第二十四話 トパーズエリア
「どうも~」
ラストは、手を振りながら、クライド達の前に立つ。
クライドは、ソファーに座っていたが、すぐに立ち上がる。
やはり、こう言うところが、紳士らしく、貴族のように思えるのだろう。
彼の隣に立っていた精霊の男性も、ヴィオレット達の前に立った。
「無事に合流できて良かった」
「そうだな」
クライドは、安堵しているようだ。
ヴィオレット達と無事に合流できたと。
実は、ヴィオレット達が、トパーズエリアに侵入した後、クライドとは、行動をしていたのだ。
帝国兵に気付かれないように。
フードを深くかぶり、裏路地を使って、クライド達の元まで来たのだ。
そうでもしなければ、一目で気付かれてしまっただろう。
なぜなら、トパーズエリアは、貴族のエリアと言っても、過言ではない。
元々、どのエリアの帝国の民も、貴族のように、暮らしていたのだ。
帝国に守られていたから。
だが、見放されたエリアは、貴族から転落したような感覚に陥った。
ゆえに、廃れてしまったのだ。
帝国の民も、エリアも。
「さて、紹介をしよう。彼女の為に、な」
クライドは、アマリアの為に、自己紹介を行うつもりだ。
本当に、紳士的だ。
そう、アマリアは、思っていた。
「彼は、ラセルだ。私のパートナー精霊であり、闇ギルドのサブリーダーだ」
「初めまして。ラセルと申します。火の精霊です」
「アマリアです。よろしくお願いします」
クライドの隣に立っていた赤い髪の男性は、クライドのパートナー精霊のようだ。
アマリアは、推測していたが、やはりと言ったところであろう。
ラセルは、丁寧にお辞儀をする。
彼と同じ貴族のように見える。
アマリアも、静かに、頭を下げて、改めて、自己紹介をした。
「警備の方はどうだった?」
「帝国兵がうじゃうじゃいたなぁ。あれじゃあ、ベアトリスの所に行くには、手間がかかりそうだぜ」
「だろうな」
クライドは、ラストに尋ねる。
実は、路地裏から街中の様子を探ってもらうように頼んでいたのだ。
ラスト曰く、街中は、帝国兵が多いらしい。
もしかしたら、自分達が、潜入した事が、知られてしまったかもしれない。
となると、ベアトリスがいる宮殿に向かうのは、困難を極めるだろう。
結界を解くのも、至難の業だ。
クライドも、同じことを思っていたらしく、ため息をついた。
「奴らは、私を殺すとあれば、何か、仕掛けてくるはずだ。あいつらは、手段を選ばないだろうからな」
「私もそう思う」
ヴィオレットは、帝国は、手段を選ばないだろうと推測している。
なぜなら、四つのエリアを落下させたのだ。
多くの命を犠牲にして。
クライドも、同じ事を思っており、うなずいた。
「一刻も早く、帝国を滅ぼしたいところだが、そうも、いかないしな」
「なんとか、ならない?」
クライドは、早く、帝国を滅ぼしたいらしい。
そうでなければ、被害が拡大するだけであろう。
だが、それは、困難を極める。
多くの帝国兵が警備にあたっているのだから。
ラストも、その事に関しては、頭を悩ませており、クライドに助けを求めた。
「そうだな。情報屋と元帝国兵が、ここに来るはずだ」
「え?情報屋?元帝国兵?」
「闇ギルドの幹部だ。来たら紹介しよう」
「あ、はい……」
クライドは、情報屋と元帝国兵がここに来る事を明かす。
だが、情報屋と元帝国兵とは、誰の事なのだろうか。
アマリアは、やはり、知らないようで、首を傾げた。
すると、クライドが、正体を明かす。
闇ギルドの幹部だと。
ここに来たら紹介してくれるようだ。
アマリアは、戸惑いながらも、うなずいた。
その時だ。
足音が聞こえてきたかと思えば、ドアが開いたのは。
「はいは~い、戻ってきたよ~」
「ただいま」
入ってきたのは二人の女性だ。
一人は、黒髪のショートカットの女性。
もう一人は、緑の髪のウェーブの女性だ。
「ご苦労様です。アトワナ、キャリー」
「ありがと。あれ?ヴィオレットとラストじゃん。久しぶり~」
「おうおう、久しぶりだな~。アトワナ~」
ラセルが、二人の女性を出迎える。
彼女達の名前は、アトワナとキャリーと言うらしい。
すると、黒髪の女性が、陽気に手を上げた。
かと思えば、ヴィオレットとラストを目にした途端、二人の元へ駆け寄る。
ラストも、嬉しそうに手を振った。
「ヴィオレット、大丈夫だった?」
「ああ、問題ない」
「そう」
緑の女性は、ヴィオレットの元へと歩み寄る。
心配していたようだ。
ヴィオレットは、女性の問いに答えると、緑の女性は、安堵していた。
「で、彼女が例の聖女様なんでしょ?」
「し、知ってるんですか?
