第六十四話 憎しみにとらわれた結果
「やはり、お前が、あいつを……」
「いいや、違うな」
「だったら、なぜ、あいつは……」
カレンが、堂々とヴィオレット達の前に姿を現したことによって、ヴィオレットは、推測した。
全ては、カレンの仕業ではないかと推測して。
だが、意外な言葉を口にする。
カレンの仕掛けた罠ではないというのだ。
なら、なぜ、ティアベルが、襲撃を仕掛けたのだろうか。
ヴィオレットには、理解できなかった。
「ティアベルが、望んだのだ。全ては、お前は、罪人だと、認識させるために」
「まさか、利用したのですか?ティアベルの事を……」
「そうですよ。アマリア様」
カレンは、真実を明かす。
この罠は、ティアベルが、仕掛けたものなのだ。
カレンは、彼女の作戦に乗っただけ。
全て、ヴィオレットを罪人だと認識させ、暴走させるために。
話を聞いたアマリアは、察した。
確かに、ティアベルが、この作戦を提案したのだろう。
だが、以前のカレンなら、絶対に止めるはずだ。
仲間想いの少女だったのだから。
ゆえに、アマリアは、察した。
カレンの精神も、侵食が始まっており、ティアベルを利用し、捨て駒にしたのだと。
アマリアの問いに、カレンは、堂々と、うなずき、アマリアは、愕然とした。
「だが、ティアベルは、私を……」
「私も、特別な力をいただいたからだ。コーデリア様に」
話を聞いていたヴィオレットは、困惑する。
カレンが、ティアベルの作戦を受け入れ、ティアベルを捨て駒としたのは、わかった。
だが、あのティアベルの声は、幻聴だったように思えなくなったのだ。
カレンが、何か、仕掛けたのではないかと、察して。
カレン曰く、ライムのように、特別な力をコーデリアから頂いたという。
おそらく、ヴィオレットを妖魔にする為に。
「どういう意味だ?」
「ティアベルの声がしたんだ。死んだというのに。私を、責めていた」
ラストは、状況が把握できていない。
当然であろう。
ヴィオレットの身に何が起こったのか、ラストも、アマリアもわかっていないのだから。
ここで、ヴィオレットは真実を明かした。
殺したはずのティアベルの声が聞こえてきたのだと。
それも、ヴィオレットだけに。
ティアベルは、ヴィオレットを責めていた。
自分とルチアを殺したことを。
「その通りだ。私がいただいた特別な力は、死者の声を送る事。これで、うまくいくと思っていたんだがな」
「まさか、ヴィオレットを妖魔にする為に……」
「はい」
カレンが手にした力は、死者の声を送る力のようだ。
これにより、ヴィオレットの精神を揺さぶり、妖魔にしようとしたのだろう。
以前のヴィオレットなら、簡単に精神を揺さぶられることはなかった。
だが、セレスティーナとの戦いで、妖魔になりかけた。
押し殺していた感情を爆発させて。
それ以来、ヴィオレットの精神は、情緒不安定だったのだろう。
カレンは、それすらも見抜き、卑劣な手段を使ったのだ。
「貴方も、侵食が始まっていたんですね……」
「だったら、なんだというのです?」
「え?」
アマリアは、確信してしまった。
カレンも、侵食が始まっていたのだと。
すると、カレンは、アマリアに尋ねた。
侵食が始まっている事は、カレンも、知っていた。
だが、気にも留めていなかったようだ。
これには、さすがのアマリアも、驚きを隠せなかった。
「そうなったのは、誰のせいなのか、貴方も、わかっているのでは?」
「……」
カレンは、侵食が始まったのは、アマリアのせいだと言いたいのだろう。
確かに、カレン達の侵食が始まったのは、ヴァルキュリアになったからだ。
つまり、アマリアが、ヴァルキュリアの力を覚醒させなければ、このような事には、ならなかった。
そう言いたいのだろう。
アマリアは、何も言えず、黙ってしまった。
カレンの言っている事は、正しい。
責められても仕方がないのだと。
「ヴィオレットとラストを捕らえろ。アマリア様を助けるんだ」
「他の連中はどうしますか?」
カレンは、帝国兵に命じる。
ヴィオレットとラストを捕らえ、アマリアを保護しろと。
本当に、保護するとは、到底思えないが。
すると、帝国兵は、クライド達の事を尋ねる。
気付いていたのだろう。
クライド達は、遠くから、様子をうかがっている。
ヴィオレット達を助けるチャンスがあるのではないかと。
「……殺せ」
「っ!!」
カレンは、命じた。
クライド達を生かす必要はないと、判断したからだ。
アマリアは、愕然とした。
クライド達は、闇ギルドと言えど、帝国の民だ。
簡単に殺していいはずがない。
それなのに、カレンは、殺せと命じたのだ。
帝国兵は、カレンに命じられ、クライド達へと向かっていった。
「逃げてください!!」
アマリアは、叫ぶ。
クライド達を助けるために。
これには、カレンも、驚きを隠せない。
クライド達は、ヴィオレットに手を貸す悪人だ。
ゆえに、アマリアが、なぜ、クライド達を助けようとしているのか、理解できなかった。
