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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第三章 小悪魔の風のヴァルキュリア
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第四十一話 怯えながら

 ユユとヤヤは、アマリア達に迫っていく。 

 クロスボウを握りしめて。

 アマリアは、目を見開いていた。

 信じられなかったのだ。

 本当に、ユユとヤヤが、ウォーレットに向けて、矢を放ったのだから。


「せ、聖女様を早く!!」


 ユユは、声を震わせながら、早く、アマリアをよこすように、急かす。

 焦っているのだろう。

 やっと、アマリアを見つけた。

 ここで、逃すわけにはいかない。

 もし、逃してしまったら、どうなってしまうか、目に見えてしまうからだ。


「ユユ、ヤヤ……」


 アマリアは、心が痛んだ。

 それほど、ユユとヤヤは、追い詰められたのだと、悟って。

 そう思うと、ライムの事が、ますます、許せなくなった。

 なぜ、このようなことができるのかと、怒りに駆られて。

 ユユとヤヤが、怯えながら、迫っていく。

 だが、その時だ。

 ウォーレットが、立ち上がり、振り向いたのは。

 まるで、アマリアをかばうかのように。


「ウォーレットさん!?」


「アマリア様、ここは、お逃げくださいませ!!」


「で、ですが……」


 ウォーレットは、アマリアを逃がそうとしているのだ。

 ここで、捕まるわけにはいかない。

 アマリアも、そう思っている。

 だが、ウォーレットを残して、逃げられるはずがない。

 このままでは、ウォーレットが、殺されてしまう。

 アマリアは、それを懸念しているのだ。

 ゆえに、躊躇してしまった。


「邪魔をするな!!」


 ユユは、声を荒げ、引き金を引く。

 矢は、ウォーレットを捕らえるが、ウォーレットは、剣を鞘から引き抜き、矢を切り裂いた。

 すると、ヤヤが、走りだしたのだ。

 ウォーレットに向かって。

 ユユも、続けて、走り始める。

 連携を取るつもりだ。

 ユユとヤヤは、移動しながら、ウォーレットをほんろうさせ、引き金を引いた。

 ウォーレットは、アマリアを守りながら、剣を振るうが、全てを切り裂くことはできず、足や腕に、矢が突き刺さった。


「うっ!!がはっ!!」


 苦悶の表情を浮かべながら、うずくまるウォーレット。

 やはり、二人には、適わないようだ。


「ウォーレットさん!!」


 アマリアは、しゃがみ、ウォーレットへと、寄り添う。

 だが、ウォーレットは、アマリアの前に立ち、手を広げて立ち上がった。

 たとえ、命が落とそうとも、アマリアを守るつもりだ。

 ユユとヤヤは、迫るが、手が震えていた。


「そこを退け!!」


「死にたいのか!!」


 ユユが、退くようにとウォーレットに向かって、叫ぶ。

 続いて、ヤヤが、脅しをかけた。

 もう、これ以上、殺したくないのだろう。

 二人は、泣きそうな顔をしている。

 アマリアは、心が痛んだ。


「……」


 ウォーレットは、無言を貫いている。

 退くつもりなど毛頭ないのだ。

 アマリアを守ると誓ったのだから。

 たとえ、死んでも構わない。

 そう思っているのだ。


「仕方がない」


 ユユは、歯を食いしばり、引き金に指をかける。

 覚悟を決めたようだ。

 ウォーレットを殺してでも、アマリアを連れ去ろうと。

 だが、ここで、ウォーレットも、簡単に死ぬつもりはない。

 剣を構えた。

 刺し違えてでも、守るつもりで。

 だが、その時であった。


「やめてください!!」


 アマリアが、ウォーレットの前に立ち、両手を広げる。

 ウォーレットをかばうつもりだ。

 ユユとヤヤは、驚き、体を硬直させた。


「せ、聖女様……」


 ユユとヤヤは、動揺している。

 当然であろう。

 まさか、アマリアが、ウォーレットを守るとは、予想もしていなかったのだ。

 もちろん、ウォーレットも。

 アマリアは、ただ、ユユとヤヤをじっと見ていた。

 体を震わせながら。


「わ、私がそちらに行けば、この方を見逃してもらえますか?」


「え?」


 アマリアは、交渉をし始める。

 なんと、ウォーレットを守るために、自分が、ユユとヤヤの元へ行くことを決意したのだ。

 いや、ユユとヤヤも、守るためであろう。

 そうしなければ、どちらも、守れないと推測したのだろうか。

 ユユは、驚きを隠せない。

 動揺して、呆然と立ち尽くしていた。


「だ、駄目です。アマリア様……」


 ウォーレットが、弱弱しい声で、首を横に振る。

