第四十六話 操られた聖女
「アマリア……」
「……」
「操られているのか……」
アマリアの目は、光を失っている。
まさに、ヴィオレットの呼びかけに、答えようとしない。
彼女の様子を目にしたラストは、察していた。
アマリアは、すでに、操られているのだと。
「残念。聖女様は、もう、ライムのものなの。ライムが、命令すれば、何でも、言う事聞いちゃうんだから」
「……」
ライムは、アマリアの元へと歩み寄り、頬を撫でる。
まるで、自分のもののように。
今まで、動揺していたのが、嘘のようだ。
勝ったと確信を得たのだろう。
アマリアが、相手では、ヴィオレット達は、手出しできない。
アマリアを傷つけるわけにはいかないのだから。
「じゃあね、アマリア。あの暗殺者。殺して」
「はい、かしこまりました」
ライムは、アマリアに命じる。
しかも、ラストを殺すようにだ。
ラストの事を邪魔者扱いしているのだろう。
ライムは、ヴィオレットを殺したいのだ。
そのためには、ラストを消すしかない。
ゆえに、アマリアを捕らえ、精神を崩壊させ、操ったのだ。
暗殺者であるラストでさえも、アマリアを殺す事は、できないと推測して。
命令されたアマリアは、ロッドを構える。
まるで、操り人形のようだ。
ラストを殺すつもりなのだろう。
「待て!!」
ヴィオレットは、危険を察知し、ラストの前に立とうとする。
ラストを死なせないために。
だが、その時だ。
ラストが、ヴィオレットの前に立ったのは。
「ラスト」
「いいぜ、受けて立つ」
「な、なに言って……」
ラストは、アマリアと戦うつもりなのだ。
短剣を握りしめ、構える。
覚悟を決めたのだろう。
だが、ヴィオレットは、動揺している。
なぜ、ラストが、アマリアと戦う事を決めたのか、理解できないのだ。
「ヴィオレット。俺が、あの聖女様を相手してる間に、あの小娘、殺せ」
「わかった」
ラストは、ヴィオレットに懇願する。
アマリアを救う方法は、ただ一つ。
ライムを殺す事だ。
アマリアを操っているのは、間違いなくライムだ。
ゆえに、ライムが、死ねば、アマリアは解放されるであろう。
だが、ライムを殺せるのは、ヴィオレットしかいない。
ラストは、それを知っているからこそ、アマリアと戦う事を決めたのだ。
ラストの懇願をヴィオレットは、受け入れる。
そして、ライムの前に立ち、構えた。
「あ、来てくれたんだね。ヴィオレットちゃん」
「……」
「ライムの事、殺しに来たんでしょ?」
ライムは、ヴィオレットに問いかける。
だが、ヴィオレットは、答えようとしなかった。
会話を交わするつもりはないようだ。
ライムは、それでも、笑みを浮かべた。
それも、薄気味悪い笑みを。
「かかってこいよ。裏切り者」
「望むところだ!!」
ライムは、ドスの効いた声で構える。
まるで、本性を現したかのようだ。
と言っても、ヴィオレットは、平然としている。
ライムの本性など、知っていたからだ。
ヴィオレットは、鎌を振り回し、構えた。
すると、二人は、同時に、地面を蹴って、向かっていった。
「さあ、遊ぼうぜ。聖女様」
ラストは、にっと笑みを浮かべる。
焦燥に駆られた様子は見せていない。
ヴィオレットの事を信じているのだろう。
すると、アマリアは、固有技・ホーリー・クロスを発動する。
それも、何度も。
ラストは、それを回避しながら、アマリアと距離を取った。
「えげつねぇな。さすが、ライムが、操ってるだけあるか……」
アマリアは、容赦ない。
本当に、ラストを殺そうとしているかのようだ。
当然であろう。
アマリアは、操られているのだ。
ライムが、殺せと命じるのであれば、殺すのだろう。
回避し続けるラストに対して、アマリアは、固有技・ホーリー・プリズムを発動する。
聖なる結晶の刃は、ラストを襲い掛かる。
ラストは、回避しながら、アマリアに迫った。
だが、その時だ。
アマリアは、固有技・ホーリー・クロスを発動していたのは。
聖なる十字架の刃が、ラストに迫ろうとしていた。
「やばっ!!」
ラストは、危険を察知し、固有技・ナイトメア・グラビトンを発動する。
悪夢の中に閉じ込め、重力で、攻撃する技だ。
アマリアが発動した聖なる十字架の刃を悪夢の中に閉じ込め、相殺させたラストであったが、二つの巨大な力がぶつかり合った為、爆発が起こった。
「や、やべぇな、マジで……」
爆風に耐えたラストであったが、アマリアは、固有技・ホーリー・プリズムを発動する。
ラストは、回避しきれず、聖なる結晶の刃は、ラストを切り裂いた。
苦悶の表情を浮かべ、膝をつく、ラスト。
アマリアは、容赦なくラストに迫り、ロッドを向けた。
「貴方は、殺します。絶対に」
「ライムが、命じたからか?」
アマリアは、宣言する。
ラストを殺すと。
ラストは、問いかけてみた。
ライムに命じられたから、殺すのかと。
お前は、操り人形なのかと、問いたいのだろう。
だが、アマリアは、首を横に振る。
これは、ラストにとっても、予想外であった。
「いいえ、貴方は、シャーマンを殺した。だから、殺します」
「っ!!」
アマリアは、ラストの問いに答える。
ラストを殺そうとしている理由は、シャーマンを殺したからだ。
アマリアが見せられた残酷な光景は、ラストが、シャーマンを殺した光景であった。
