第二十五話 侵入するためには
作戦会議が始まり、ヴィオレット達は、それぞれの情報を公開し始めた。
「やはり、宮殿に侵入するのは、今の所、不可能に等しい、か」
クライドは、頭を抱える。
宮殿に侵入し、襲撃したかったのだ。
宮殿には、地のヴァルキュリア・ベアトリスがいる。
それに、結界の核となっている魔法陣もあるらしい。
ゆえに、クライドは、迷っていた。
どうするべきなのか。
「自分が、宮殿あたりを見てきましたが、兵長クラスの者ばかりが、集まっていましたね」
ウォーレットは、自分が持っている情報を公開する。
宮殿の警備は、厳重らしい。
ウォーレット曰く、兵長クラスの者ばかりが、警備しているようだ。
兵長と言う立場ではないが、それほど、強者どもが集まっているという事であろう。
元帝国兵のウォーレットが言うのだ。
間違いないだろう。
「しかも、ヴァルキュリアって、宮殿で待機してるんでしょ?」
「なぜだ?」
アトワナ曰く、ヴァルキュリア達は、宮殿にて待機しているらしい。
ヴィオレットが、侵入したというのに、なぜ、待機しているのだろうか。
オルゾは、理解できず、アトワナに尋ねた。
彼女なら、その理由さえも、知っているではないかと察して。
「コーデリアに命じられたから」
「な、なるほど」
アトワナは、答える。
女帝・コーデリアが命じたからだと。
オルゾは、罠を仕掛けているのではないかと、推測してたため、予想外の答えが返ってきて、驚きを隠せなかった。
まさか、女帝が、命じたという情報を手に入れられるとは。
さすが、情報屋と言ったところであろうか。
「地下からの侵入は?」
「あれも駄目だな。警備が厳重だ」
ヴィオレットは、地下からの侵入なら可能ではないかと、推測する。
ヴィオレットなら、地下の道を知っているのだろう。
さすが、ヴァルキュリアと言ったところだ。
だが、オルゾは、首を横に振る。
地下の警備も、厳重だったらしい。
これでは、侵入経路が確保できないままであった。
「これじゃあ、全然、駄目じゃん。どうすりゃいいんだ?」
ラストは、お手上げ状態だと思ったらしく、困惑しているようだ。
このままでは、ベアトリスを殺す事も、結界を解くことも、不可能であろう。
万事休すと言ったところであろうか。
ヴィオレット達も、方法が見つからず、手詰まり状態であった。
「クライド、ここは、彼女達に頼んだほうがいいかと」
「……仕方がないか」
ラセルが、意を決したかのように、クライドに提案する。
「彼女達」に協力を求める事で、方法が、模索できるのではないかと、考えたようだ。
クライドは、ため息交じりにうなずく。
何か理由があるようだ。
「彼女達?」
「私の闇ギルドに、所属していないレジスタンスだよ」
「あそこだけ、拒否られたもんね~」
「彼女達」とはいったい誰なのだろうか。
ヴィオレットとラストは、知っているようだが、アマリアは、当然、知らないため、尋ねた。
クライドが、説明する。
なんと、闇ギルドに所属していないレジスタンスがあるようだ。
アトワナ曰く、そのレジスタンスだけ、断られてしまったらしい。
独立は、危険だが、それをあえてするというのだから、よほど、理由があるのだろう。
「けど、聖女を連れてきたと知れば……」
「手を貸す、か」
キャリーは、今までなら、断っていたが、今回は、アマリアを連れていけば、協力するかもしれないと考えているようだ。
クライドも、その話を聞いて、考えを改めた。
確かに、聖女・アマリアがいれば、考えを改めるかもしれない。
彼女達は、面倒ごとに巻き込まれたくないと言って、断っていたのだから。
「でもさ、依頼とか頼まれそうじゃね?」
「そこは、頼んだぞ」
「やっぱりか……」
だが、ラストは、懸念している事があるようだ。
それは、協力する代わりに、依頼を去れるのではないかと。
クライドも、同じことを思っているようで、ヴィオレットとラストに託した。
彼女達なら、依頼をこなせるだろうと、信頼しているようだ。
ラストは、嫌な予感が当たり、げんなりしていたが。
「あいつら、ここにいるっぽいよ~。案外、あんたが、ここにいる事も、知ってるかもね」
「かもしれないな」
アトワナは、「彼女達」が、このトパーズエリアにいる情報まで、つかんだらしい。
さすがと言ったところだろう。
恐れ入る。
アトワナは、ヴィオレットが、ここに侵入した事を知ったから、来たのではないかと推測しているらしい。
ヴィオレットも、同じことを思っていたようで、うなずいた。
「では、彼女達に協力を求めよう。アマリア、共に来てくれるかね?」
「は、はい……」
クライドは、アマリアに確認する。
アマリアの意思でなければ、意味がないと思っているのだろう。
アマリアは、戸惑いながらも、うなずいた。
彼女の意思を確認したところで、作戦会議は、終了とした。
明日、アマリアを連れて、「彼女達」の所に行くことを決意して。
時間が経ち、夜になる。
アマリアは、廊下を歩いていた。
逃げるつもりはないと、意思を示したからなのか、監視されなくなったのだ。
もちろん、アマリアも、逃げるつもりはない。
帝国の真実を知るために、ヴィオレット達についていくと決意したのだから。
「はぁ……」
だが、アマリアが、全てを納得しているわけではない。
特に、ヴァルキュリアを殺すというのだけは、拒絶していた。
