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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第三章 小悪魔の風のヴァルキュリア
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第四十四話 特別な魔法

 ユユを殺した後、ヴィオレットとラストは、ライムがいる宮殿にたどり着く。

 だが、宮殿周辺は、帝国兵が多い。

 当然と言えば、当然であろう。

 ヴィオレット達が、エメラルドエリアに侵入している事は、知れ渡っている。 

 しかも、アマリアを連れ去ったのだ。

 ヴィオレット達が、侵入すると推測されているであろう。


「来たのは、いいが……」


「やっぱ、突破すんのは、難しいか……」


 帝国兵の数が多すぎる。

 これでは、ヴィオレットとラストのたった二人だけでは、突破は難しいだろう。

 ヴィオレットとラストは、帝国兵に気付かれないように、裏路地の中から、宮殿の状況をうかがっているが、侵入は不可能だと、推測しているようだ。


「くそ……」


 ラストは、焦燥に駆られているようだ。

 苛立っている。

 なぜ、ラストが、焦燥に駆られているのか、ヴィオレットは、知っているようだ。

 だが、あえて、何も言わない。

 ラストの事を気遣っているのだろう。

 と言っても、このまま、何もしないわけにはいかない。

 どうにかして、宮殿に侵入しなければならなかった。

 だが、その時だ。

 クライドが、ヴィオレット達の元へと駆け付けたのは。

 どうやら、ハイネが、クライドに報告してくれたようだ。


「ヴィオレット、ラスト」


「クライド……」


 クライドは、多くのレジスタンスを引き連れてきたらしい。

 さすが、と言ったところであろう。

 これで、宮殿に侵入できる。

 ヴィオレットも、ラストも、そう、推測していた。


「話は、聞いた。すまない」


「いいさ、あの聖女サマを置いてった俺達にも、非があるし……」


 クライドは、謝罪する。

 自分のせいだと、責任を感じているようだ。

 ユユとヤヤが、襲撃してくるとは、予想もしなかったのであろう。

 だが、ラストは、咎めようとはしない。

 自分達も、アマリアを残して、外に出たのだ。

 自分達にも、非があると、責めているのだろう。


「アマリアを救出したい。協力を頼みたいんだ」


「わかっている。地下水道なら、いけるはずだ」


「わかった」


 ヴィオレットは、クライドに懇願する。

 アマリア救出のためには、協力が必要だ。

 クライド達の協力が。

 もちろん、クライド達もそのつもりだ。

 そのために、ここに来たのだ。

 クライド曰く、地下水道から、いけるらしい。

 確かに、地下水道への入り口がこの近くにある。

 アトワナとキャリーが調べてくれたのだろう。

 ヴィオレットは、ありがたいと感じながら、静かにうなずいた。


「こっちの事は、任せてほしい」


「頼んだぜ」


 クライドは、帝国兵の注意を引き付けている間に、ヴィオレットとラストを地下水路へ侵入させるつもりだ。

 そうでもしなければ、二人は、地下水路に突破することさえ、不可能なのだろう。

 ラストは、帝国兵をクライド達に、任せることにして、構えた。

 続けて、ヴィオレット達も、構える。

 覚悟ができたのだろう。


「行くぞ!!」


 クライド達は、地面を蹴って、帝国兵に向かっていく。

 クライド達の気配に気付いた帝国兵。

 その直後、クライド達は、帝国兵に先制攻撃を仕掛ける。

 次々と、斬られていく帝国兵達であったが、ここで、追い詰められるわけがない。

 反撃を仕掛けてきたのだ。

 お互いの実力は、ほぼ、互角であり、乱戦状態となった。

