224 水精の契り
年末になると忙し過ぎます(T_T)
激痛が走り、息を忘れる。深々と刺さった剣に視線を落とす。視界の端には、涙を浮かべるアッくんが見えた。
――悲しませるわけにいかない!
白竜の剣を握る手に力を込め、神気を流し込む。その瞬間、運命は捻じ曲げられ、傷は癒える。
胸を貫いたはずの剣が押し戻され、裂けた衣服さえ元に戻った。腕を復元した代償は、返してもらう。
運命を変える――それには膨大な力のほかに、因果の等価交換が要る。
腕を戻したことで私は圧倒的に不利になり、その結果として胸を突き刺された。原因は私。だからこそ、その結果に介入できた。
ただし、原因と結果に大きな時間の隔たりがあれば不可能。今回は短い時間だからこそ成功した。
そして腕の復元には、もう一つ理由がある。……私にしか分からない理由が。
呆然とするデュラハン。私は微笑み、一気に力を解放する。
その瞬間、八枚の翼が金色に輝き、赤き神剣レーヴァテインが現れた。左手でそれを掴み、二刀の構えをとる。
右手に白竜の剣、左手に赤き神剣。その姿に、彼女の青い目がかすかに光る。強敵を前にした歓喜の色――。
私は内なるミゲイルに左半身を託し、猛然と突っ込んだ。
彼女も応じ、上段から剣を振り下ろす。白竜の剣で弾き返し、続けざま左の神剣で胴を薙ぐ。
彼女は素早く後ろへ跳び、剛撃を躱す。今までと異なる私の動きを注視している。
私とミゲイルは役割を決めていた。右半身の私は守り、左半身のミゲイルは攻め――。
まさに攻防一体。これこそが、私たちが辿り着いた形だ。
ミゲイルの技を共有する私と、ミゲイル本人。熾天使二人を同時に相手取るデュラハン。だが、警戒はしつつも闘志は衰えない。
静かににじり寄り、彼女は再び頭を放り投げた。大剣を両手で掴み、渾身の一撃を打ち込む。
切っ先が閃き、凄まじい衝撃が右腕を襲う。膝をつきそうになるが堪え、聖魔法を展開する。
「戦女神の光盾」
刀身に祝詞が浮かんで絶対防御の盾が現れる。刹那、彼女の剣が弾かれ、紅蓮の斬撃が迸る。
神剣レーヴァテインが彼女を斬っていた。脇から肩口まで深く抉る。
――勝負は、ついた。
彼女もそれを悟り、剣を離す。同時に落ちてきた頭を優しく受け止めた。青く光る目には後悔の色はない。大きく裂けた傷口から、紺碧の粒子が溢れ出る。
存在そのものが薄らいでいく。私は白竜の剣を振り上げ、彼女めがけて振り下ろした。
流れるような剣線が傷口をなぞる。その瞬間、眩い光が彼女を包み込んだ。
◆
勝負がついた。サラの勝ちだ。一時は胸を突かれ、顔面蒼白になった。しかし、理屈は分からないが、彼女は無傷だった。
そこからは一方的だった。両腕を取り戻し万全となったデュラハンを圧倒し、渾身の一撃すら弾き返し、一刀で斬り伏せた。
そして今、止めを刺すために白き剣が振り下ろされた。
瞬間、部屋が光で満ちる。真っ白に染まる視界。頬を温かな風がかすめ、ゆっくりと目を開いた。
そこには紺碧の鎧を纏った美しい女騎士の姿。彼女はサラの前で膝をつき、深く頭を下げていた。
サラが微笑むと、女騎士は背の剣を抜き、横にして差し出す。かすかに震える指を見やり、サラは優しく受け取り、両手で柄を持って肩に軽く当てた。
次の瞬間、彼女は背筋を伸ばして顔を上げ、青い光の粒子となってサラの手へ吸い込まれていく。
――その光景を前に言葉を失う。
呆然とする俺のもとへ、サラが笑顔で駆け寄り、そのまま抱きつく。俺は優しく受け止め、微笑みかけた。
「ごめんね、アッくん。心配したよね? でも大丈夫。怪我一つしてないから!」
安堵しつつ、先ほどの光景を思い出して尋ねる。
「よかった、無事で。それで――あのデュラハン、彼女はどうなったの? 浄化されたのかな」
サラは笑顔で首を横に振り、右手をすっと差し出す。人差し指にはめたサファイアの指輪が光った。
「彼女はここよ。哀しい因縁から解放されたの。隻腕で『ぶつけ切れなかった想い』という妄執も一緒にね。今は悪霊から水の精霊になって、私を守ってくれているわ」
サファイアがきらりと瞬く。
言葉が出ない。あれほどの攻防をしながら、救済まで見据えていたのか。腕を治したのにも、理由があった――彼女の未練を出し切らせるためだ。
サラの聖女としての矜持に胸が熱くなる。気づけば、俺はそっと彼女を抱きしめていた。
◆
熱い抱擁を見せつけられ、思わず苦笑した。若さゆえの暴走、とまでは言わないが。
――それにしても、サラには驚かされた。まさか精霊と契約するとは。
契約には器と同意の儀、そして維持する魔力が要る。どれが欠けても長くは続かない――それを一瞬で満たしてみせた。サラはやはり規格外だ。
さらに精霊に完全に心を許させ、なおかつ力でも納得させる――それが揃わなければ、契約は成立しない。
「信用」は心を通わせること、「信頼」は相手の想定を上回る力と責任を示すことで得られる。
下級の精霊ですら、この二つを同時に満たすのは難しい。精霊使いが少ない所以だ。
もはや大聖女という器では収まらない。力だけなら、アークすら凌ぐ。運命を覆し、魂すら癒す力は人の領域外だ。
笑顔でアークに抱きつくサラを見つめる。知らず知らずのうちに、背を冷たい汗が細かく伝う。
頼もしい仲間のはずが、恐ろしく感じてしまう。絶対にないと分かっていても、つい考えてしまう。
もし彼女が人類に敵対することがあれば、俺たちに抗う術はあるのだろうか。
彼女を優しく抱き締めるアークを見つめ、これからの世界の行く末は彼の手に委ねられている――そう思わざるを得なかった。
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