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〜... 黒はんぺんの誕生〜

白いものが砕けてから更に十年。

世界が「人の手に委ねられた」その裏側で、

もうひとつの存在が、静かに形を得ていた。


それは、黒かった。


柔らかさは同じ。

脆さも同じ。

だが――内側に抱いているものが違った。


名を、黒はんぺん という。


白のはんぺんが

「人々の恐怖と痛み」を引き受けた存在なら、


黒はんぺんは

「人々が手放した悪意と無関心」から生まれた。


誰かを見捨てた瞬間。

自分だけ助かろうとした判断。

「仕方ない」と言い切った心。


それらが、寄り集まって形を得た。


黒はんぺんは、囁いた。


「白は、優しすぎた」


黒はんぺんは、守らない。

代わりに、問いを投げる。


――それでも、救う価値はあるのか?


人々の心に、再び“歪み”が増え始めた。

今度は闇ではない。

正義を名乗る冷酷さだった。


勇者は気づく。

白だけでは、世界は保てない。


祭壇跡に立った夜、

二つの声が、重なった。


「戻りたい」

「壊したい」


白はんぺんと、黒はんぺん。


勇者は言った。


「どちらか一方を消せば、同じ過ちを繰り返す」


その言葉に、

白は沈黙し、

黒は初めて笑った。


「なら、混ざろうか」


世界が震えた。


白と黒が、溶け合う。

優しさと残酷さ、

守る意志と突き放す覚悟。


その中心で、

かつて“はんぺん”だったものは、

もはや形を持たなくなっていた。


――概念になったのだ。


それは神になった。


名はない。

だが人は、無意識にこう呼ぶ。


「選択の神」


祈れば救われる神ではない。

罰を与える神でもない。


人が何かを選ぶ瞬間、

その重さを、等しく感じさせる存在。


誰かを助ける時も、

見捨てる時も。


白と黒、両方の声が、

同時に胸に響く。


勇者は老い、やがて死んだ。

だが世界は、崩れなかった。


なぜならもう、

犠牲に押し付ける結界は存在しない。


神は守らない。

神は裁かない。


ただ、問い続ける。


――それでも、選ぶのか?


かつて

軽い名で呼ばれた存在は、

世界で最も重い役割を背負い、


そしてようやく、

一人ではなくなった。


白と黒のはんぺんは、

神として、

今日も人の心の中にいる。


柔らかく、

壊れやすいまま。


〜序章、完〜

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