カレンは、思考を巡らせるが見当もつかなかった。
「お前は、私が、固有技を発動する度に、固有技を発動して、はじいていたんだろ?」
「っ!!」
ヴィオレットは、カレンと死闘を繰り広げている中で、気付いたのだ。
自分が、固有技を発動する度に、カレンも、固有技を発動していた事を。
ヴィオレットに気付かれないように、一瞬だけ、発動していたのだろう。
これにより、カレンは、防御力を高め、ヴィオレットの固有技をはじき返していたのだ。
ヴィオレットに見抜かれたカレンは、目を見開いた。
「図星か」
カレンの様子を目にしたヴィオレットは、気付く。
やはり、自分の読みは、当たっていたのだと。
「だが、固有技の連発で、防御力が落ちてきているんだ。私以上に力を使った影響でな。私も、スピードが落ちた事があったからな」
ヴィオレットは、さらに話を続ける。
一瞬だけとはいえ、自分の固有技をはじくには、多くの力を使う必要がある。
しかも、何度も、連発したのだ。
それゆえに、力が減少してしまい、鎧の防御力が落ちてしまったのだろう。
かつて、ヴィオレットも、何度も、スピードを上げて、力を発動した為、経験があったのだ。
スピードが落ち、追い詰められた事があった。
ルチア達のおかげで、難を逃れたが。
だが、その経験があったからこそ、カレンの防御力が落ちている事に気付いたのだ。
ヴィオレットに見抜かれたカレンは、何も反論できなかった。
「さて、そろそろ、終わりにしよう」
「な、なめるなあああああっ!!」
ヴィオレットは、構える。
カレンを殺すために。
だが、カレンは、感情をむき出しに、ヴィオレットに向かっていった。
信じたくないのだろう。
自分が、ヴィオレットよりも、弱いなど。
ヴィオレットを殺せるはずだと思っているのだ。
だが、ここで、ヴィオレットは、スピードを出し、魔技・スパーク・ブレイドを発動して、カレンに斬りかかった。
「うぐっ!!ああっ!!」
ヴィオレットは、何度も、移動しながら、カレンに向けて、魔技を発動する。
カレンは、回避する事も、防御することもできず、体を切り刻まれ、バランスを崩し倒れかけた。
「これで、終わりだ!!」
「うあああああっ!!」
ヴィオレットは、固有技・スギライト・ライトニングを発動する。
固有技を受けたカレンは、絶叫を上げ、仰向けになって倒れた。
「く、くそ……」
カレンは、歯を食いしばる。
固有技を受けたせいで、回復速度が落ちている。
激痛により、起き上がることさえ、できないのだろう。
完敗だ。
カレンは、初めて、負けを認めた。
ヴィオレットは、カレンに迫った。
今度こそ、カレンを殺すために。
「何か、言いたいことはあるか?」
「……聞きたいことがある」
「なんだ?」
「なぜ、お前は、帝国を滅ぼそうとしている」
ヴィオレットは、カレンに問いかけた。
情けをかけたのだろう。
カレンは、ヴィオレットに憎悪を宿していたのだから。
最後に何か、怒りをぶつけたいのではないかと悟って。
だが、意外な事に、カレンは、ヴィオレットに問いかけた。
知りたいのだろう。
なぜ、自分達を殺してまで、帝国を滅ぼしたいのか。
「この帝国は、狂っているからだ」
「なんだと?」
ヴィオレットは、真実を語る。
帝国は、狂っているのだと。
だが、カレンには理解できなかった。
なぜ、帝国は狂っていると言えるのだろうか。
ヴィオレットは、何を知っているのだろうか。
見当もつかなかった。
「ここの帝国の奴らは、すでに、死んでいる。私達も、含めてな」
「え?」
ヴィオレットは、衝撃的な真実を明かす。
なんと、ヴィオレット達も、含めて、帝国の民は、一度、死んだのだと。
これを聞いて、カレンは、驚く。
自分達が、一度、死んでいるとは、一体どういう事なのだろうか。
いや、そもそも、死んだ記憶など、自分にはなかった。
「私達は、すでに死んで、作られた体に入れられたんだ。生きているのは、皇族とアマリアとラストだけだ」
「そ、そんな……。そんなの嘘だ!!」
ヴィオレット曰く、皇族とアマリア、ラスト以外は、すでに死んでおり、作られた体に入っているという。
確かに、ヴィオレットは、ベアトリスに、帝国の民は、作られた体に入っていると聞かされていた。
だが、誰も、予想していなかっただろう。
死んだ者の魂が、入っているなどと。
可能性はあったが、事実だとは、カレンも、受け入れたくないようだ。
自分達が、死んでいるなど。
「嘘ではない。その証拠に、私達は、不死身だ。宝石の力もあるが、作られた体だからだ」
ヴィオレットは、カレンの意見を否定する。
宝石の力と作られた体により、強化されているが、同時に不死身でもある。
一度、死んでいるから。
ヴィオレット達の魂は、作られた体と宝石にとらわれていたのだ。