だが、明日、アマリアは、ヴィオレット達と共に、「彼女達」に会うことになっている。
それは、ベアトリスが、殺される可能性が高くなってしまうのではないだろうか。
アマリアは、その事を悩んでいたのだ。
「本当に、これでいいのでしょうか……」
アマリアは、呟く。
どうしても、答えが見いだせないのだ。
このままでは、ベアトリスが、死んでしまうのではないかと、恐れて。
その時であった。
ラストと遭遇してしまったのは。
「あっれ?聖女サマじゃん」
「ラスト……」
アマリアと遭遇したラストは、あっけにとられている。
予想外だったようだ。
こんなところで、アマリアに出会うとは。
アマリアは、ラストの名を呼ぶ。
今まで、拒絶していたが、受け入れた証拠なのかもしれない。
少しだけだが。
そのため、アマリアは、再び、歩き始めた。
ラストを避けるかのように。
「ちょ、どこ行くの?」
「部屋に戻るだけです」
「あっそ」
ラストは、思わず、アマリアを止めてしまった。
避けられた気がしたからなのだろう。
ラストも、驚いている。
なぜ、引き留めたのか、わからず。
アマリアは、冷たく、突き放すかのように、答えた。
ただ、部屋に戻るだけだと。
ラストは、少しだけ、ムッとした表情を見せた。
それでも、アマリアは、進もうとしていた。
「まだ、悩んでる?ここにいていいのかって」
「……そうですね」
ラストは、アマリアに問いかけた。
見抜いているようだ。
アマリアの心情を。
アマリアは、なぜか、答えてしまった。
ラストの事を受け入れたが、心は開いていないはずなのに。
「私は、あの子に、カレン達を殺させたくありません。カレン達にも、死んでほしくない。ヴァルキュリア同士が、殺し合うなんて、あんまりです」
アマリアは、自分の心情を打ち明ける。
本当は、嫌なのだ。
ヴィオレットに、カレン達を殺させたくない。
カレン達にも、死んでほしくない。
ヴィオレットにも、生きてほしい。
だが、ヴァルキュリア同士に、戦いは避けられないだろう。
なぜなら、ヴィオレットは、裏切りのヴァルキュリアだ。
いずれ、カレン達も、ヴィオレットを殺しに来る。
だからこそ、嘆いた。
あまりに、残酷な運命だと。
「本当、残酷だよな。宝石に選ばれてからって、宿命を背負わされて、最後には、死ぬんだからさ」
「……」
ラストは、挑発するかのように、語りかける。
本当に、残酷だと。
神様に魂を捧げる事は、ヴァルキュリアにとって、誇りだ。
アマリアも、そう思っていた。
命を落とす事はわかっていた。
心が痛んだことは、何度もあったのだ。
それも、数え切れないほど。
未だに、割り切ることはできない。
それをさせてしまっているのは、自分だからだ。
自分の力で、少女達をヴァルキュリアに覚醒させている。
彼女達の命を奪っているのは、自分だ。
アマリアは、反論できなかった。
ラストの言っている事は、正論なのだから。
「それが、誇りだとは、俺は、思えないね」
「なぜですか?」
ラストは、魂を神様に捧げる事は、誇りではないと、否定する。
なぜなのだろうか。
アマリアは、理解できず、問いかけた。
彼女達は、世界の為に、命を捧げているというのに。
魂を神様に捧げる事は、ヴァルキュリア達にとって、誇りであり、唯一の救いだと、アマリアは、自分に言い聞かせてきたのだ。
だからこそ、理解できなかった。
彼女達の誇りまでも、踏みにじっている気がして。
「復活する神は、本当に、良い神様なのかって考えた事は?」
「……良い神ではないと?」
「かもしれないな」
ラストは、彼女達が、捧げている神様が、本当に、良い神様なのかと疑問を抱いているようだ。
もしかしたら、悪い神様の可能性だってある。
そう思った事は、本当にないのだろうか。
もちろん、アマリアはない。
今まで、盲目的に信じてきたのだ。
帝国の事も、封印されている神の事も。
だが、今は違う。
疑うという事を覚えた。
ゆえに、ラストに問いかけたが、ラストは、曖昧な返事しかしなかった。
ラストは、知っている気がしたのだが。
だからこそ、帝国を滅ぼすと宣言したのではないかと。
ラストは、そのまま、歩き始める。
アマリアとは、反対の方向を。
答えを残してくれなかったのだ。
ゆえに、アマリアは、悩んだ。
「だとしても、なぜ、殺し合わなければ……」
アマリアは、拳を握りしめる。
仮に、封印している神様が、悪い神様だとしよう。
だとしても、なぜ、ヴァルキュリア同士で、殺し合わなければならないのだろうか。
アマリアには、理解できなかった。
食い止めるだけでは、本当に、駄目のなのか。
手遅れとは、一体、どういう意味なのだろうか。
アマリアは、思考を巡らせるが、答えは出なかった。
その日の夜、ヴィオレットは、夢を見る。
それは、二年前、ルチアを刺した時の事だ。
しかも、魔剣で。
「っ!!」
悪夢から目覚めたヴィオレット。
勢いよく体を起こした。
だが、全身は、汗をかいている。
ヴィオレットは、何度も、荒い息を繰り返していた。
うなされていたのだろう。
すると、ヴィオレットは、自然と涙を流していた。
無意識のうちに。
「ごめん、ルチア……」
ヴィオレットは、ルチアに謝罪する。
もう、会うことができない彼女に。
ヴィオレットは、ずっと、後悔していたのだ。
ルチアを殺してしまった事を。