「そりゃあ、そうでしょ~。あたしら、情報屋だし」
「あ、貴方達が……」
黒髪の女性は、アマリアの方へと視線を移す。
アマリアが、聖女だと一目見て、わかったようだ。
当然であろう。
彼女達は、情報屋だったのだ。
正体を聞いたアマリアは、驚き、あっけにとられていた。
「あ、自己紹介まだだったね~。あたしは、アトワナ。人間で、属性は、風。よろしく~」
「私は、キャリー。アトワナのパートナー精霊で、属性は、風」
「よ、よろしくお願いします」
陽気な黒髪の女性は、自己紹介をする。
アトワナだと。
彼女は、人間であり、属性は風のようだ。
そして、同じ風属性である精霊・キャリーも、自己紹介をした。
それも、淡々と。
アトワナとは正反対の性格のようだ。
アマリアは、おずおずと、頭を下げた。
「で、あのごつい二人は~?」
「まだ、だが?」
「ごつい?」
アトワナは、クライドに問いかける。
ごつい二人とは、一体、誰の事なのだろうか。
クライドは、まだだと言うが、もしかした、元帝国兵なのだろうか。
アマリアは、首をかしげるが、ヴィオレット達が、説明する前に、足音が聞こえ、すぐさま、ドアが開いた。
「帰ってきたぞ」
「ただいま、戻った」
部屋に入ってきたのは、茶髪の男性と黄色の髪の男性だ。
しかも、アトワナの言う通り、ごつい。
ごつい二人とは、彼らの事なのだろう。
「おっ!!きたきた~」
アトワナは、ごつい二人組の男性を目にした途端、すぐさま、二人に抱き付く。
しかも、フレンドリーに。
「やっほ~。久しぶり~」
「昨日、会っただろ?」
「え?そうだっけ」
アトワナは、ごつい二人組に会えて嬉しそうだ。
だが、精霊の男性は、昨日会ったばっかりだという。
アトワナは、忘れているのか、または、ごまかしているのか、問いかけた。
それも、にっと笑いながら。
「アトワナ」
「はいはい」
あまりにも、馴れ馴れしいアトワナを見たキャリーは、アトワナの襟をつかみ、強引にアトワナを引き寄せる。
アトワナは、悪びれた様子を見せず、ニコニコとほほ笑んでいた。
ごつい二人組は、ため息をつく。
こう言う事は、よくあるようだ。
その時だ。
ごつい二人組が、アマリアへと視線を移した途端、目を見開き、瞬きさせたのは。
「あ、貴方は、アマリア様、ですか!?」
「あ、はい」
ごつい二人組は、アマリアの事を知っているらしい。
だが、ここに聖女がいるとは、信じられないようで、アマリアに問いかけた。
アマリアは、戸惑いながらも、答える。
彼らも、知っているとは、思いもよらなかったのだろう。
すると、ごつい二人組は、膝をつき、首を垂れた。
「お会いしとうございました」
「まさか、本当に会えるとは」
「もしかして、貴方達は……」
ごつい二人組は、アマリアに会えたことを喜んでいるようだ。
それも、静かに。
二人の反応を目にしたアマリアは、察した。
彼らが、何者であるかを。
「失礼、自己紹介が遅れました。自分は、ウォーレットと申します。元帝国兵です。属性は地です」
「わ、私は、オルゾと申します。ウォーレットのパートナー精霊で、属性は、地です。私も、元帝国兵です」
ごつい二人組は、立ち上がり、自己紹介をする。
それも、礼儀正しく。
やはり、二人は、元帝国兵のようだ。
茶髪の男性の名はウォーレットと言うらしい。
人間であり、地属性の男性のようだ。
もう一人の男性の名が、オルゾと言うらしい。
オルゾの同期であり、パートナー精霊でもあり、地属性の男性であった。
「元帝国兵と言う事は……」
「……脱走しました」
「そう、ですか……」
アマリアは、彼らが元帝国兵だと知り、ある事に気付く。
帝国兵は、理由がなければ、脱退は不可能だ。
それも、認められた者は、ごくわずか。
つまり、元帝国兵と名乗るのは、あまりいないのだ。
しかも、闇ギルドに所属しているという事は、帝国に刃向おうと考えたという事であろう。
二人は、脱走者だったのだ。
ウォーレットが、言いにくそうに答えると、アマリアは、うつむいた。
脱走するという事は、相当、過酷だったのだろう。
または、真実を知ってしまったのかもしれない。
帝国の闇を改めて知ってしまった気がして。
「皆、集まったようだし、そろそろ、本題に入ろうか」
「そうだな」
クライドは、作戦会議を開こうと話す。
ヴィオレット達は、うなずき、作戦会議が開かれた。