カレンは、衝撃を受けていた。
「作られた体であるからこそ、死んだ者の魂であるからこそ、異常をきたし、地上で妖魔と化した。帝国では、妖魔にならないように、何かしらの魔法をかけられていたようだが」
「そんな……馬鹿な……」
作られた体と死んだ者の魂が、適合するわけがない。
何かしらの異常が発生しているのだ。
作られた体が、暴走しているのだろう。
異常が発生したまま、地上に降り立った者は、時間が経てば、妖魔となってしまう。
それが、帝国と妖魔の真実であった。
だが、帝国にいる間は、妖魔にならない。
なぜなら、何かしらの魔法がかかっているからであろう。
妖魔にならないように。
ヴィオレットは、そこまで知っていたようだ。
それを聞いたカレンは、愕然とした。
絶望しているかのようであった。
「もういいか?」
「ああ。殺せ。どうせ、死んでいるなら、生きている価値など、もうない」
ヴィオレットは、カレンに尋ねる。
カレンの回復速度は落ちてきているが、傷が癒え始めていたのだ。
だが、カレンは、抵抗する気力を失っていた。
自分達が、死んでいるというのであれば、生きている価値などないからだ。
ゆえに、ヴィオレットにゆだねた。
自分を殺してほしいと。
「……わかった」
カレンの懇願を受け入れたヴィオレット。
固有技を発動し、宝石の鎌が、カレンの宝石を貫いた。
カレンの宝石にひびが入り砕け散った。
「っ!!」
宝石を砕かれ、カレンは、目を見開いたまま、そのまま、倒れる。
カレンが、死んだ瞬間だった。
これで、帝国を守っていたヴァルキュリアは、全員、死んだ。
もう、帝国を守る者は、いないだろう。
動かなくなったカレンを見ていたヴィオレット。
彼女の表情は、とても辛そうであった。
その時であった。
「ヴィオレット!!」
「アマリア、ラスト」
アマリアの声がして、ヴィオレットは振り向く。
ラストとアマリアが駆け付けに来たのだ。
どうやら、無事に切り抜けてこれたようだ。
ヴィオレットも、アマリアとラストの元へと駆け寄った。
「ご無事ですか」
「ああ。二人は?」
「私は、無事ですが、ラストが……」
「気にすんなって。俺は、不死身だからさ~」
「だそうだ」
二人の身を案じるヴィオレット。
アマリアは、無事のようだが、ラストは、怪我を追ったようだ。
返り血も浴びているが、自分の血も混じっているらしい。
アマリアを守りながら、戦ったからであろう。
だが、ラストは、おどけてみせる。
アマリアが、心配しないようにとの配慮だろう。
ヴィオレットも、静かにうなずいた。
これで、アマリアが、安堵するとは、思えないが。
「死んだか」
「ああ」
「どれどれ」
ラストは、カレンを目にして気付いたらしい。
カレンは、ヴィオレットに殺されたのだと。
ラストに問いかけられたヴィオレットは、静かにうなずく。
アマリアは、どこか辛そうな表情で目を閉じた。
カレンを救うには、殺すしかないと思っていたようだが、情を捨てたわけではない。
故に、心が痛んでいるのだろう。
こんな形でしか、救えない事を嘆いて。
ラストは、飄々とした様子で、しゃがみ込み、カレンの様子をうかがう。
カレンの死を確認するためであろう。
その時であった。
地面が大きく揺れたのは。
「この揺れは……」
「結界が、解かれたみたいだな」
ヴィオレットは、察した。
トパーズエリアの結界が解かれたのだ。
実は、ラストは、クライド達も、宮殿に侵入させていたのだ。
結界を解かせるために。
ゆえに、遅くなってしまったようだ。
これにより、全ての結界が、解かれた。
王宮エリアは、元々結界が張られていない。
特殊なエリアであるがゆえに。
今頃、地上では見えなかった帝国が姿を現している頃であろう。
「てことは、いよいよ……」
「帝国を滅ぼすことになる」
「そっか……」
結界は解かれ、帝国が姿を現した。
もう、ヴァルキュリアもヴィオレットのみ。
と言う事は、帝国を守る者は、いないであろう。
最後の標的は、女帝・コーデリアのみとなったのだ。
ヴィオレットが、呟くと、ラストは、うつむいた。
何か、覚悟を決めたかのように。
「戻るぞ」
「ええ」
ヴィオレットは、すぐさま、クライド達と合流し、屋敷に戻る事を決意した。
アマリアも、同意見のようだ。
ヴィオレットとアマリアは、宮殿から離れようとした。
だが、その時だ。
ラストが、背後から、ヴィオレットに迫った。
それも、短剣で、背中を突き刺して。
「っ!!」
「ヴィオレット!!」
背中に激痛が走り、ヴィオレットは、目を見開く。
アマリアは、衝撃を受け、立ち止まってしまった。
ヴィオレットも、アマリアも、予想していなかったのだ。
ラストが、ヴィオレットを刺すなど。




