第3話
翌日のこと。
「ほら、今日も遅れが出てますよ!」
王宮の調理場にて。今朝もまた、給仕長の大声が響き渡っている。「まったく、朝からこれでは・・・・・・」と、やはり不機嫌な様子で給仕師らに指示を出している。
下働きのツムギもまた、いつものように給仕長などに怒られつつ・・・・・・はあ。その、″いつもの仕事″が出来たら、どんなに良かっただろうか。
今朝のツムギは、特に調理場のあちこちを行ったり来たりすることもなく、調理場の隅で何となく佇んでいるという、働き手としては何とも無為な時間を過ごしているだけだった。
「おい、ツムギ!向こうの野菜室から・・・・・・」
と、先輩の給仕師。「野菜を持ってこい」と、いつもの調子で言おうとしたその先輩を、
「こら」
と、給仕長がたしなめた。
「ツムギの担当は」
給仕長がそう言うと、その先輩は「あ!」と気づく。
「そうだった!」
大声を上げ、
「いや~頼むなぁ~ツムギっ!!」
と、ツムギの背中やら肩やらをバシバシ叩いてくる。
【冬の女王】の、食事の給仕を担当するべし。
その【冬の女王】からの命令を、ツムギが給仕長に伝えると、その調理場で働く皆から、どよめきが起こった。
ある者は驚き、またある者は「大出世じゃないか!?」と妬み。
給仕長に至っては「本当に素晴らしいことですっ!!」と、まあ見事なまでの手のひら返し。朝の、仕方なく配膳をツムギに任せたという態度からの、満面の笑みだった。
【冬の女王】の機嫌を損ねることなく戻ってきた。
それは、給仕長にとって何よりの成果なのだろう。
ツムギにとっては、いきなりそんな役目を負うことに、ただただ戸惑うばかりだったが。
「くれぐれも・・・・・・」
と、給仕長。「くれぐれも、失礼のないように」という、いつもの忠告を受けて。もちろん、それはツムギも理解していた。
もしも、【冬の女王様】の機嫌を損ねたりしたらーー最悪の場合、そのせいで二度と冬が終わらなくなればーー
自分の新たなお役目の重要さに、ゾクリとするものを背負いつつ。ツムギは今朝もまた、【季節の塔】の【冬の女王】の元へ、食事の配膳に向かった。
○○○○○○○○○○
さくり、さく。
今朝は、冬晴れ。
雪が止んでいるので、昨日よりは幾分寒さも和らいでいる。
雪も、そんなに深くは積もっていない。
庭師の者が、やはり通りやすい道にしてくれていた。
さくり、さく。
時おり、道の脇に降り積もった雪を踏み、その感触を、一人ひそやかに楽しみつつ。
おっと。仕事だ、仕事。
さて。そろそろ、【季節の塔】の尖塔部分が、ツムギの目に見えてくる頃合いだった。
「ん?」
と、ツムギ。
ふと庭道の先に、何やら揺れる影らしきが、見えた気がする。自分の背よりひと回りは大きな配膳台を押しつつなので、何かにぶつけてしまっては大変だ。
適当なところでその配膳台を止め、ツムギは庭道の前方の確認に歩いて向かった。
「おや」
その先に、どうやらひとの姿らしきがあるのを見つける。遠目に、何やら右へふらふら、左へふらふらとしており、雪に足を取られ苦労しつつ前へ行こうとしているのは、明らかだった。
「あ」
転んだ。
そのひと影が雪の地に突っ伏すように倒れてしまったのを見て、ツムギはそのひと影の側に駆け寄る。雪に足を取られないよう気をつけつつ、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
「んぅ~っ・・・・・・」
庭道の脇の、雪の山。そこに顔をうずめて倒れる、一人の女の子。その周りには、その子が運んできたと思われる分厚い本の数々。
色々と驚く面も多かったが、ツムギは「大丈夫!?」とその子の側に屈んで、雪の中から起き上がるのを助けた。
「冷たぁ~いっ」
白雪にまみれたその子のあちこちを、ぱたぱたと払い落としてやる。
薔薇色の・・・・・・たとえば、桜のように淡い色の髪の毛の持ち主だと、ツムギは遅ればせながら気づいた。
「あ」
と、ツムギ。はっ、とその子をあらためて見つめて、
「し、失礼しました・・・・・・っ!!!」
と、慌ててその子から離れ、ほとんど地にひれ伏すように頭を下げた。