帝国兵達は、瞬く間に、クライド達に、迫ろうとしていた。
「仕方がない!!撤退だ!!」
クライドは、止むおえなく、撤退することを選んだ。
ヴィオレット達を見殺しにして。
本当は、助けたいが、帝国兵の数が、多すぎる。
ここで、殺されるわけにはいかないのだ。
クライド達は、ヴィオレット達を助けると決意を固めて、逃げ始めた。
「彼らを見逃すのですか?あいつらも、同罪だというのに」
「……彼らは、本当の悪だとは思えません」
「そうですか」
カレンには、理解できなかった。
なぜ、アマリアは、クライド達を助けたのか。
アマリアは、気付いていたのだ。
本当の悪人は、クライド達ではない。
ヴィオレット達でもないと。
支配しているヴァルキュリアや帝国ではないかと、思えてきたのだ。
アマリアの意見を聞いたカレンは、微笑んでいた。
クライド達を助けたところで、変わりないと言いたいのだろう。
「早く捕らえろ」
「はっ!!」
カレンは、帝国兵に命じる。
帝国兵は、ヴィオレットとラストを捕らえ、アマリアを保護した。
もちろん、アマリアの事は丁重に扱って。
ヴィオレット達が、連行された時、カレンは、不敵な笑みを浮かべていた。
これで、ヴィオレットを殺せると確信を得たかのように。
ヴィオレット達とは別の部屋に閉じ込められたアマリア。
鍵はかけられており、部屋も狭い。
確かに、良く言えば、保護していると言っていいのだろう。
だが、監禁されていると言った方が正しいのかもしれない。
「……」
アマリアは、窓の外をながめていた。
窓も、開けられない。
アマリアは、何度も試したのだ。
だが、頑丈であり、ビクともしなかった。
このままでは、ヴィオレットとラストが、殺されてしまう。
そう思うと、アマリアは、焦燥に駆られていた。
その時だ。
カレンが、部屋に入ってきたのは。
「カレン」
「申し訳ございません。このような場所に閉じ込めてしまって」
「……」
カレンは、頭を下げる。
だが、感情がこもっていない。
まるで、何か、企んでいるかのようだ。
アマリアは、返答する気にもなれず、カレンの方へと視線を向けた。
カレンの事を警戒して。
「聞きたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「ヴィオレット達は、これから、どうなるのですか?」
アマリアは、カレンに問いかけた。
ヴィオレット達の事が心配なのだろう。
カレンが、そう簡単に答えてくれるとは、限らない。
だが、何もしないよりは、マシだ。
ゆえに、アマリアは、カレンに問いかけた。
「ヴィオレットは、公開処刑で殺します。コーデリア様の許可もとっています」
「なぜ、そのような事を!!」
カレンは、あっさりと、答えてくれた。
知っても、何も変えられないと思い込んでいるからであろう。
アマリアは、声を荒げ、カレンに問いただした。
なぜ、ヴィオレットを公開処刑しなければならないのか、理解できないからだ。
「聞きたいのは、こちらの方です。なぜ、あの裏切り者をかばうのですか?」
「え?」
だが、カレンの方が、疑問を抱いている。
なぜ、裏切り者であるヴィオレットをかばうのか。
彼女は、帝国を滅ぼそうとしているというのに。
アマリアは、あっけにとられ、答えられなかった。
「あの女は、仲間を殺したんですよ。ベアトリス、ライム、セレスティーナ、そして、ルチアを……」
「……」
カレンは、許せないのだ。
かつての仲間をヴィオレットに殺された。
アマリアにとっても、大事な家族であり、仲間だったはずだ。
だからこそ、理解できなかった。
アマリアが、なぜ、ヴィオレットをかばうのか。
助けたのか。
アマリアは、それでも、答えられなかった。
確かに、ヴィオレットは、ルチア達を殺してしまった。
許されることではない。
だが、ヴィオレットは、何かを隠している。
それは、何かは、わからないが。
ゆえに、アマリアは、答えられなかった。
今のカレンに話したところで、理解してもらえないと悟って。
「あの女の罪は、重い。だから、処刑するのです」
罪深き者を処刑するのは、当然だ。
カレンは、そう言いたいのだろう。
アマリアは、これ以上、何も、言えなかった。
「貴方は、ヴィオレットが殺されるのを待っていてください。あと、あの暗殺者も、殺しますので」
「……」
アマリアを閉じ込めたのは、ヴィオレット達を確実に仕留めるためだ。
アマリアを自由にさせてはならないと思ったのだろう。
今の彼女は、必ず、ヴィオレット達を助けようとするから。
カレンは、わざとヴィオレットとラストを殺す事を宣言し、アマリアに背を向けて部屋を出た。
「私は、どうしたら……」
アマリアは、どうするべきなのか、迷っていた。
ヴィオレット達を助けたい。
だが、自分は、閉じ込められている。
ゆえに、迷い、涙を流した。
ヴィオレット達を助けることができないのではない事を嘆いて。




