226 十翼、二王の間へ
来月からペースが落ちます、たぶん( ;∀;)
あのとき、アークとスカイが魔法を重ねた。直後、想像を絶する一撃が放たれ、全員が言葉を失った。だが、本当に驚くべきは消費魔力だ。
二人は中級ほどの消費で、特級を超える威力を叩き出した。
まさしく開いた口が塞がらない――とはこのこと。しかもアークとスカイは、相殺するはずの魔法を逆に相乗へ転じ、増幅させた。
――幾万年の時を超えた親友だからこそ成せた技。少しだけ嫉妬しつつ、二人に声をかけた。
「さきほどの技は凄かったですね、アーク、スカイ。神界のころから変わらぬ友情から生まれた技、といったところでしょうか?」
私の称賛に二人は驚く。とくにスカイは目を大きく見開いている。
どうやら、ウリガルの転生体がスカイ――そのことに私が気づいていないと思っていたらしい。
苦笑する私に、スカイはばつの悪そうな顔で答える。
「なんだ、知っていたのか、フォルテ。俺がウリガルってことを。かなり記憶を共有しているんだ。……ひょっとして、まさか真の一体化を目指しているのか?」
私の目的に気づき、さらに驚くウリガル――もしくはスカイ。その隣でアークが訝しげに尋ねた。
「真の一体化って何? また無茶なことをしてるわけじゃないよね?」
星空のような瞳にまっすぐ射抜かれ、目を奪われる。サタナルと意識が深く重なったせいか、以前よりアークのことになると心が乱れる。
――だが、決して嫌ではなかった。
初恋をなぞるような新鮮さが心地よく、自然と口角が上がる。そんな私を、アークは半目で睨む。
「本当にこれ以上、心配させないでくれ、フォルテ。どうもサタナルの悪いところが似てきたようで、不安だよ」
思わず吹き出した。その顔は神界のころとそっくりだ。口を押さえ笑っていると、サラの声が届く。
「楽しそうね、三人とも。私も混ぜてよ。本当にあなたたちは、神界のころから仲がいいわね。ミゲイルがやっかむせいで、私まで嫉妬しちゃうじゃない」
頬を膨らませるサラ。――どうやらミゲイルも、サラとの同化を進めているようだ。心の結び付きをはっきり感じる。
神界のころのように四人で言葉を交わしていると、ライデンさんが肩をすくめて口を挟んだ。
「いい加減、おしゃべりは止めろ。ほら、二王の謁見が迫ってるぞ」
前に視線をやると、巨大な扉が見えてきた。そこには、たしかに古代文字で「二王」と刻まれていた。
アークとスカイのおかげで、ほとんどの魔物は掃討済みだ。ここまで順調すぎて、気が緩んでいたようだ。
私たちが一斉に頭を下げて詫びると、ライデンさんはニヤリと笑って告げた。
「わかったなら、それでいい。あと、アークとスカイが放った合体技―螺突赫殲みたいなことはしないでくれよ。寿命が縮む」
皆がキョトンとする。螺突赫殲――しっくり来る名だ。刹那の沈黙を破ったのはガリュウだった。
「おっ、いいな、それ! 本当にその通りだ。よかったな、二人とも。いい名前を付けてもらって。さすが、ライデンだ!」
誰も堪えきれず、一斉に笑いがこぼれ、回廊に響く。けれど、魔物は現れず、ただ顔を真っ赤にする二人が残っただけだった。
◆
二王の玉座に続く扉の前に立ち、思わず見上げた。一王と比べて、あまりの大きさに息を呑む。
ここまでに遭遇したオーガやトロールを思い返し、二王は大型の魔物だと想像する。ならば全員で一気に討伐したほうがいい。
そう考えた俺は、ライデンさんに提案しようとしたとき、フォルテがすっと手を上げた。
「すみません、ここは私一人に任せてもらっていいですか? さきほどは、サラばかりが、いい格好をしたので、次は私の番かと」
眉を曇らせる。サラもそうだが、少し緊張感に欠ける。フォルテを見据え、注意しようとしたとき、ガリュウの手が肩にかかる。
「少し待て、アーク。俺が判断する」
振り返ると彼は頷き、フォルテに鋭い眼光を向ける。それは殺気を含み、俺ですら緊張するほどだ。
だが、フォルテは柔らかく受け止め、笑みをこぼした。ガリュウはじっと見つめたあと、肩をすくめた。
「わかった、それほど自信があるなら頼む。もし危ないと判断したら、そのときは全員で討伐する。それでいいな、フォルテ?」
その言葉に静かに頷き、神銃アクケルテを腰のホルスターから抜き出した。どこまでも余裕のある彼女に、思わず眉が下がる。
――決して無茶なことだけは、しないでほしい。
俺の気持ちを察したスカイが、荷物を受け取りながらフォルテに注意した。
「分かっていると思うが、アークはお前やサラのためなら無茶をする。戦うなら圧勝してみせろ。真の一体化を目指すなら、力もサタナルと同じぐらい扱わないと無理だ。すべてはそこからだ」
真の一体化――その言葉に困惑する。
ルキフェルと一つになった俺の記憶にはない言葉。スカイが止めないのであれば、危険はないはずだ。それでも不安は残る。
そんな俺たちを見ていたライデンさんが、小さく息を吐き出すと、扉に手をかけた。途端、抵抗もなく静かに開いた。
次第に室内が見え、熱気を帯びた空気が漏れ出し、かすかに髪をなびかせる。人が通れるほどになり、中へと入った。
一王の部屋と比べ物にならないほど、広大な空間に絶句する。辺り一帯を見渡すと、回廊よりもさらに豪奢な柱や装飾が一面に並ぶ。
全員が周囲に目をやる中、フォルテはじっと正面を見据える。
その先には玉座に腰を下ろし肘をつく、途轍もない大きさの独眼の巨王――サイクロプスの姿があった。
俺たちに気づいた巨王は、深紅の瞳をこちらに向けるだけだ。さすがこの遺跡の支配者の一角。自ら出迎えることはなかった。
謁見を申し出たのは俺たちだ。前に進もうとしたとき、フォルテが一歩前に出て、手で制する。背を向け、表情は見えない。だが、凄まじいほどの気迫を感じた。
何も言えず、立ち止まった俺に、彼女はちらりと顔を向け、笑みを浮かべる。そして、歩き始めると、夜気を切る音とともに漆黒の翼が生まれた。
――それは歩くたびに現れ、彼女を夜に染め上げる。
やがて玉座の前に立つと、フォルテは黒曜石のように煌めく十枚の翼を広げた。
独眼の巨王は彼女に視線を落とし、厳かに立ち上がった。薄い重圧が床を伝い、足裏がわずかに痺れた。
その瞬間、巨王は王冠を投げ捨て、乾いた金属音が響いた。
その響きは、透明なさざ波のような揺らぎとなって室内に広がった。ふと足元を見ると、一枚の漆黒の羽が舞い落ちていた。
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