「【春の王女様】!!」
目上の、王族の人間に取るべき作法を取る。一方、雪の中から起き上がった少女は、
「ん~ありがとぉ」
と、のん気な様子でツムギに礼を述べる。それから、「あ~本、本っ!」と、辺りに散らばってしまった書物の数々を、一冊ずつ拾い始めた。
「ど、どうぞ・・・・・・」
慌てて、ツムギもまたその本の一冊ずつを拾いに走る。あらかた拾って、やはり平身低頭の姿勢で、【春の王女】に差し出した。
「ありがと~」
やはり、のんびりした口調で。「えっ、と・・・・・・あ、大儀であったぁ~!」と、あえて仰々しいお言葉を遣い、「何~んてね!」と、陽気に笑うまでした。
【春の王女様】は、現【春の女王様】の一子の娘で、【冬の女王様】が新たに就任したのを期に、次の【春の根づき】で次代の【春の女王】に就くことが決まっていた。
「″ユキネ″ちゃんの、朝食?」
とその少女、現【春の王女】。ツムギが運んできた配膳台が庭道の向こうにあるのを見やりつつ、ツムギに尋ねてくる。
″ユキネ″とは、【冬の女王】の御名前で、無論それを呼べるのは同じ王族あるいは、名を呼ぶのを赦された者のみ。
【春の王女様】は、【冬の女王様】の御姉妹にあたられるお方だ。
「は、はい・・・・・・」
「じゃあ。行かないとねぇ~」
その詞に、ツムギは一礼し立ち上がって、配膳台のある向こうへと駆け足に向かう。王族とのやり取りで恐縮しつつ、しかしあらためて自分の役目を果たそうとした。
「一緒に、行こっかぁ~!」
と、配膳台を手押しするツムギの後ろから、【春の王女様】がついてくる状況になったものの。
だ、大丈夫なのかな。
・・・・・・はあっ。
○○○○○○○○○○
少し寄り道みたいになりつつ、間もなく【季節の塔】に着く。
塔の扉が見えてきた辺りで、ツムギが慎重に配膳台を運ぶその横を「ユキネちゃん~っ!」と、【春の王女】がすり抜けるように駆けていった。
ああ、そんな雪道を走るのは・・・・・・あ。ちょ、危ないから!
本の束を抱えた【春の王女】が「おっとっと!?」と、再び転びそうになるのを、ツムギは心もとなく見守る。
幸い、転ぶことなく塔の扉まで着いたらしいので、ホッと胸を撫で下ろした。
「今日も、持ってきたよぉ~っ!!」
ドン、ドンと本の束を小脇に抱えつつ、【季節の塔】の観音扉を叩く【春の王女】。
ドン、ドンと。
さすがに三回、四回と叩かれた頃に、【季節の塔】の主が、
『・・・・・・うるさい』
と、声を上げるのが、ツムギの耳にも聞こえた。
「今日も、お仕事お疲れさまぁ~!!」
お姿こそ見えないものの、今日も塔の中にいるであろう【冬の女王】に、【春の王女】が朗らかに挨拶をする。
『″コハル″ちゃんは、今日も相変わらずね』
と、【冬の女王】。
″コハル″とは【春の王女】の名前だと、ツムギのような者でも確か公のどこかで聞いたことがあった。
「こんな感じで、良いかなぁ?」
自らが抱えてきた本の束を持ち上げつつ、【春の王女】がそう問いかける。
『ええ』
と、ツムギの目の前で、そんな微笑ましいやり取りがなされる。
王族の者に対しては大変に不敬な感想かもしれないが、きょうだいのいないツムギとしては、【冬の女王】と【春の王女】との″姉妹″のやり取りは、まぶしいものに見えるのだ。
『あ』
と、【冬の女王】。どうやら、配膳台を押してきたツムギの姿に気づいたようだった。
『そこに』
朝食の載った配膳台を、やはり観音扉の前に置けと【冬の女王】がツムギに命じる。
ツムギは「失礼します」と断りを入れて、配膳台を塔の扉の前に置きに行く。
「ユキネちゃん、さあ」
と、【春の王女】。
「そろそろ・・・・・・だよねぇ~?」
意味ありげな、まるで扉越しにないしょ話でもするかのような、そんな様子で。
ツムギは、自分が王族の話すそれを耳に入れて良いものなのかと気まずい思いをしつつ、とにかく自分の仕事に専念した。
『また・・・・・・』
またその話しかと、【冬の女王】が呆れたように呟く声が聞こえてくる。『前にも言ったけど』と前置きし、
『私は″そういうの″、どうでも良いのよ』
と、 にべもなく返す。「えぇ~?でもさぁ」と【春の王女】がなお言いかけると、