 その間に、ヴィオレット達は、地下水道へと向かった。



 剣がぶつかり合う音、魔法や魔技が放たれた音が、ライムの部屋まで響いてきた。


「外が騒がしくなったなぁ。もしかしたら、ヴィオレットちゃんが、侵入でもしたかな?」


 ライムは、気付いたようだ。

 ヴィオレット達が、侵入した為、外が、騒がしくなったのではないかと。

 そう思うと、笑みがこぼれるライム。

 楽しみで仕方がないのだろう。

 ヴィオレットをどうやって、痛めつけてやろうかと。


「どう、思う?聖女様」


「……」


 ライムは、アマリアの方へと視線を向け、尋ねる。

 なんと、アマリアは、椅子に座らされ、両手をロープで縛られている。

 しかも、アマリアのの体や顔には、痣ができていた。

 ライムに殴られたのだろう。

 聖女だというのに、ライムは、アマリアの暴力を振るったのだ。

 問いかけられたアマリアは、何も、答えようとしない。

 黙ったままであった。


「答えろよ」


 答えようとしないアマリアに対して苛立ったようだ。

 ライムは、アマリアの顔を殴りつける。

 アマリアは、そのまま、床に倒れ込んだ。

 部屋には、帝国兵が二人いる。

 だが、ライムを止めようとしない。

 見てみぬふりだ。

 止めれば、ライムに殺されてしまうからであろう。


「あはは!!さいっこう!!聖女様を殴れるなんて、滅多にないもんねぇ。あ、でも、こんなライムは、ヴァルキュリア失格だっけ?」


 ライムは、聖女であるアマリアを殴れることを喜んでいるようだ。

 確かに、アマリアに危害を加えたとなれば、重罪も同然だ。

 ヴァルキュリアであるライムも、処罰の対象となるだろう。

 だが、ライムは、ばれなければ、何をしてもいいと思っているようだ。

 それゆえに、レジスタンスのメンバーとヤヤを殺したのだ。

 だが、アマリアにとって、今のライムは、ヴァルキュリア失格なのだろう。

 ライムも、先ほど、言われた言葉を思い返すように、アマリアに尋ねた。


「そう言うところが、むかつくんだよね!!」


 ライムは、アマリアの脇腹を踏みつける。

 激痛がアマリアを襲い、アマリアは、苦悶の表情を浮かべた。

 それでも、耐えたのだ。

 必死で。


「ら、ライム様、お止めください!!」


「こ、この方は、聖女様ですよ!?」


 ついに、帝国兵が、ライムを止めに入る。

 見ていられなくなったのだろう。

 アマリアが、ライムに殴られるところなど。

 相手が、ライムであっても、止めなければと思ったようだ。


「うっさい!!」


「がっ!!」


 ライムは、懐から、クロスボウを取り出し、矢を放つ。

 矢は、二人の帝国兵の心臓を貫き、帝国兵は、目を見開いたまま、仰向けになって、倒れた。

 また、ライムは、殺してしまったのだ。 

 罪のない帝国兵を。


「あーあ。まーた、殺しちゃった。ま、いいっか」


「ライム、貴方と言う人は!!」


 ライムは、帝国兵を殺しても、罪悪感を感じないようだ。

 何とも、許しがたい事だ。

 アマリアは、怒りをライムにぶつける。

 だが、ライムは、アマリアの腹を蹴り飛ばした。


「あがっ!!」


「うっさいんだよ!!箱入り娘が!!」


 アマリアは、目を見開き、もだえる。

 骨が折れたかと思うほどの激痛がアマリアを襲ったのだ。

 ライムは、アマリアに怒りをぶつけていた。

 反論した事に対して、苛立っているのだろう。

 しかも、何も知らない箱入り娘と見下して。


「殴るのも、つまらなくなったなぁ。どうしようかな?」


 ライムは、何か、良からぬことを企んでいるようだ。

 彼女の顔は、不気味に微笑んでいる。

 彼女の笑みを見たアマリアは、背筋に悪寒が走った。

 恐ろしく感じたのだろう。


「殺すのですか?ユユとヤヤのように」