それも、何度も、何度も。
アマリアにとっては、トラウマだったのだろう。
あの時、アマリアは、地獄を目にしてしまったのだ。
ゆえに、ラストを許せなかった。
受け入れられなかった。
ライムに操られてしまったアマリアは、命じられ、感情のままに動く人形そのものだ。
だが、それでも、ラストは、衝撃を受けた。
それほど、アマリアに憎まれていたのだと。
その隙をついて、アマリアは、固有技・ホーリー・クロスを発動した。
ラストは、聖なる十字架の刃が自分に迫っている事に気付くが、時すでに遅し。
回避する間もなく、ラストは、切り裂かれてしまった。
「あがっ!!」
ラストは、切り裂かれ、吹き飛ばされてしまった。
地面にたたきつけられたラスト。
回復魔法を発動できないため、傷を追うばかりだ。
重傷ではないが、それに近いと言っても過言ではない。
ラストは、起き上がるが、痛みで、思うように体が動かなかった。
それでも、アマリアは、構えた。
容赦なく。
「覚悟!!」
アマリアは、構え、固有技・ホーリー・プリズムを発動しようとする。
いくつもの聖なる結晶の刃が、生み出された。
ラストを確実に殺すために。
ラストは、ただ、呆然と立ちつしていたままであった。
「そうだ。確かに、俺は、殺したんだ」
ラストは、わかっていた。
自分は、罪を犯したのだと。
罪だとわかっていて、シャーマンを殺したのだ。
感情を押し殺しながら。
アマリアに憎まれても仕方がない。
殺されかけても仕方がない。
そう、思っているのだろう。
アマリアは、ついに、固有技・ホーリー・プリズムを発動し、聖なる結晶の刃が、ラストに襲い掛かる。
それでも、ラストは、構えようとしなかった。
「だから、俺は、帝国を滅ぼす!!」
ラストは、握りしめ、決意を固める。
帝国の犬であった彼が、反旗を翻し、帝国を滅ぼすと。
それは、罪滅ぼしなのか、復讐なのかは、不明だ。
だが、ラストの決意は固かった。
いくつもの聖なる結晶の刃を切り裂くラスト。
全て、切り裂くことはできず、ラストは、ギリギリのところで回避する。
だが、最後の結晶の刃は、ラストの仮面に突き刺さった。
その時だ。
仮面にひびが入り、右側だけが、剥がれ落ちたのは。
ラストの素顔がアマリアの目に映った。
と言っても、右側だけなのだが。
「え?」
ラストの素顔を目にしたアマリアは、動揺する。
見えたのは、右側だけだ。
それでも、動揺せずにはいられないようだ。
「あ、貴方は……」
アマリアは、体を震わせる。
まるで、ラストの事を知っているかのようだ。
彼は、一体、何者なのか、悟ったかのようだ。
その時だ。
アマリアは、ある光景を頭に思い浮かべたのは。
それは、金髪の男性との思い出だ。
共に、王宮エリアの部屋で談笑したり、エデニア諸島で妖魔と戦ったり、寄り添ったり……。
二人は、まるで、恋人同士のようであった。
「う、うそ、い、いや……」
「もしかして、正気を取り戻しかけてるのか?」
アマリアは、首を横に振る。
まるで、正気を取り戻そうとしているかのようだ。
アマリアの異変に気付いたラスト。
ラストは、アマリアを助けるために、彼女に迫ろうとしていた。
「い、いやあああああっ!!」
「ちっ!!」
ラストが、たどり着く前に、アマリアは、叫び、暴走し始める。
力を制御できなくなってしまったのだ。
無数の聖なる結晶の刃や聖なる十字架の刃が、生み出される。
それも、ラストに向かって、襲い掛かってきたのだ。
ラストは、回避する。
だが、逃げてばかりでは、アマリアを救う事はできない。
「待ってろよ、アマリア。今、助けてやる!!」
ラストは、ある決意を固め、アマリアに向かっている。
それは、回避せず、アマリアに近づこうとしたのだ。
無数の聖なる結晶の刃や聖なる十字架の刃が、ラストの体を切り裂くが、ラストは、苦悶の表情を浮かべながら、アマリアに近づく。
そして、アマリアの首を手刀で殴りつけた。
「うっ!!」
衝撃を受けたアマリアは、すぐさま、気絶する。
すると、暴走していた力が、収まった。
アマリアが、ライムから解放されたのかは不明だ。
だが、それでも、今は、無事に戦いを終えたと言っても過言ではないだろう。
「悪いな。聖女サマ」
ラストは、アマリアに謝罪する。
アマリアの顔を眺めながら。
その表情は、とても、切なそうだ。
アマリアに特別な感情を抱いているかのようだ。
アマリアを、安全な場所へと運び、寝かせるラスト。
あとは、ヴィオレットが、ライムを殺すだけだ。
そうすれば、アマリアは、完全に解放されるであろう。
ラストは、流れる血を止めようとはせず、ヴィオレットの元へと迫った。
「きゃっ!!」
ライムと戦いを繰り広げていたヴィオレット。
だが、戦闘能力は、ヴィオレットの方が上回っているようだ。
それゆえに、ライムは、ヴィオレットに追い詰められた。
ライムは、対抗する為に、矢を宝石の刃へと変化させる。
固有技・ジェダイト・ヴェントゥスを発動しようとしたのだ。
だが、ライムの固有技よりも、早く、ヴィオレットは、容赦なく、魔技・スパーク・ブレイドを発動し、ライムは、固有技を中断させ、回避するが、バランスを崩して、尻餅をつく。
その間に、ヴィオレットは、ライムに刃を向けた。