『コハルちゃん』
と、有無を言わせない言葉を挟んだ。
「ん・・・・・・あっ!?」
そのひと言で、【春の王女】はハッと顔を上げ、ちょうど配膳台を扉の前に置いたツムギに、その目線をとめる。
どうやらそれは、やはりツムギのような立場の者が聞いてはならない会話のようだ。
「えっ、と。こちらに、朝食を置かせて頂きますので」
そう言って、ツムギはその場から引き下がる。
今朝は、【冬の女王】から特に何か言われることもなく、ホッとした思いで城へと引き揚げていく。
「ユキネちゃんは、相変わらず″カタい″んだから~!」
などと、【春の王女】が【冬の女王】をコロコロからかう言葉を、背に聞きつつ。
ツムギは一人、来た道を城へと引き返していった。
○○○○○○○○○○
さくり、さく。
雪を踏む、ひそやかな楽しみを。
帰りは″仕事″の時間に追われる心配などもないので、心ゆくまで雪を踏みしめ楽しむことが出来た。
さくり、さく。
右の雪山をさくり、左の雪山をさくりとしつつ、朝食を運ぶときよりはのんびりした歩調で、城へと向かっていく。
と、そのときだった。
「どぉ~んっ!!!」
不意の、こと。
ツムギは、背中から大きな衝撃を受けて、文字どおり吹っ飛んでしまう。
道脇の雪の盛られた山に頭から突っ込み、視界は雪の白一色に埋め尽くされた。
「ぷ、は・・・・・・っ!?」
雪山の中から、何とか自力で頭を引っこ抜くツムギ。すると、
「えへへ~っ!」
ツムギの背中から腰元にかけて、ひっしり抱きついている少女の姿があった。
「は、【春の王女様】・・・・・・!?」
驚き、というか頭の中が「っ?」と疑問符でいっぱいだったが。とりあえずその場に身を起こして、
「だ、大丈夫ですかっ!?」
と、【春の王女】を気遣う。
も、もし王族の者にケガでも負わせてしまったら・・・・・・。
「冷たいねぇ~!」
と、【春の王女】。純心な、可愛らしい瞳がこちらを見つめているのが分かり、とりあえずケガはなさそうだとツムギはホッとした。
ツムギにとって、首の皮がつながったとはまさにこのことであろう。
「ユキネちゃんのご飯、ご苦労さまぁ~っ!」
ツムギの労をねぎらい、「よいしょ!」と立ち上がる【春の王女】。このお方は、臣下や民の誰に対しても分け隔てがないとの評判である。
しかし、評判以上に″おてんば″なお方・・・・・・いや、内心でもそんな感想は失敬だろう。
「立てる?」
と、身を起こしたツムギの前に、【春の王女】自らお手を差し出してくる。「あ、えと!?」と、ツムギはおそれ多い気持ちになりつつ、しかしせっかくの厚意を断るのもそれはそれで失礼にあたるため、「ありがたき・・・・・・」と、自分の手を頭上に出す。
決して、自分の方から王族のお手を取ってはならない。
まあ、この国で生きる者には当然的な儀礼だが。
『ん、しょっと!』
そのツムギの手を取り、【春の王女】はツムギを立ち上がらせた。まあ、王族の者からこのような情けを受ける場合、ツムギが自力で立ち上がるように努めるのが、やはり当然的な儀礼なのだが。
「お城まで、一緒に帰ろう?」
と、【春の王女】。
え。
さっきから、いち庶民のツムギに、とんでもないことばかりが起こり続けている気がする。
な、何か最近ツいてるのか、ツいてないのか・・・・・・。
「は、えと。御意に!!」
当然、ツムギに拒否権などないので、ツムギはやはり深々と一礼し、【春の王女】の行く半歩後ろを絶えず保ちつつ、城へと続く庭道を歩いていった。
○○○○○○○○○○
そして、その日の午後。
【冬の女王】を【季節の塔】から出てくるように仕向けた者に褒美を取らせるとの王様の布令が、【ハーネスの国】の領内にあまねく広く届けられた。
未だ、【ハーネスの国】の冬に終わりは見えない。
・・・・・・え、と。薔薇色とか、まず童話に出てくる単語じゃねえですよね(焦)
ま、まあ。たとえば『桜のような~』とか書いてるんで、それなら分かる、、、ん、大丈夫か!!
とりあえず、書きたいことを書いてから童話っぽいものを、、、あらためて作ろかな~と(時間あるんw?と一人ツッコむ)
とにかく完結目指そ。。。




