002 これからの方針
明けましておめでとうございます。
本日2投稿目です<(_ _)>
俺は体調が優れないと嘘をつき、学校を早退して寮に戻り部屋に籠っている。寮は全て一人部屋となっていて、誰にも邪魔されず状況を整理できた。
とりあえず、生まれ変わった?――この世界について確認していく。
この世界には魔法がある。魔法とは魔力を使い、様々な自然現象を起こすことができる方術だ。強大な魔法を使うには膨大な魔力を必要とする。
そして、多くの魔力を持っているのは貴族だけだ。俺は生まれてすぐに行った魔力量の測定で、5000と貴族の中では普通だった。
平民の魔力量が700~1000だから、それなりの魔力量と言えなくもないが、わずかとはいえ、王家の血を受け継いでいる公爵家の人間としては物足りない。
けれど、父や母をはじめ、兄弟、姉妹、家族全員が、魔力量が少ないからと言って、俺を差別することなく愛してくれた。
ちなみに長男のアルス兄さんは25000と俺の五倍もある。今は宮廷魔導士として働いているが、いずれカインズ公爵家を継ぐことは決まっている。
魔法には属性があり、火、水、風、土、治癒が基本属性。ほかに氷や雷といった特別な属性もあるが、全ての人が使えるのは基本の5属性のみだ。
また、すべてを習得するのは難しく、大抵は二〜三属性に絞る。
ただ、属性魔法以外にも基礎魔法として身体強化、物質強化、生活魔法があり、平民を含めた全員が使うことができる。
もちろん、効果は魔力量に比例するので平民のほとんどが生活魔法以外を使うことは少ない。
あとは、この世界ではあまり戦争はしない。人間は魔物という生き物と戦っており、人間同士で争っている余裕がない。
ただ、別に魔物と戦争をしているわけでない。人間より数が多く多種多様な種族がいる魔物が、俺たちの生活の中で、色々と弊害になっているだけだ。
魔物たちが家畜や人間自体を襲うのはもちろん、ゴブリンなど一部の種族は、女性をさらって種付けするといった無視できない被害を出している。
ただ、魔物の体内にある魔石という鉱物は、人間が生活する上で様々な場面で役立っている。
頭の中を整理していくとかなりの事が分かってきた。もしくは整理できた。
このまま何もせずに役人を目指すのもいいが、せっかく違う世界の知識や経験が残っているのだ。それを使わない手はない。
とりあえずは役人を目標にしつつ、忍びだったころに身につけた技術や武術を思い出し習得して、この世界でも役立つか試して行こう。
まずは全然、鍛えられていないこの体を鍛え直すことにした。
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前世の記憶を取り戻してから一年が過ぎた。
その間、忍びの修行を思い出しながら、ひたすら体を鍛え続けた。
ただ、幼少時に筋肉をつけ過ぎるのは良くないらしいので、無理にしないように気をつけ、必要最小限の筋力に留めることにした。
それに忍びの技術は速さと正確性が重要なので、必要以上の筋肉は重りにしかならない。
加えて、いざとなれば身体強化魔法があるので、無理に筋肉をつける必要はないと考え、体力、瞬発力、柔軟をメインに鍛えた。
おかげで初等部の二年生でありながら、高学年を凌ぐほどの運動能力を手に入れた。
ただ、忍びの性か――表に出てひけらかすことに抵抗があり、実力は隠したままだ。
とはいえ、武術の授業でも学年首位になっていた。ちなみに座学は、入学から常に一位を守り続けている。
「アーク、何、ぼうっとしてるんだ? また、イアンの奴に睨まれるぞ」
この一年間の努力を思い返していると、後ろから声をかけられた。教壇に立つイアンに見つからないよう、ちらりと振り向き答える。
「あぁ、ありがとう、スカイ。ちょっと昔のことを思い出していたんだ」
「そうか、ならいいが……。最近、武術の授業も頑張ってるようだから、無理してないか心配なんだよ」
スカイは少しだけ顔を曇らせ、すぐに講義に集中した。
……そういえば、最近は鍛錬ばかりしてスカイたちと遊ぶ機会が減ったような気がする。
体も十分に鍛えた。これからはペースを落としても問題ないだろう。放課後は久しぶりにスカイとジークを、町にでも誘おうと思った。
――――――――――――
「なんだか、久しぶりにアークと町に来たな。半年ぶりくらいか?」
「兄さん、そんなに経ってないよ。せいぜい2カ月ぐらいだよ」
イアンの授業が終わると、すぐにスカイとジークに学校の帰りに町にでも寄ろうと提案したら、二人とも喜んでくれた。
二カ月ぶりに訪れた町は、あまり変わっておらず、建ち並ぶ店の入れ替わりもほとんどなかった。
三人でゆっくり歩いていると、意外な人物と遭遇した。
長い銀髪を後ろでゆったりと束ねた美丈夫……カインズ公爵家長男のアルス兄さんが歩いていた。
「アルス兄さん、お久しぶりです。珍しいですね、兄さんがこんな場所にいるなんて」
突然声をかけられ、わずかに目を見開いたが、兄さんはすぐに優しく微笑みながら口を開いた。
「アークか。それに後ろの2人はスカイとジーク、三人は学校の帰りかい?」
「はい、久しぶりに町に寄って帰る途中です」
俺たちは頭を下げると、兄さんに町に来ている理由を尋ねた。
「ああ、護衛の任務で来たんだ。来年入学する予定の王女殿下の付き添いだよ。王都からここまでは距離があるから、念のためにね」
……なるほど、宮廷魔導士でも上級職に就くアルス兄さんが、王都を離れる理由となると、そう多くない。
たしか第五王女が、来年で六歳になるはずだ。
けれど、王族は学校に通うようなことはせずに、専属の家庭教師から学ぶはずだ。わざわざ学校で学ぶ必要はない。
俺の表情を見て何か感じたのか、兄さんは苦笑いを浮かべながら、説明を始めた。
さすが血の繋がった兄弟だ、僅かな変化でこちらの意図を察してくれたらしい。妙に感心しながら耳を傾ける。
「来年、入学予定のフォルテ殿下は、ある事情があってね、王宮にいられなくなったんだ。そこでどの国にも属していない学園都市に住むことが決まった。ついでにミューズネイト学園に通いたいという本人の希望も通ったというわけさ」
アルス兄さんが簡単に事情を話していると、部下らしき男が駆け寄ってきて耳打ちをする。
彼の説明を聞いた兄さんの表情が一瞬で険しくなる。すぐに何か指示を出そうとするが、俺たちがいることに気づき止める。
「すまいね、アーク。急用ができた。君たちも今日は、寮に帰った方がいい」
兄さんは笑顔で俺たちに帰るように促すと、部下の男と小声で言葉を交わしながら、この場を後にした。
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