 相当、無理をしていたのだろう。

 急所は、避けられたものの、血が流れ続けている。

 このままでは、ウォーレットが死んでしまう。

 アマリアは、ウォーレットの姿を見て、そう、推測した。


「お願いです」


 アマリアが、声を震わせて、懇願する。

 ウォーレットを助けてほしいと。

 自分を犠牲にするつもりだ。 

 ユユとヤヤは、困惑するが、唇を噛んで、決意を固めた。

 本当は、アマリアを連れ去るなどしたくないのだが。


「……わ、わかりました」


 ユユとヤヤは、承諾する。

 もう、帝国の民を殺したくない。

 それに、アマリアを連れていけば、ひどい目に合わなくて済むはずだ。

 そう推測した二人。

 交渉成立し、アマリアは、ユユとヤヤの元へ向かう。

 ウォーレットは、アマリアの元へ駆け付けようとするが、ユユが、アマリアの頭にクロスボウを突きつけた。

 そのため、ウォーレットは、動けなくなってしまった。


「そこを動くなよ」


「せ、聖女様が、どうなるか、わかるな!?」


 ユユとヤヤは、ウォーレットを脅す。

 念のためだ。

 ウォーレットは、アマリアを取り戻そうとするだろう。

 だが、アマリアを何としても、ライムの元に連れていかなければならない。

 ゆえに、アマリアに武器を向けるしかなかった。

 ユユとヤヤは、アマリアを連れて、ゆっくりと、ウォーレットから遠ざかる。

 警戒しながら。

 遠ざかってから、ユユとヤヤは、後ろを振り向き、アマリアを連れて、逃げ始めた。


「あ、アマリア、様……」


 アマリア達の姿が、見えなくなった後、ウォーレットは、緊張の糸が切れたかのように、その場で、ばたりと倒れてしまった。


 

 ヴィオレットとラストは、宮殿近くまで来ていた。

 まさか、事件が起こっているとは、思いもよらないまま。


「どうだ?」


「やっぱり、警備が、厳重だなぁ」


 ヴィオレットとラストは、宮殿の様子をうかがっていたのだ。

 ユユとヤヤを殺した後は、宮殿に乗り込まなければならない。

 だが、宮殿周辺は、予想以上に、帝国兵が多い。

 ベアトリスが殺されたため、警備を強化しているのだろう。


「やはり、レジスタンス狩りをやらせるしかないか」


「だよなぁ」


 宮殿周辺を見回したヴィオレットは、ユユとヤヤにレジスタンス狩りをやらせるしかないと判断した。

 そうでなければ、依頼は、達成できないであろう。

 ラストも、同じことを考えているようだ。 

 だが、その時であった。


「あ、いた!!」


 小声で、アトワナの声がした。

 だが、アトワナが、なぜ、ここにいるのだろうか。

 ヴィオレットとラストは、見当もつかず、振り返る。

 すると、アトワナが、血相を変えて、ヴィオレット達の元へと駆け付けた。


「アトワナ!?」


「どうしたんだ?」


 アトワナの様子から、何かあったのではないかと、推測し、驚くラスト。 

 ヴィオレットも察しているようだ。

 おそらく、アマリアの事であろう。

 一体、何があるのだろうか。


「た、大変だよ!!」


 アトワナは、息を切らしている。 

 急いで、息を整えて、体勢を整えた。 


「み、店に、ユユとヤヤが襲撃しに来たんだ!!」


「何!?」


 アトワナは、事態を説明すると、ラストは、驚きを隠せなかった。

 予想外だったのだろう。

 まさか、ユユとヤヤが、店に襲撃しに来たとは。

 おそらく、どこからか、情報が漏れてしまったのだろう。

 ライムの指示で、ユユとヤヤが、アマリアを攫いに来たのではないだろうか。

 ヴィオレット達は、そう、推測していた。


「それで、アマリアは?」


「に、逃げてる。ウォーレットが、いるから、大丈夫だと思うけど……」


 ヴィオレットは、冷静に尋ねる。

 心を落ち着かせたようだ。 

 アトワナは、動揺しながらも、伝えた。

 ウォーレットが、アマリアを連れて逃げているらしい。

 元帝国兵であり、兵長クラスの彼であったら、安心だろう。

 うまく逃げれるかもしれない。

 アトワナは、そう、推測していた。


「ウォーレットなら、路地裏に連れてくよな」


「人気がないからな」


 ラストは、ウォーレットが、どこに逃げたのか、推測する。

 おそらく、ひと気のない裏路地であろう。

 裏路地は、道が入り組んでいる。

 そう簡単に、見つからないはずだ。

 ヴィオレットも、そう、推測していたようで、納得していた。


「路地裏に行くぞ」


「おう!!」


 ヴィオレット達は、急いで、裏路地へ向かった。

 ウォーレットと逃げているアマリアと合流する為に。

 そして、ユユとヤヤをその場で殺すために。


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