266 魂を削る一手、不死鳥の解放
残りは右側の二翼のみ。すべてを斬り伏せたかに思えたが、ちゃんとサラは二翼を残しておいてくれたようだ。
――片方だけでは飛ぶこともできず、残った二翼が邪魔をして重心はぶれ、激しく動くことも不可能。いっそないほうが動きやすかったはずだ。
俺が何も指示していないのに、全員が意図を察して動いてくれた。
今もスカイは俺の前に立ち、無数の羽の刃を薙ぎ払っている。人間の俺では、あの火傷と凍傷を同時に与える攻撃を受ければ、ただでは済まない。
人外の仲間を持つのは頼もしいが、その分苦労もする。できれば早く試練を終えて、第3師団の部下たちと気楽に魔物を討伐したい。
思わず部下たちの顔がよぎり、苦笑いを浮かべた。
やがて蒼炎の不死鳥に近づく。アークたちが左側の翼を刈り取り、サラが二翼を残してくれたおかげで、不死鳥は均衡を保てず、右に傾いている。
俺はスカイからもらった油が入った竹筒を不死鳥の足元に放り投げると、すぐに魔法を展開した。
「大地牙突」
その瞬間、地面に無数の石槍が生え、不死鳥の足元と竹筒を貫いた。
ただでさえバランスが悪かった体勢はさらに崩れ、竹筒から漏れ出た油に足をすくわれて、盛大に倒れた。
振動が足裏に伝わる。地面に横たわる不死鳥を見据えると、蒼炎の翼は重なり、羽を飛ばすことができない。
「スカイ、一気に行くぞ! その槍で二枚とも串刺しにしろ!」
スカイは頷くと同時に、真紅の翼を広げ、天井まで飛翔した。そして、猛烈な速度で蒼炎の翼を目がけて落下した。
突き出した神槍バハムートは紅蓮の神炎を纏うと、蒼炎の翼を貫き、地面に縫い留めた。直後、不死鳥が悲痛の鳴き声を上げた。
俺は眉を下げながらも、大剣を上段に構えると、最大限まで身体強化を施した。力なく見つめる不死鳥と目が合う。
目を閉じて歯を食いしばり、怒りを抑える。
――すまん。
心の中で詫びると、再び目を見開き、全力で蒼炎の翼に大剣を振り下ろした。
◆
ライデンさんが翼を目がけて大剣を振り下ろすと、二枚とも根元から断ち切られた。それでも蒼炎の翼は、不死鳥に戻ろうと切断面から触手を伸ばした。
だが、スカイが二翼を貫く神槍をさらに深く突き刺すと、緋色の火柱が迸り、蒼炎の翼を燃やし尽くした。
すべての翼から解放された不死鳥が纏う炎。それが青から緋色へと変わろうとした――そのとき、背中の奥に入り込んでいた蒼炎の核が輝き出した。
再び六翼を復活させようと、蒼炎の核は不死鳥の無限の生命力を吸い取り始める。誰もが息を呑む中、ライデンさんだけが動いた。
大剣を放り投げると、すぐに不死鳥の背中に飛び乗る。ジュッ、と靴底が燃え、ライデンさんは苦悶の表情を浮かべた。
だが、それでも下りることはなく、獄炎が立ち昇る背中にしがみつくと、青く輝く核を目がけて手を突っ込んだ。
すでに炎で焼け爛れた手を必死に伸ばし、核を掴もうとする。不死鳥もライデンさんを傷つけまいと火力を抑えるが、全身は炎に包まれていた。
それでもライデンさんは懸命に蒼炎の核を抜き取ろうと足掻く。しかし、ただの人間であるライデンさんは、すぐに限界を迎える。
意識を失い倒れる――と思った瞬間、ガリュウが現れてライデンさんを支えると、大声で叫んだ。
「しっかりしろ、ライデン! あと少しで不死鳥を解放できる――頑張るぞ!」
その瞬間、全員が動き出した。フォルテは氷の魔弾を放ち不死鳥の炎を抑え、サラはミゲイルから主導権をもらうと、すぐに治癒魔法をライデンさんに施す。
そして、俺が手甲から魔糸を飛ばすと、ガリュウは片手で受け取り、ライデンさんと自分の体に巻きつけた。
その瞬間、サラの治癒魔法のおかげで意識を取り戻したライデンさんが、咆哮を上げながら蒼炎の核を抜き取った。
真っ黒に焦げた腕を掲げるライデンさんを見て、俺は慌てて魔糸を力強く引いた。
ガリュウはライデンさんを四腕でしっかりと掴むと、魔糸に引っ張られながら不死鳥から落ちた。
地面に直撃する瞬間、ガリュウはライデンさんを庇い、強く背中を地面に打ちつけた。その衝撃で蒼炎の核はライデンさんの手から滑り落ちる。
意思を持つかのように不死鳥へと向かって転がる蒼炎の核。だが、その目の前にはスカイが立ちはだかる。
いつになく怒りを露わにするスカイ。それに呼応するかのように、神槍バハムートの穂先は激しく震え、神炎が揺らめく。
容赦なくスカイが神槍を振り下ろす。その直後、穂先は再び竜の顎へと変わり、蒼炎の核を飲み込み、すべてを燃やし浄化した。
ジュッ、と一瞬だけ燃える音が響き、焦げた匂いが室内に満ちた。
視線を上げると、不死鳥は本来の緋色の炎を纏い、紅蓮の大きな翼をはためかせていた。
だが、俺たちは安堵の息を吐く間もなく、すぐに満身創痍のライデンさんのもとへ向かった。
「サラ、ライデンさんは大丈夫?」
天使化を解いた俺は、すでにライデンさんの治療を始めるサラの隣に降り立ち、容態を尋ねた。
「……ええ、安心して。最上級の治癒魔法で肉体は治ると思うわ」
そう答えたサラの表情は暗い。彼女なら瀕死の重傷でも難なく治療できるはずだ。それに白竜の杖もある。
人外すら癒す規格外の杖。それを以てしてもライデンさんを癒すことは難しいということなのか――。
俺の表情に気づいたサラが首を横に振る。
「肉体は復活できると思うの。ただ魂まで傷ついていて……。おそらく蒼炎の核に直接触れたせいだと思うわ」
その言葉に息を呑む。白竜の杖なら魂すら癒すことができるはずだ。フォルテのときは、それで命を繋ぎとめた。
訝しげに見る俺に、サラは眉をひそめた。
「フォルテの場合は、消耗していただけよ。ライデンさんは魂そのものが傷つき、欠けている。白竜の杖でも難しいと思う。アドニス君がいれば、その権能で魂を修復できたかもしれないけど……」
力なく告げる彼女を見つめ、呆然と立ち尽くす。全身は焼けただれ、蒼炎の核を掴んだ腕は消し炭のように真っ黒になり、原型を留めていなかった。
全員が何も言えず、かすかに呼吸をするライデンさんを見つめる中、突然影が落ち、緋色の閃光が煌めいた。
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