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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第三章 小悪魔の風のヴァルキュリア
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第四十三話 ライムの本性

 ヤヤは、ひたすら逃げる。

 ただただ、ひたすらに。

 アマリアを連れて。

 向かう先は、ただ一つ。

 ライムが待つ宮殿だ。

 そこまで、アマリアを連れていけば、自分は、助かる。

 アマリアをライムの元へ送り届けた後、ヤヤは、ユユの元へ戻るつもりだ。

 ヴィオレットとラストを殺すために。

 ついに、ヤヤは、宮殿に戻った。

 宮殿の入り口には、なぜか、ライムが立っていた。


「ら、ライム様!!」


「あ、戻ってきたの?」


 ライムを目にしたヤヤは、思わず、立ち止まってしまう。

 アマリアも、つられて、立ち止まった。

 ライムは、アマリアとヤヤを目にした途端、可愛らしく走り始める。

 その様子は、小動物のようだ。 

 だが、あくまで、かわいい子ちゃんのふりをしているだけ。

 ライムの本性を知っているヤヤは、怯え始め、体が震えていた。


「わぁ。本当に、アマリア様を連れてきてくれたんだね♪」


「は、はい……」


 ライムは、あくまで、かわいい子ちゃんのふりをする。

 まるで、嬉しそうに。

 と言っても、ヤヤの心配を一切しないが。

 ヤヤは、怯えながらも、うなずいた。


「ライム……」


「ん?どうしたの?アマリア様?ライムの顔に何かついてる?」


「……」


 アマリアは、ライムの様子をうかがう。

 気付いているようだ。

 今のライムは、何かを演じているかのようだと。

 前のように、可愛らしくしているが、何かが違う。

 違和感を感じているようだ。

 アマリアの視線を感じたライムは、アマリアに尋ねる。

 だが、アマリアは、答えようとしなかった。

 ここで、問い詰めれば、ヤヤの身に危険が迫ると、察して。


「ヤヤ、ユユは、どうしたの?」


「そ、それが……」


 ライムは、ユユの姿が見当たらないため、ヤヤに尋ねる。

 何があったのかと。

 だが、ヤヤは、答えられなかった。

 まさか、ヴィオレット達に見つかってしまったなどとは、言えないのだろう。

 完全に、恐れてしまっているのだ。

 何を話せば、正解なのか、判断もつかないほどに。


「ヤヤを守ってくれたのかな?」


「はい……ですが、すぐに、追うって、言っていました……」


「そう、戻るといいね」


 ライムは、誰かに見つかってしまったのだと悟ったようだ。

 ヴィオレットとラストに見つかったのだと、気付いていないようだが。

 ヤヤは、正直に答えた。

 すぐに、追うと。

 それを聞いたライムは、心配しているそぶりを見せる。

 だが、ヤヤは、目をそらしてしまった。

 ライムを恐れて。


「あ、そうだ。ヤヤ、ご褒美を上げるから、こっちに来て?」


「え?」


「ほら、早く」


 ライムは、手招きをし始める。

 ヤヤを呼んでいるようだ。

 だが、ヤヤは、体をこわばらせてしまった。

 危険を感じたのだろう。 

 ライムは、何かをするつもりなのだと。 

 たとえ、アマリアがいても。

 だが、ライムは、何度も、手招きをし始める。

 これ以上は、待たせられない。

 もし、拒否すれば、この後、ライムに殴られてしまうだろう。

 そう察したヤヤは、恐る恐るライムに歩み寄ろうとしていた。

 だが、その時だ。

 アマリアが、ヤヤの手をつかんだのは。

 ヤヤは、驚き、アマリアの方へと振り向いた。


「ヤヤ」


「大丈夫、ですから……」


 アマリアは、不安に駆られているようだ。

 もし、このまま、ヤヤが、ライムの元に行けば、どうなるのか。

 だが、ヤヤは、体を震わせながら、アマリアから離れる。

 アマリアが、自分の事を心配してくれるのは、本当に、うれしいが、ライムの機嫌が悪くなるのだけは、避けたい。

 ゆえに、ヤヤは、ライムの元へと歩み寄った。


「いい子」


 ライムは、微笑みながら、ヤヤを褒める。

 だが、その時だった。

 ライムが、悪魔のような微笑みを見せたのは。

 彼女の笑みを見たヤヤは、体をこわばらせてしまう。

 何か、嫌が予感がして。

 だが、時すでに遅し。

 ライムは、短剣を手にしており、ヤヤの左胸に突き刺した。


「っ!!」


「え?」


 ヤヤの体から、血が飛び散る。 

 アマリアは、何が起こったのか、理解できず、ただ、呆然としていた。


「な、なんで……」


「もう、お前は、用済みだから」


 ヤヤは、理解できていない。

 一体、自分の身に何が起こったのか。

 ライムは、ヤヤを切り捨てたのだ。

 自分の目的は、達成した。

 アマリアは、目の前にいる。

 もう、ユユにも、ヤヤにも、期待する事は何もない。

 つまり、ユユとヤヤを殺すつもりだったのだ。 

 ヤヤは、目を見開き、体を震わせる。 

 予想していなかったのだろう。 

 まさか、ライムに殺されるとは。

 ライムは、さらに、短剣で深く突き刺す。

 短剣は、ヤヤの心臓を捕らえ、ヤヤは、目を見開いたまま、動かなくなってしまった。


