228 王冠は息をやめ、仲間は息を呑む
フォルテが、鉄の塊と化した双顔の巨王に魔弾を撃ち続けている。
ワイバーンすら一撃で葬る威力の魔弾だが、もはやかすり傷ひとつ付けられない。
隣ではアッくんが心配そうに見守っている。その横顔に唇を噛む。あれほどの大見栄を切っておいて、最愛の人を不安にさせるとは――。
思わず、白竜の杖を握る手に力が入る。
それでも攻撃が通じない相手に、フォルテは攻めの手を緩めない。さまざまな属性を付与して猛射する。
爆音と炸裂音が室内に響き渡り、火薬と硝煙の匂いが満ちる。少しだけ喉の奥がきな臭くなる。
集中砲火の中、巨王の体は鉄から鋼へと変わり、今は金剛石のような輝きを放ち、一切の攻撃を受け付けない。
それでも火力の手を止めないフォルテ。意味がわからなかった。弱点を探るにしても長すぎる。ついに我慢の限界に達し、援護に入ろうとしたとき――。
フォルテはこちらへ銃口を向けた。
◆
進化を続ける双顔の巨王に、反撃の隙を与えず、猛攻を浴びせる。
降りしきる魔弾の中、巨体を丸め必死に耐えている。浅黒かった肌は、光をはね返す硬質のきらめきを放ち、魔弾が当たるたびに澄んだ破砕音を響かせた。
巨大な金剛石の塊と化した巨王を見て、口角が上がる。関節を含めた全身を硬質化し、身動きひとつできない。
歪んだ合成は、他のすべてを置き去りにする急激な進化で、自ら矛盾を生み、生物としての整合性を崩壊させた。
微動だにせず鎮座する金剛石の王を一瞥すると、振り返って銃口を向ける。
サラが目を見開き、とっさに白竜の杖を構える。その姿に自然と口元が綻ぶ。ちょっとした悪戯を反省して、かすかに照準を下げると引き金を引いた。
金属を裂くような甲高い音が響き渡り、巨大な王冠を貫く。
次の瞬間、中央にはめ込まれた深紅の宝石がドロリと崩れ落ちた。誰もが目を見開く中、さらに炎を付与した魔弾を撃ち込む。
地面に垂れ落ち広がる深紅の液体は、瞬時に焼き尽くされた。後には猛烈な刺激臭が残り、咳を誘った。
◆
フォルテがこちらに向けていた銃口をわずかに下げ、王冠に魔弾を二発放つと、中央のルビーが溶け落ち、燃え尽きた。
ちらりとサラに視線を移すと、汗が頬を伝っていた。悪戯にしては、心臓に悪い。
質の悪い冗談に冷や汗を流す俺たちに笑顔を向け、歩み寄ってくるフォルテ。その背後には、異様な輝きを放つ金剛石の巨体が佇む。
戦いが終わりとは限らない。警戒を解かず巨王を見据えていると、パキッと乾いた音が響いた。それは次第に頻度を増し、大きくなっていく。
その音がどこから発しているか、気づいた途端、大きな亀裂が入って金剛石の山は粉々に崩れ落ちた。
驚愕する俺にフォルテが声をかけた。
「ふふ、驚きました、アーク? このサイクロプスは実は複合魔物だったんですよ。おそらくオーガの膂力とトロールの再生力。そして――」
そこで言葉を切って、彼女はルビーを失った冠を見つめる。正確にはその下の地面を焦がした燃えかすを。
それを見たフォルテは頷き、視線を戻すと話を続けた
「――そして、スライムの進化を合わせ持った人工生命体です。スライムのコアだけは王冠のルビーに擬態させていたようですが……」
彼女が告げた事実に言葉を失う。どのようにすれば、そんな化物が作れるのだろうか。想像を絶する技術に驚愕し、倫理観が欠如した思想に戦慄を覚えた。
呆然とする俺たちに、フォルテはその後も説明を続けた。
王冠のコアには膨大な魔力が内包され、それを進化の糧にしていたらしい。加えて、強固な結界も展開していた。
念のため魔弾を撃ったが、コアに届く前に弾き返された。そこで、彼女は何度も進化させてコアを魔力枯渇に追い込んだ。
やがて、二王は巨大な金剛石の山となり、動きを封じられる。そのころには、コアの周囲の空気は薄膜のように揺れて静まり、障壁は消えたらしい。
言葉が追いつかない。あれだけの時間で、相手の正体を見抜く洞察力と、的確な攻略法を見つけ出す知力に。
ただ見つめることしかできない俺にフォルテは笑みを深めると、スカイの方を振り向く。
「スカイ、これでいいですか? サタナルの力は十分に使ってみせたつもりです。真の一体化を目指す土台はできている。そう思いませんか?」
その言葉に眉を下げ、困惑する。「真の一体化」とは何を意味するのか分からない。不安を募らせる俺をよそに、スカイは肩をすくませ口を開いた。
「ああ、たしかに見せてもらった。神界のころのサタナルを彷彿させる戦い方だった。まあ、出発地点には立ったと言っていいかもな」
フォルテは満足げに頷き、スカイは苦笑する。そんな二人に何も言えず、見守っていると、ガリュウが声をかける。
「話の最中に悪いが、時間的には夕刻を過ぎている。ここなら入口の扉をしっかりと閉じておけば、野営しても大丈夫だろう。すぐに準備を始めるぞ」
その指示に全員が頷く。スカイとフォルテが気になったが、まだ余裕がある俺は、一人で入ってきた扉に向かった。
巨大な扉の前に立ち、仰ぎ見る。魔界の門ほどではないが、圧倒される。閉ざそうと触れたとき、音もなく動き出した。
とっさに後ろに下がり、周囲を警戒するが、敵の気配はない。扉を見やると、その無骨さとは裏腹に滑らかに閉じた。
――隙間なく塞がれたことが不安となり、胸をかすめた。
だが最悪の場合でも、フォルテと協力すれば、地上に全員を転移させることが可能だ。そのために遺跡入口の座標は把握している。
短く息を吐き、気持ちを落ち着けると、扉の前に土魔法で巨大な壁を作り、閂の代わりにする。
念のために扉に触れたが、壁に阻まれ微動だにしなかった。
しばらくは敵の侵入はないと判断した俺は、部屋の中央で精霊領域を展開し、野営の準備をしているサラたちの方へ歩き出した。
密室の重苦しい静けさの中で、わずかに冷気が頬を撫でた。その風に皮膚が粟立ち、三王へと続く扉に視線を向ける。
――その奥から人とも獣ともつかぬ唸り声が、かすかに耳に届いた。
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