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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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267 フェニックスの契約、スカイの願い

 私が最上級の治癒魔法をライデンさんに施そうとした瞬間、部屋中が緋色の光に満たされた。一瞬、敵かと思い、白竜の杖(ロッドオブアドニス)を剣に変えようとした。


 しかし、その光は慈しみと生命力に溢れ、触れる者の体と心を癒し、私の魔法にも影響を与えた。


万死超克の福音(リザレクション)


 白竜の杖から放たれた白き慈光に、赤き聖光が重なる。そして、それがライデンさんに降り注ぐと、焼け爛れて黒く焦げた肉体を瞬時に修復した。


 完全に肉体が戻ったライデンさんだったが、やはり目を覚ますことはなかった。誰もが唇を噛み俯く中、スカイだけは目を見開き、私の背後を見つめていた。


不死鳥(フェニックス)、まさかお前……」


 スカイが呟いた。振り返ると真紅の不死鳥が翼を広げ、力強く鳴いた。その瞬間、飛び立って急降下する。


 不死鳥は真っすぐライデンさんを見据え、その胸に突っ込んだ。誰もが衝突すると思ったとき、再び緋色の閃光が迸り、二つの影がひとつに重なった。


 緋色の炎に包まれるライデンさん。その炎は肉体を燃やすことなく、凄まじいほどの生命力を与え、無数にあった古傷さえも消し去った。


 やがて炎は収まり、ライデンさんの鼓動は力強く脈打ち始める。浅かった呼吸も深くしっかりとしたものへと変わった。


 全員が呆然とする中、聖女の私と神獣たちの王――スカイだけは分かっていた。


 不死鳥(フェニックス)が自らの権能――『再生の力』を使い、ライデンさんの肉体と魂を蘇らせたのだ。


 だが、蒼炎の翼を含む四翼に支配され、衰弱していた不死鳥は、権能を十分に使うことはできなかった。


 だから、不死鳥はライデンさんと同化し、灰からでも復活する極限の生命力を分け与えたのだ。


 不死鳥とひとつになったライデンさんは、もはや不死身の肉体を得たと言っても過言ではない。二つの魂は混じり合い、今も激しく燃えている。


 思わずスカイを見やると、彼は肩をすくめた。


「まあ、不死鳥(あいつ)が自ら望んだことだ。しばらくはライデンさんの中で、ゆっくりと休むことにするんだとさ。心配させたくせに、呑気に寝ているよ」


 困惑ぎみに告げるスカイを見つめる。その瞬間、ミゲイルの記憶が蘇り、熾天使ウリガルの姿と重なる。


「……スカイ、あなたも熾天使(ウリガル)の記憶と力が戻ってきているのね」


 その言葉にスカイ――ウリガルは小さく頷き、悲しく笑った。


 そして、目を細めて、心配そうにライデンさんの隣で膝をつくアッくんを見つめるのだった。





 ウリガルの記憶と力を取り戻しつつあることを、サラとミゲイルにも気づかれてしまった。


 あと二年は猶予があると思っていたが、残りの時間は少ないかもしれない。この探索で神竜バハムートとの同調が進み、一気に力が戻りつつある。


 ――完全にウリガルとして復活すれば、俺は神界に戻らなければならない。


 ルキフェルとの約束を守るために、悠久の時間をかけて人界に留まり、神気を使い果たした俺は、(せい)を繰り返してきた。


 だが、親友(ルキフェル)は罪を償い、我が主から許され、ついには転生を果たした。いずれ神界に戻るだろう。


 ――その前に人間同士の真剣勝負でアークに勝ちたい。


 (スカイ)の切なる願いを叶えるためにも、獣王の試練を乗り越え、竜覇王虎武闘大会の早期開催をガリュウに求めなければならない。


 開催を希望するなら、来年の夏休みだ。そこでアーク(・・・)スカイ(・・・)の決着をつける。


 本当は卒業式までは一緒にいたかったが、難しそうだ。


 アークと過ごすわずかな時間――それすら熾天使の役目を放棄した俺には、贅沢な時間なのかもしれない。


 ルキフェルはアークとして、人間の(せい)を全うしたあと、神界に戻ることになる。


 我が主がそれを望んでいる。だからこそ、天使ではなく人間としてルキフェルを転生させたはずだ。


 天使にとって人間の人生なんて一瞬だが、スカイとして生きた時間が心に深く刻まれた俺には、少し長く感じる。


 思わず目を細め、アークを見つめる。そのとき、意識を失っていたライデンさんがゆっくりと起き上がった。


「……ん、ここは、あの世ではないようだな。まあ、目の前に天使がいるから、もしかしたら天国かもしれんが」


 そう呟き、ライデンさんはアークとサラを見て笑った。思わず二人はお互いを見て、天使のままか確認し合う。その様子を見て、全員が声を上げて笑い出した。


「ふっ、冗談はさておき、なんで俺は生きているんだ?」


 ひとしきり笑ったあと、ライデンさんは立ち上がり、自らの体を確認する。肩を回し、手を握ったり、開いたりする。


 衣服は炎でボロボロになったが、その上を覆う鎧が肌の露出だけはかろうじて防いでいた。サラとフォルテは目のやり場に困っている。


 俺は肩をすくめると、部屋の隅で待機していた青き雄牛――ゴズを呼び、背負わせた荷物から衣服を取り出してライデンさんに渡した。


「……助かった、スカイ。鎧がなかったら、ほとんど裸だな。仕方ないとはいえ、王女や聖女の前に立つ姿じゃないな」


 そう言って衣服を受け取ると、ライデンさんは着替えるための物影はないかと探し始めた。


 そのとき、ガリュウが声をあげた。


「ライデンはじっとしていろ、そんな姿でうろつかれても困る。それに、もう夕方だ。今日はここで休むぞ。悪いが、アークとスカイはすぐにテントを準備してくれ。ライデンを休ませたい」


 そう言ってゴズから荷物を下ろすと、テントを詰め込んだ巨大な背嚢を俺に向かって投げた。


 ボスッ、と鈍い音とともに両腕で受け止めると、あまりの重さによろけそうになる。その瞬間、アークの手が伸びて俺を支えた。


 振り返るとアークが笑顔を浮かべ、その背後ではサラとフォルテが半目で睨んでいた。


 嫉妬する二人の顔にミゲイルとサタナルの面影が重なり、思わず長いため息を吐いた。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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