「ご苦労様でした♪」


 ライムは、笑みを浮かべ、短剣を引き抜き、そのまま、ヤヤを押しのける。

 ヤヤは、ゆっくりと、仰向けになって倒れた。


「ヤヤ!!」


 ヤヤが、倒れ、アマリアが、ヤヤの元へと駆け寄り、しゃがむ。

 だが、ヤヤは、目を見開いたまま、動かない。 

 殺されてしまったのだ。

 ライムに。


「なんてことを……」


「仕方がないじゃない。あんたさえいてくれれば、いいんだから」


 アマリアは、声を震わせながら、ライムを見上げる。

 信じられないのだろう。

 あの可愛らしくて、優しかったライムが、このような残虐な事をするとは。

 ライムは、アマリアの顔を覗き込むように、見下ろした。

 いや、見下していると言った方が正しいのかもしれない。

 ライムの目的は、アマリアだ。

 ユユとヤヤは、そのためだけに生かされた使い捨ての駒だったのだ。

 今まで、おもちゃのように扱っていたのだが、飽きてしまったのだろう。

 アマリアは、怒りを露わにし、立ち上がる。

 その直後だ。

 アマリアは、ライムの頬を思いっきりひっぱたいた。


「いったいなぁ」


「……許せません」


 ひっぱたかれたライムは、頬が赤くなっている。

 アマリアは、それほど、強くひっぱたいたのだろう。

 ライムの頬は、腫れあがっている。

 ライムは、不機嫌になってしまった。

 彼女の機嫌など、アマリアにとっては、関係ない。

 いや、恐れていないのだ。

 それほど、許せなかった。

 ライムに仕えていたユユとヤヤを切り捨てたのだから。

 アマリアは、すぐさま、ロッドを出現させ、固有技・ホーリー・クロスを発動する。 

 だが、ライムは、すぐさま、後退し、回避してしまった。

 アマリアの行動を読んでいたのだろう。


「貴方を捕らえます」


 アマリアは、構える。

 ライムを捕らえるつもりだ。

 クライドの元へ引き渡すつもりなのだろう。

 たとえ、このまま、帝国へ身柄を引き渡しても、すぐさま、解放されるだけだ。

 ライムは、ヴァルキュリアだ。

 処罰することはしないだろう。

 隠蔽する為に。

 ゆえに、アマリアは、闇ギルドのリーダーであるクライドに身柄を引き渡す事を決意した。


「とらえられるのは、どっちかな?」


 アマリアは、ライムを捕らえようとしている。

 アマリアの力なら、可能性はなくはないだろう。

 なぜなら、アマリアの力は、特別だ。

 ヴァルキュリアの力とは、また、異質。

 ゆえに、ヴァルキュリアと戦える力は、持っている。

 だが、それでも、ライムは、焦燥に駆られた様子は見せない。

 むしろ、余裕の笑みを浮かべていた。

 ライムは、指をぱちんと鳴らす。

 すると、帝国兵が、アマリアを捕らえた。


「っ!!」


 帝国兵に捕らえられたアマリアは、抵抗しようともがく。

 だが、帝国兵は、必死に、捕らえていた。

 まるで、怯えるかのように。

 そのため、アマリアは、もがいても、もがいても、解放されなかった。

 ライムは、あらかじめ、命じていたのだろう。

 アマリアが、抵抗しようとしたら、捕らえろと。


「も、申し訳ございません、聖女様」


「お、大人しくしてください」


「……」


 帝国兵は謝罪する。

 それも、怯えながら。

 本当は、アマリアを捕らえたくないのだろう。

 だが、ライムの命令は、絶対だ。

 自分達も、殺されてしまう。

 ユユとヤヤのように。

 そう思うと、ライムの命令に従うしかない。

 他の帝国兵は、必死に、懇願した。

 彼らの様子を目にしたアマリアは、抵抗ができなくなってしまったのだ。

 帝国兵の心境を察して。


「連れてって」


「は、はい……」


 ライムは、小悪魔のように、微笑みながら、命じると。

 帝国兵は、怯えながら、うなずき、アマリアを宮殿へと連れていった。


「貴方は、最低です!!ライム!!ヴァルキュリア、失格です!!」


「あんたに、言われたくないけどね」


 アマリアは、怒りをライムにぶつける。

 許せないのだ。

 ユユとヤヤ、そして、帝国兵をオモチャのように、捨て駒のように、扱うのだから。

 ヴァルキュリアの資格など、もう、ない。

 だが、ライムは、冷たく、言い放つ。

 アマリアの事を聖女と見ていないかのようだ。

 アマリアも、ライムにとって、オモチャなのだろう。

 帝国兵は、アマリアを連れて、そのまま、宮殿へと入っていった。


「まったく、甘ちゃんな箱入り娘が、好き勝手に、言ってくれるよね」


 ライムは、むっとしながら、呟く。

 不機嫌になったのだろう。

 アマリアに、ヴァルキュリア失格だと言われたのだから。

 ライムにとっては、暴言を吐かれた気分だったに違いない。


「さて、どうしようっかなぁ♪」


 ライムは、すぐさま、不敵な笑みを浮かべる。

 暴言を吐かれたとはいえ、最高のオモチャは、手に入れた。

 あとは、ヴィオレットとラストと言うオモチャをおびき寄せるだけだ。

 そう思うと、ライムは、楽しくてたまらなかった。

 ライムにとっては、最高のショータイムであり、ヴィオレットとラストにとっては、地獄になるのだから。


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