「ううん。さすがに、それは、まずいっしょ。まぁ、できれば、良かったんだけど」


 アマリアは、怯えながら、尋ねる。

 自分も、殺されてしまうのではないかと。

 だが、ライムは、殺すつもりはないようだ。

 聖女を殺す事は、重罪だ。

 即処刑となるだろう。

 ライムは、本当は、アマリアを殺したいのだが、さすがに、それは、自分の命も、危ないと、察しているようで、殺すつもりはなかった。


「あんたを捕まえたのは、ちゃんとした理由があるんだよねぇ」


 ライムは、しゃがみ込み、アマリアを覗き込む。

 アマリアを捕らえた理由は、ちゃんとあるらしい。

 と言っても、悪い予感しかしない。

 アマリアは、体を震わせながら、ライムをにらんだ。


「ライム、コーデリアから特別な魔法をもらったんだ♪」


「特別な魔法?」


「そう」


 ライムは、意外な事実を打ち明ける。 

 なんと、コーデリアから、特別な魔法をもらったというのだ。

 これには、さすがのアマリアも、驚きを隠せない。

 だが、ライムが、特別な魔法をもらったというのは、事実だ。

 ヴィオレットを殺すためだと、兵長に頼みこんだらしい。

 もちろん、脅しではなく、ぶりっ子で。

 兵長をうまく、利用して、ライムは、魔法を手に入れたのであった。


「今から、見せてあげる」


 ライムの目が、赤く光った。 

 しかも、おぞましい力を放ちながら。

 ライムの目を見てしまったアマリアは、体をこわばらせ、しかも、目が赤く染まっていくのを感じた。


「あああああああああっ!!!」


 アマリアの絶叫が、響き渡る。

 だが、宮殿にいた帝国兵とメイドは、聞かなかったふりをしてしまった。

 逆らえば、ライムに殺されることを懸念して。



 ヴィオレット達は、地下水道に侵入し、宮殿を目指した。

 もちろん、アマリアの絶叫は、地下水道まで聞こえていない。

 ゆえに、ヴィオレット達は、知らなかった。

 アマリアに危険が迫っているなど。


「ふぅ。なんだか、あっけないな」


「ライムに、怯えてるからだろう」


 地下水道を進んでいたヴィオレット達。

 しかも、ヴィオレットは、ヴァルキュリアに変身したようだ。

 その間にも、帝国兵がヴィオレット達に斬りかかった。

 ヴィオレット達が、侵入した事に気付いたようだ。

 だが、ラストの言う通り、本当に、あっけない。

 帝国兵は、傷一つ付けられないまま、ヴィオレット達に殺されてしまったのだ。

 ヴィオレット曰く、ライムに怯えている為、体がこわばってしまったのだろう。

 つまり、本来の力が出せずに、死んだというわけだ。


「怯えてるねぇ。あんたには、ないの?怖いもの」


「あると思うか?」


「だよね~」


 ラストは、さりげなく、ヴィオレットに尋ねる。

 本当に、怖いものなどないのかと。

 だが、ヴィオレットは、逆に聞き返す。

 もちろん、ラストも、あるとは思っていない。

 何気なく、聞いてみただけであった。


「さあて。さっさと、聖女サマ、連れて帰ろうか」


 ヴィオレットとラストは、急いで、地下水道から、宮殿へと出る。

 たどり着いたのは、ホールのようだ。

 だが、その時であった。

 全体に、何やら、魔法がかけられたのは。


「え?」


「こ、これは……」


 魔法がかけられたことに気付いたヴィオレット達。

 だが、時すでに遅し、回避する前に、ヴィオレット達は、完全に、魔法にかかってしまったようだ。

 魔法にかけられたヴィオレットの前に現れたのは、なんと、ルチアであった。


「ルチア?」


 ヴィオレットは、信じられなかった。

 なぜ、ルチアが、ここにいるのか。

 もう、彼女は、ここにいないはずなのに。


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